音楽ナタリー Power Push - 藤田麻衣子

12のラブソングが織り成す とりどりの「恋愛小説」

「井の頭線」はずっと大事にしてきた

──弾き語りで始まる「井の頭線」は、2013年10月に開催した日本武道館ワンマンで初披露した曲でしたよね。

そうですね。当時、せっかくだから新曲を1曲やろうっていうことで、自分で一番気に入ってたこの曲を歌いました。そのときからずっと大事にしてきて、今回は「恋愛小説」っていうタイトルのアルバムなので、絶対に入れたいなと思いましたね。そして、この曲も実体験で。私、井の頭線に思い出があるんです。今は電車に乗るとスマホをいじったりして、ただ普通にしてるんですけど、当時はワクワクしながら電車に乗っていたんですよね。そういう思い出をきっかけに書いた歌で。ピアノの弾き語りをイメージしたアレンジですし、自分らしい歌だなと思って大事にしてます。

──過去の恋愛を振り返った歌詞がつづられていますが、相手に未練があるわけではないですよね。

藤田麻衣子

そうですね。冷静に見つめてますね。そのときは恋をしてたけど、終わってしまった。今ならうまくいったかもしれないけど、別々の道を歩いてきたからそう思えるだけで、自分は自分の未来を行くっていう、昔の恋を懐かしんでる曲ですね。かつての恋愛を思い出したときに、この曲のように懐かしくて輝かしい時間だったなって思うときもあれば、戻りたいって思うときもあって。

──シングル曲「おぼろ月」は、忘れたくても忘れられない恋がテーマですね。一方、同じくシングルに収録されていた「あなたに恋して」や「恋時雨」のように、恋をしたときの喜びや幸せ、恋に落ちた瞬間のざわめきを切り取った曲もあれば、「カモフラージュ」や「この恋が終わるまで」のように誰にも言えない秘めた恋心を歌った曲もあって。

「カモフラージュ」は物語がバーッて浮かんできて、すぐに書いた曲なんですね。私、昔は自分のありのまま100%を人に話してたんですよ。もうちょっと隠してもいいんじゃないかっていうくらい包み隠さずに話してて。でも、大人になると、わざわざ話さなくていいことは話さなくなったり、飲み込むようになってきて。逆に適当なことを言っちゃうこともあるんですよね。本当のことを話すのが面倒くさいなと思ったときに、「今、こんな人が気になってて」って言っちゃったことがあって。

──それは好きではない人の名前を出したということ?

はい。そこまで好きなわけではないけど、間違ってるわけでもないからいいかと思って話したことが曲作りのヒントになりましたね。人って、どういうときに本心とは違うことを話すのかな?って考えて。例えば、見栄を張るときもあるし、言いたくないときもあるだろうし、言えないからごまかすときもあると思う。あとは、話している相手の人のことを好きだから、全然違う人をカモフラで立てるときがあるよなって。それは切ないなっていう物語が勝手にできあがって、「カモフラージュ」を一気に書き上げた記憶がありますね。10代の頃にさかのぼったら、目の前で好きだった人がほかの子と両思いになって、気持ちをごまかした経験もあったし。そういう過去の記憶も混ざって、物語が頭の中で進んでいった感じですね。

元カノ話にモヤモヤする「火曜日、聞かなきゃよかった話」

──一方で「この恋が終わるまで」は不倫というか……。

藤田麻衣子

好きになった人にはすでに恋人がいる感じですよね。けっこう前のデモテープのストックの中にあったんですけど、最近、友達からまさにそんな話を聞いて。「あれ? 私、そんな歌あったな?」って掘り出して、多少書き加えて。近くにそういう人がいると、その歌を作品に入れたくなっちゃうんです。でも、個人的にも思い入れが強くなって、気持ちがこもった歌になりましたね。

──藤田さんとしては、パートナーがいる人を好きになるのはアリですか?

