音楽ナタリー Power Push - 藤井フミヤ

ようやく芽生えたシンガーとしての自覚

俺の人生はやっぱ歌なんだ

──でも、新作を聴く限りフミヤさんの場合、レコーディングは生音がメインでしょうし、ときにはストリングスを入れたりと細かなこだわりが感じられますが。

生音のほうが早いし、俺は生音のヨレ具合が好きだからっていう理由なんだよ。打ち込みだと時間がかかるから。今回はほとんどウチのスタジオで作ったので、金額的なこと言うとそんなにかかってないっていうのもあって。まあ、制作もスピード感が求められるようになったよね。Pro Tools誕生以降は早いというか、短縮化されたなって実感してる。

──フミヤさんもPro Toolsを使用されているんですか?

いや、こんなこと言っておきながら、俺は完全にアナログ(笑)。作曲はするけど、アレンジはほとんどしないから必要なくて。ギターの弾き語りしたものを、昔だったらカセット、今だとiPhoneで録音して、その音源をアレンジャーに渡す形なの。これはソロデビュー曲の「TRUE LOVE」から変わらない。結局俺が作る曲ってギター1本で歌えるんだよ。アレンジ能力がないことがわかってるから、労力は使わないようにしてるし。ってことを考えると、俺はいわゆるミュージシャンじゃない。

藤井フミヤ

──え? 歌も歌って、作詞作曲もするけど?

ミュージシャンの意識はないね。

──では自分はなんだと?

シンガーなんだよ。

──なるほど。ちなみにフミヤさん26歳くらいの頃にはインタビューで「30歳くらいで音楽をやめるかも」って発言していらっしゃいましたよね? ソロデビューしたあとも「50歳まで歌ってることはない」って明言されていた記憶があるんですが……。

ああ、そうだったね。当時は50になったら引退しようと思ってた。歌えないと思ってたから。

──実際には50を過ぎても歌っていらっしゃっていて、今、自分はシンガーであると自覚されている。その意識はいつ芽生えたんでしょうか?

40代中盤だね。だいたいミュージシャンに憧れて、ミュージシャンになったわけじゃなかったから。東京に憧れていただけだったから。東京に行けるなら手段はなんでもよかったんだよ、20代の頃は。本当はクリエイターに憧れてたし。だからずっと、いずれは音楽ではなく何かのクリエーターになると自分で思ってたんだけど、「やっぱり歌、楽しいじゃん」って思うようになって。

──歌うことは楽しくはなかったとおっしゃっていた時期もあったのに。

そうだね(笑)。それが、歌を仕事にすることがいかに楽しいかってことがだんだんわかってきて。歌ってだいたい3分から5分の作品でしょ? 映画だと2時間くらいかかるじゃない、作品として完結するのに。しかも映画だと1回観たら、そう何度も観ることはない。例えばアートだって、本物が家にやってくることはなかなかない。で、いろいろ考えると、歌は3分から5分の世界で完結してて、しかもリスナーはリピートして聴いてくれて、それで青春時代を思い出したり、いろんな感情を抱いたりしてくれる。人を幸せにもできる。あと歌って体に直接響くでしょ? 文章を読むよりも、体に入っていきやすいんだと思う。歌って宗教的な儀式でも使われるし、国歌っていうのもどこの国にも存在するし。あと歌は人を集めることができる。そういう歌のパワーを自覚してから、どんどん歌うことが面白くなってね。

──20代、30代の頃とは逆の考えになった。

で、俺の人生はやっぱ歌なんだって。もちろん人から求められているのもあるだろうし。そう思ってからは、アート展なんかをやらなくなった。音楽をちゃんとやってると時間がないというか。絵は趣味としては描いてるし、デザインもちょっとはやるけど、今は歌うことが一番。俺の歌でリスナーが喜んでくれるというのもあるし、肉体を使って表現するのって自分が気持ちいいんだよね。健康にもいいし、間違いなく。ポール・マッカートニーもミック・ジャガーもなんであんなにツアーをやってるのかって、歌わないと死んじゃうんだよ(笑)。ただの老人になっちゃうんだよ、たぶん。昔は「セックス&ドラッグス&ロックンロール」で不健康なのがロックの象徴だったのが、今やロックをやることが「ヘルシー&ビューティー&エクササイズ」になってるからね。ステージに立つためには健康じゃないといけないし、ちゃんと生きてないと歌えないよ。

藤井フミヤ

──極端な話になるかもしれませんが、生きるためにフミヤさんは歌ってるということでしょうか?

それは絶対あるね。あと山下達郎さんや小田和正さん、矢沢永吉さんとか先輩を見てるとね、俺もあの年齢までは歌えるんだって思える。昔は想像できなかったけどね、60代になってからも歌ってるっていうのは。それこそ、彼らより前の世代の歌手って言ったら、飲めや食えやのめちゃくちゃな生活してただろうし、「セックス&ドラッグス&ロックンロール」みたいな世界だったと思うけどさ。今はステージに立つためには、いろんなことを節制しなきゃいけないし、体も鍛えなきゃいけない。2時間歌い続けるってホントに大変なことだから。

──でもやめられない?

うん。歌えるところまでは歌うよ。だから歌い続けるために、いい歌を作りたいっていうのはあるね。レコーディングは苦手だけど(笑)。歌がもっともっとうまくなりたいっていうのもあるし。

──今も昔も十分上手だと思うんですが。では、フミヤさんにとってうまい歌ってなんでしょうか?

