藤田麻衣子|音楽監督・羽毛田丈史と振り返る2度目のオーケストラコンサート

藤田麻衣子が最新映像作品となるBlu-ray&DVD「藤田麻衣子オーケストラコンサート2019」を9月6日にリリースする。

本作は、今年5月25日に東京・文京シビックホールで開催された自身2度目のオーケストラコンサートを映像化したもの。オリジナル楽曲に加え、昨年9月にリリースされたカバーアルバム「惚れ歌」から「もう恋なんてしない」「雪の華」「サウダージ」といったカバー曲を、壮大なオーケストラアレンジで味わえる仕上がりとなっている。

音楽ナタリーでは藤田と、彼女が開催してきた2度のオーケストラコンサートで音楽監督を務めた羽毛田丈史による対談をセッティング。コンサートがどう作り上げられていったかを紐解きつつ、本作の見どころを探っていく。

取材・文 / もりひでゆき

とにかく準備万端にして臨む

──藤田さんは今年5月に、ご自身にとって2度目となるオーケストラコンサートを開催しました。振り返ると今回の公演は、昨年9月にリリースされたカバーアルバム「惚れ歌」からの流れで実現したものなんですよね。

左から羽毛田丈史、藤田麻衣子。

藤田麻衣子 はい。「惚れ歌」を作るにあたっては羽毛田さんのピアノを中心にした内容にしたいと思っていたし、そこからの流れでオーケストラコンサートにつなげていきたいという思いを抱いていたので……けっこうゴールに至るまでは自分として長い期間ではあったんですけど(笑)。結果的にカバー曲は数曲で、ほとんどがオリジナル曲ばかりのオーケストラコンサートになりましたけど、1回目以上にすごくいい内容になったと思います。

羽毛田丈史 まあ「惚れ歌」からの流れもあったんでしょうけど、2度目のオーケストラコンサートが実現したのは麻衣子ちゃんの執念みたいなものですよね。1回目をやったあと、きっと「2回目も絶対やるぞ」って決めていたと思うから。その執念が結実したという意味合いが大きかったんじゃないかな。

藤田 いつも何かしらこっそり計画してますし、確かに執念深いところはあるみたいです。5周年のときも私の中では“5執念”って気持ちがありましたからね(笑)。

羽毛田 要は企み勝ちでしょ(笑)。企みって言うと言葉が悪いけど、計画通りに物事を緻密に進めていくという特技が彼女にはあるんですね。オーケストラコンサートは本当に大変だから、やりたいと願ってもできないことのほうが多いと思うんですよ。それをここ数年で2回もやっちゃうというのは本人の強い思いがあってこそ。本当に尊敬しちゃいますよね。

藤田 私はオーケストラコンサートをやるという夢を叶えるためにずっとがんばってきたわけですけど、1回だけお祭りみたいな感じでやれば満足かというと決してそんなことはなくって。定期的にやるとまではいかなくても、何かきっかけがあるごとにオーケストラで歌えるチャンスを抱いたアーティスト人生にしたいなっていう気持ちが強かったんです。だから2回目をやるなら、そんなに期間を開けずにやりたいなとはずっと思っていたんですよね。

──羽毛田さんは2回とも音楽監督を務められていますが、最初のオーケストラコンサートにはどんな思い出がありますか?

「藤田麻衣子オーケストラコンサート2019」の様子。

羽毛田 まずはやっぱり、10年以上にもわたってオーケストラコンサートという夢を追い続けてきた麻衣子ちゃんのピュアな思いに対して、ちょっと襟を正すような感覚になったことを思い出しますよね。「こんなピュアな子いるんだな」ってすごく思った。

藤田 あははは(笑)。私としてはホントに初めてのことづくしだったので、羽毛田さんがいてくださることにすごく安心感があったんですよ。

羽毛田 でも、最初からものすごく堂々としてたけどね。リハも本番も。普通はさ、うしろにストリングスが20人いるだけでもものすごく緊張するんですよ。言ったらクラシックの音楽家たちにずっと見られながら歌うことになるわけだから。慣れるまですごく時間がかかる。でも麻衣子ちゃんは、まるで演歌の大物歌手みたいな堂々たる歌いっぷりを見せてくれていて(笑)。その姿にちょっとびっくりしましたけどね。

藤田 そこは自分のライブへの向き合い方の1つとして、とにかく準備万端にして臨むというのがあるんですよ。メモをステージ上に持っていって、水を飲みながら確認することもあるにはあるんですけど、基本的にはMCの流れなんかも含めて、完璧に自分のカラダに入れてから本番に臨むんです。そうしておけば本番中にハラハラすることがないから、何よりも自分が一番楽しめるっていう。だから最初のオーケストラコンサートのときも、本番を楽しむための準備はめちゃくちゃしました。

羽毛田 本番中、例えば僕がピアノを弾いていたら、歌い手の方が僕の方に寄ってきて「緊張してます」「次の曲なんでしたっけ?」みたいな感じで目配せしてくることはよくあるんですよ。そこで僕が「大丈夫だよ」っていう雰囲気を出してあげると、安心してまた歌に戻れるという。でも麻衣子ちゃんはそんなことが一切なかったからね。僕の方にあんまり寄ってこなかったし(笑)。

藤田 あははは(笑)。もちろん何もかもが初めてだったから、どんなふうになるのかなという不安はもちろんありましたけどね。でも全部やってみて、すごくうまくいったという実感があったんですよ。それが自分にとっての大きな自信になったので、2回目のオーケストラコンサートは1回目以上に落ち着いてできたところもあったとは思います。

羽毛田 そうだね。2回目のときはリハーサルを見てても「全然大丈夫だな」と最初から思ってましたよ。むしろ彼女のことよりも指揮者やピアニスト、オーケストラのほうが心配だったというか。スケジュールの都合で僕がステージに出ることができなかったんで、「俺いなくて大丈夫かな?」みたいな(笑)。

私のやりたかったことはこういうことだ!