どうなんですかね? 今はだいぶ大人になったので、否定はしないんですけど、20代前半のときは、周りにそういう話が増えてきたときはいちいちショックを受けててました。好きになっちゃうのはしょうがないけど、その関係が続いていく過程というのは誰かが誰かを裏切っている状態なわけですよね。それは見ていて気持ちのよいものではなくて。だから、自分のことじゃなくても、昔からすごく悩んできたテーマなんですね。昔は全否定しちゃうくらい、よくないことだって言ってたけど、人それぞれ事情があるなっていうこともわかっていくし、一方的に責めきれないなと思ったりして。だから、この歌も男の人も女の人も責めない曲にしてみたんですね。ただドンピシャな人が聴いたら、「ウッ」てなるかもしれない。あと秘めた恋の歌なのでライブで「共感できる人?」とか手を挙げてもらうのは控えないといけないなって思ってます(笑)。

──「火曜日、聞かなきゃよかった話」では、「2番目がいるのもダメだよ」っていうコーラスが入ってますね。

あははは(笑)。「火曜日~」はコーラスでけっこう遊んだ歌なんですけど、これは昔からの“あるある”で。

──彼氏に元カノの話を聞いて落ち込むっていう。

過去の話は聞かなきゃいいのに、絶対に聞いちゃうんですよね。聞いてるときは、案外「ふーん」っていう感じなんですけど、ずっともやもやするんですよ。寝る前も、次の日もずっと悔やんでる。聞くとムカつくし、かといって隠されるのも嫌だし、どうしたらいいんだろう?っていう問いかけをこの歌ではしてます。

──男性はこの問いから逃げたくなりますね。

スタッフもみんなそう言ってたので、「逃がさない」っていうコーラスを入れました(笑)。男性にはちょっと重たいかもしれないけど、女子は笑ってくれるかなと思います。

ニューアルバム「恋愛小説」 / 2015年12月2日発売 / Victor Entertainment
「恋愛小説」初回限定盤
初回限定盤 [CD+DVD+グッズ] 5724円 / VIZL-913
Amazon.co.jp限定 初回限定盤 [2CD+DVD+グッズ] 5724円 / VIZL-913
「恋愛小説」通常盤
通常盤 [CD] 3240円 / VICL-64480
Amazon.co.jp限定 通常盤 [CD2枚組]3240円 / VICL-64480
CD収録曲
  1. you
  2. 恋時雨
  3. カモフラージュ
  4. おぼろ月
  5. 井の頭線
  6. White Christmas
  7. 魔法使いが現れそうな夜
  8. あなたに恋して
  9. 火曜日、聞かなきゃよかった話
  10. この恋が終わるまで
  11. 家族になれる人
  12. 伝えたい言葉
初回限定盤DVD収録内容

「弦楽四重奏 Live Tour 2015」東京公演のライブ映像60分以上収録

  1. この恋のストーリー
  2. Flower & Butterfly
  3. きっと
  4. 遠くへ
  5. ベイブリッジ
  6. 恋に落ちて
  7. 1%
  8. あなたに恋して
  9. 恋がしたくなるメドレー
    ~胸が熱い・高鳴る・運命の人・水風船・瞬間~
  10. 未来を
  1. En1. 伝えたい言葉
  2. En2. おぼろ月
藤田麻衣子(フジタマイコ)
藤田麻衣子

愛知県名古屋市出身のシンガーソングライター。2006年9月「恋に落ちて」でインディーズデビュー。すべての楽曲の作詞作曲を手がけるほか、アーティストへの楽曲提供も行っている。フリーライブでファンを増やし、2012年に東京・渋谷公会堂公演、2013年7月に東京・NHKホール公演を実施。同年10月には東京・日本武道館での弾き語り無料ワンマンライブを成功させた。2014年3月に「涙が止まらないのは」でメジャーデビュー。同年10月にメジャー1stアルバム「one way」をリリースし、11月より全国ツアー「藤田麻衣子 LIVE TOUR 2014-2015 ~one way~」を実施した。2015年5月にニューシングル「おぼろ月」を発表し、12月にメジャー2作目となるアルバム「恋愛小説」を発売した。