その人ならではの味があること。声質なんかも含めて。それとリスナーの心に届くか、届かないか。それが歌う上で大事なことだと思うね。

FUMIYA FUJII CONCERT TOUR 2016 大人ロック

  • 2016年9月10日(土)大阪府 フェスティバルホール
  • 2016年9月11日(日)大阪府 フェスティバルホール
  • 2016年9月15日(木)埼玉県 川口総合文化センターリリア
  • 2016年9月19日(月・祝)北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
  • 2016年9月21日(水)東京都 東京国際フォーラム ホールA
  • 2016年9月24日(土)福岡県 福岡サンパレス
  • 2016年10月1日(土)岩手県 盛岡市民文化ホール
  • 2016年10月2日(日)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
  • 2016年10月5日(水)東京都 Bunkamura オーチャードホール
  • 2016年10月6日(木)東京都 Bunkamura オーチャードホール
  • 2016年10月8日(土) 奈良県 なら100年会館 大ホール
  • 2016年10月15日(土)兵庫県 姫路市文化センター
  • 2016年10月16日(日)香川県 サンポートホール高松 大ホール
  • 2016年10月22日(土)神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
  • 2016年10月23日(日)神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
  • 2016年10月26日(水)東京都 かつしかシンフォニーヒルズ
  • 2016年10月28日(金)大阪府 岸和田市立浪切ホール 大ホール
  • 2016年10月31日(月)東京都 中野サンプラザホール
  • 2016年11月3日(木・祝)広島県 JMSアステールプラザ 大ホール
  • 2016年11月4日(金)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
  • 2016年11月6日(日)茨城県 常陸大宮市文化センター ロゼホール
  • 2016年11月10日(木)神奈川県 厚木市文化会館
  • 2016年11月12日(土)京都府 ロームシアター京都 メインホール
  • 2016年11月13日(日)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2016年11月17日(木)北海道 幕別町百年記念ホール
  • 2016年11月19日(土)北海道 北斗市総合文化センター かなで~る
  • 2016年11月20日(日)青森県 弘前市民会館
  • 2016年11月23日(水・祝)三重県 三重県文化会館 大ホール
  • 2016年11月26日(土)千葉県 市川市文化会館 大ホール
  • 2016年11月27日(日)千葉県 市川市文化会館 大ホール
  • 2016年12月2日(金)大阪府 フェスティバルホール
  • 2016年12月3日(土)大阪府 フェスティバルホール
ニューアルバム「大人ロック」 / 2016年7月13日発売 / Chaya-zaka Records
初回限定盤 [CD+DVD] / 4050円 / XQNA-91001
通常盤 [CD] / 3240円 / XQNA-1001
CD収録曲
  1. この空の真下で
    [作詞:藤井フミヤ / 作曲・編曲:大島賢治]
  2. GIRIGIRIナイト
    [作詞:藤井フミヤ / 作曲・編曲:大島賢治]
  3. 愛しいゴースト
    [作詞:藤井フミヤ / 作曲:屋敷豪太 / 編曲:大島賢治 / ストリングス編曲:村田泰子]
  4. エデンの起源
    [作詞:藤井フミヤ / 作曲:松本孝弘 / 編曲:大島賢治]
  5. どっちでもいいよ
    [作詞:藤井フミヤ / 作曲:coba / 編曲:大島賢治]
  6. ひとりごと
    [作詞:藤井フミヤ / 作曲:松本孝弘 / 編曲:大島賢治]
  7. 消えないキャンドル
    [作詞・作曲:藤井フミヤ / 編曲:増本直樹 / ストリングス編曲:村田泰子]
  8. 命の名前
    [作詞:藤井フミヤ / 作曲:coba / 編曲:大島賢治]
  9. 友よ
    [作詞:藤井フミヤ / 作曲:藤井尚之 / 編曲:大島賢治 / 唄:藤井フミヤ&憲武とヒロミ]
  10. ふるさと
    [作詞・作曲:藤井フミヤ / 編曲:石成正人]
  11. 最終目的地
    [作詞:藤井フミヤ / 作曲:屋敷豪太 / 編曲:大島賢治]
<通常盤ボーナストラック>
  1. シンデレラ(COOLSトリビュートアルバムより)
    [作詞・作曲:近田春夫 / 編曲:The TRAVELLERS & 中村達也、藤井フミヤ]
初回限定盤DVD収録内容
  • GIRIGIRIナイト ミュージックビデオ
  • 愛しいゴースト ミュージックビデオ
藤井フミヤ(フジイフミヤ)
藤井フミヤ

1962年生まれ、福岡県出身。1983年から1992年までチェッカーズのリードボーカルとして活躍後、1993年11月にシングル「TRUE LOVE」でソロデビュー。人気ドラマ「あすなろ白書」の主題歌にもなった同作は200万枚を超えるセールスを記録し、オリコン5週連続1位という快挙を果たす。その後も今日に至るまでコンスタントにリリースとツアーを展開する。2013年7月にデビュー30周年&ソロデビュー20周年を記念したシングル「青春」を発表し、大規模なアニバーサリーツアーを実施。バンド編成でのライブ以外にも、フルオーケストラ公演を開催するなどさまざまな形で音楽活動を行っている。2016年7月にソロとしては21枚目のアルバム「大人ロック」を発表。