音楽ナタリー Power Push - 藤田麻衣子
12のラブソングが織り成す とりどりの「恋愛小説」
今年9月にCDデビュー10年目に突入した藤田麻衣子。女心の代弁者として同性からの多大な支持と共感を獲得している彼女が、メジャー2作目となるオリジナルアルバム「恋愛小説」を発表した。
本作にはタイトル通り、さまざまな恋愛の曲が収められている。12編の愛のショートストーリーズ……その主人公のどれかはきっと聴き手によく似た“誰か”であるだろうし、例え自身の経験と違っていても、“恋”と“愛”について考えるきっかけになるのではないかと思う。新作を作り上げた彼女に「恋愛小説」の裏話を聞いた。
取材・文 / 永堀アツオ 撮影 / 入江達也
一番藤田麻衣子らしいアルバムにしたい
──メジャー1作目のアルバム「one way」から1年ぶりとなるニューアルバムが完成しました。制作前は、ご自身でどんなアルバムにしたいと考えてましたか?
メジャーデビューは去年なんですけど、最初のCDを出した2006年から考えると、2016年がCDデビュー10周年の年になるので、10年目の作品として一番藤田麻衣子らしいアルバムにしたいなって考えてましたね。だから、過去のストック曲も数十曲あったんですけど、さらに自分が「これだ!」って思える歌を書かなきゃと思っていたんです。それで今年の夏にたくさん書いて、全部で100曲くらい集めたデモの中から選びました。
──短期間でそんなに書いたんですか!? インディーズ時代からアルバム1枚に100曲ほどの候補曲を用意してるんですか?
いえ、今回は特に書いたかなって思いますね。前作「one way」はメジャー1枚目のアルバムということで、インディーズのときからある「これは入れておきたい」っていう曲だったり、ありがたいことにタイアップが付いている曲も多かったので、アルバム用の新曲の枠がすごく少なかったんですよね。今回はシングル「おぼろ月」に入っている3曲を入れることだけ決まっていて、あとは自由に曲を選べるような状態だったので、作る前の段階からすごく楽しみだったんです。
──100曲の中からどうやって選曲していったんですか?
スタッフと一緒に決めていったんですけど、みんなが「いい」って言う曲を集めていくと、ほとんどが恋愛の歌だったんですね。候補曲の中には応援歌もあったのに。私は基本的に恋愛の歌ばかりを日常的に書いていて、タイアップのお話をいただいたり、周りの人に勧められたりしないと、恋愛以外の歌をあまり書かないんですよ(笑)。この10年、恋の歌ばかり書いてきたし、短編集を読んでいるように自分の歌を聴いてもらいたいなっていう気持ちがあったので、「恋愛小説」っていうアルバムタイトルに決めました。いろんな恋愛の物語が味わえるアルバムにしようって決めてからは、選曲も早かったですね。
──恋の歌ばかり書いてしまうのはどうしてだと思います?
うーん……自分が好きなものの話をしてるときや好きなことをやってるときって、自然とテンションが上がるじゃないですか。私は、それが音楽と恋愛話なんですよ。友達と話をしてても、「恋の話していい?」って言われると今でもテンションが上がって、「何それ? 詳しく聞かせて」ってめっちゃ食い付いちゃうんですよね。友達の話を聞いて、「わかる!」って言ってる瞬間って楽しいし、安心しませんか?
──すいません……僕は男性同士で恋バナになることはあまりないもので(笑)。
そうですよね(笑)。女子は、恋愛話をしてる時間が楽しいんですよ。答えが出なくてもいいんです。あるなあって思ったり、学んだなあって思ったり。そういう楽しさを歌でも表現できたらいいなって思っていて。
──でも藤田さんの場合、幸せでラブラブな恋愛よりは、苦く切ない恋愛の歌が多いですよね。
バッドエンドは好きではないんですけど、うまくいかないからこそ楽しいなって思うんですよね。それは恋愛だけじゃなく、夢も仕事も人生も同じで。うまくいかないときほど、すごく考えるじゃないですか。うまくいっていない最中はイヤなんですけど、うまくいったことよりも、悩んだことのほうが圧倒的に心に残るし、面白味というか生きている実感を得たりするんですね。だから歌にも、両思いなのに不安があったりとか、どこか影を入れたいし。100%ハッピーな歌は、必ずしも私が歌う必要はないかもって思う部分があって。どこかでちょっと悲しげな歌を生み出したいなと思うんです。
どの曲も実体験が入ってる
──曲の中で描かれている物語は、実体験がベースになっているんですか?