──1度目の経験を踏まえ、2度目のオーケストラコンサートはどんなものにしようと思って臨みましたか?

藤田 よりクオリティを高め、アレンジに関しては前回以上に羽毛田さんの世界観を爆発させてほしいというリクエストをさせていただきました。オーケストラってアレンジ次第で、同じ楽器を使っていたとしても全然違った雰囲気になるものだと思うんですよ。だから羽毛田さんならではのアレンジをしていただくことで、コンサートが何十倍もよくなるんだろうなという思いがあったんです。それを私自身楽しみたかったし、お客さんにもそれをしっかり感じてほしいなって。

羽毛田 そんなことを言ってもらえたらね、こっちとしてはやりがいがありますよね。カバーもあればオリジナルもあるので、アレンジは大変ではある。でも、いろいろな手法を使ってバリエーションがつけられるからすごく面白かったですよ。

──具体的にアレンジに関してこだわったポイントというと?

「藤田麻衣子オーケストラコンサート2019」リハーサルの様子。

羽毛田 1回目のときはオーケストラをバックに歌う麻衣子ちゃんのポテンシャルがまだよくわかってなかったから、CDの音源や彼女が弾き語りでやっているものをある程度の核として、そこにオーケストラを付けるイメージでアレンジしていったんです。そのほうが歌いやすいと思ったから。でも今回は彼女からの要望もあったから、いわゆるオーケストラっぽいアレンジをさらに加味したところはありましたね。もともとの楽曲のイメージや、それこそテンポ感も変わってしまうものだから、けっこう挑戦的なことではあるんだけど。カバー曲に関しては「惚れ歌」で作ったものを踏襲したアレンジに加え、全然違った形にしたものもありました。

藤田 前回はオーケストラではあったけど、CD音源の再現みたいなアレンジもありましたもんね。お客さんは普段からクラシカルな曲を聴いている人ばかりではないから、初めてのオーケストラコンサートとしてはそういうバランスが大事だったと思うんです。でも2度目は、ドラムやベースのビートに支配されたポップスとしてではなく、オーケストレーションの波の中で歌いたかったんですよね。感情によって強弱であったり速さであったりが変わっていく、そういう歌が歌いたかった。だから2度目のアレンジをしていただく際にはCD音源ではなく、私が弾き語りで自由に歌っているデモをお渡ししたんですよ。

羽毛田 全部が歌とピアノしか入ってなかった(笑)。あとから「CD音源もちょうだい」ってお願いした曲もありましたけど。

藤田 私としてはもともとのアレンジに引っ張られることなく、純粋に羽毛田さんの世界でアレンジしてほしかったんです。原曲をどんなオーケストラアレンジにしてくれるのかという個人的な楽しみも大きかったですしね。結果、そうやって作っていただいた楽曲を歌ったことで、1度目以上に高い音楽的な満足度を味わえました。「私のやりたかったことはこういうことだ!」ってすごく思えたというか。羽毛田さんも含め、同じメンバーの方々とコンサートを作っていけたこともすごく大きかった気がしますね。

羽毛田 そうだね。3分の1くらいは1回目と同じメンバーが集まってくれたから。

藤田 そういった環境の中、言葉を交わさなくてもわかりあえる信頼感みたいなものが生まれていた気がするんです。1度目を踏まえて、「じゃ今回はこうしてみましょう」みたいな感じで追及していくこともできましたしね。

「藤田麻衣子オーケストラコンサート2019」リハーサルの様子。

羽毛田 1回目はリハーサルでけっこういろんなことが起こって大変だったんだけど(笑)、2回目はすごくスムーズだったよね。音楽的な部分だけを見ながら、よりよくするために追求していくことができた気がするな。

藤田 前回、改善点としてメモしていたものを今回取り出したりもして(笑)。しっかりブラッシュアップすることができましたしね。

──ある意味、難易度を上げたアレンジとなった2度目のオーケストラコンサートですが、羽毛田さんは藤田さんのボーカルに関してはどんな印象を受けましたか?

羽毛田 難易度は確かに上がったとは思うんですけど、本人的には特に何も感じなかったんじゃないかなあ? リハーサルのときからしれっと歌ってましたからね。前回はさすがに「ここはオケのテンポに合わせるといいよ」とか「こっちは自分でテンポを作って歌ってみて。みんなそれについていくから」とかアドバイスはしましたけど、今回はそういうこともまったくなかった。ホントに才能があるんでしょうね。だからオーケストラとかミュージカルとか、そういうのに向いてるボーカリストなんだと思いますよ。

藤田 私はもうとにかく楽しかったんですよ。リハーサルをしてると、「ここはバシッと止めよう。そのほうが劇的になるから」みたいな感じで、いろんなアイデアを出してくださるんですよ。それを受けて私は自分の表現に関して、「あ、もっとやってもいいんだ!」みたいに感じることがすごく多くて。ホントに楽しく歌えましたね。