全部だったり、一部だったりはしますが、実体験といえば実体験ですね。ただ、書くきっかけになるのは友達の話であることが多いです。誰かの恋の話を聞いたときに、「私も似たような経験があった」って感じる。その時点で私と友達の2人が同じ経験をしているので、ほかにも同じ経験している人がいるんじゃないかなと思って、歌にすることが多いです。アルバムのリード曲「you」はまさに、友達の話を聞いて、私もそういうことがあったなっていう気持ちをそのまま歌にしたものですね。
──「始まって終わった恋はきっと本当におしまい」というフレーズがグッときました。
10代の頃に漠然と思ったことで。片思いしてたときもつらかったんですけど、両思いになった相手から振られちゃったときに、「1回気持ちが重なったあとに離れちゃったら、絶対にこの人はもう私のことを好きになることはないよな」と思って。片思いだったらまだ可能性があったのに、両思いになったからこそ、別れたことで可能性がなくなった。失恋ってこういうものなのかって、心が痛くなったことがあって。それは何度も感じてきたことだったんですけど、ここにきてやっと言葉にできたかなと思いますね。
──友達は実際にどんな話をしてたんですか?
歌詞のまんまの感じですね。「別れてからも好きで、どうしたらいいんだろう?」って聞かれて。「どうしたらいいんだろうね?」って返事をして。答えが出ないまま、2人でぐるぐるしてました。
──この曲をリード曲にしたのは?
とても普遍的な曲だなと思ったんですね。例えば10年前にもこういう歌を書いていたと思うし、今でも自分の中にこういう気持ちがある。だから、この曲をリード曲にしたくて。何よりも最初に聴いてもらいたいなと思って1曲目にしました。
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- ニューアルバム「恋愛小説」 / 2015年12月2日発売 / Victor Entertainment
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CD収録曲
- you
- 恋時雨
- カモフラージュ
- おぼろ月
- 井の頭線
- White Christmas
- 魔法使いが現れそうな夜
- あなたに恋して
- 火曜日、聞かなきゃよかった話
- この恋が終わるまで
- 家族になれる人
- 伝えたい言葉
初回限定盤DVD収録内容
「弦楽四重奏 Live Tour 2015」東京公演のライブ映像60分以上収録
- この恋のストーリー
- Flower & Butterfly
- きっと
- 遠くへ
- ベイブリッジ
- 恋に落ちて
- 1%
- あなたに恋して
- 恋がしたくなるメドレー
~胸が熱い・高鳴る・運命の人・水風船・瞬間~ - 未来を
- En1. 伝えたい言葉
- En2. おぼろ月
藤田麻衣子(フジタマイコ)
愛知県名古屋市出身のシンガーソングライター。2006年9月「恋に落ちて」でインディーズデビュー。すべての楽曲の作詞作曲を手がけるほか、アーティストへの楽曲提供も行っている。フリーライブでファンを増やし、2012年に東京・渋谷公会堂公演、2013年7月に東京・NHKホール公演を実施。同年10月には東京・日本武道館での弾き語り無料ワンマンライブを成功させた。2014年3月に「涙が止まらないのは」でメジャーデビュー。同年10月にメジャー1stアルバム「one way」をリリースし、11月より全国ツアー「藤田麻衣子 LIVE TOUR 2014-2015 ~one way~」を実施した。2015年5月にニューシングル「おぼろ月」を発表し、12月にメジャー2作目となるアルバム「恋愛小説」を発売した。