「藤井フミヤ アンソロジー」特集|藤井フミヤが語るポップス、ロック、エロス、青春、ラブソング

1983年9月にチェッカーズのボーカルとしてデビューし、1993年11月にリリースしたシングル「TRUE LOVE」でソロアーティストとして本格始動した藤井フミヤ。今年デビュー40周年、ソロ活動30周年を迎えることを記念し、現在Spotifyでは藤井自ら選曲したプレイリスト「藤井フミヤ アンソロジー」が公開されている。

ソロ楽曲のみで構成されたプレイリストは「TRUE LOVE[Lovers]」「Another Orion[Lovers]」「青春[So young]」「DO NOT[ROCKS]」「女神(エロス)[R15+]」「タイムマシーン[SUPER POP]」の全6バージョン。多種多様なフミヤの魅力を味わい尽くせる内容となっている。

音楽ナタリーではプレイリストの配信にあわせて、「ポップス」「ロック」「エロス」「青春」「ラブソング」という5つのキーワードをもとにフミヤにインタビュー。シンガーとしてのこだわりや“これから”についてじっくりと聞いた。

取材・文 / 中野明子

曲ごとにまるで違う藤井フミヤ

──ソロ名義の楽曲が300曲近くある中、テーマ別に90曲に絞り込む作業はいかがでしたか?

もう大変でしたね(笑)。コンピュータがない時代だったら無理だったろうな。

──プレイリストには、それぞれの代表曲とテーマを象徴する英語が冠されていますが、このアイデアは最初から決まっていたんですか?

いや、選曲している途中で固まった感じ。「TRUE LOVE」を入り口に聴く人も多そうだなと思って、狙って付けたり。

藤井フミヤ

──プレイリストを拝聴したんですが、サウンドが本当に多彩だなと感じました。ポップスはもちろん、ロック、レゲエ、テクノ、クラブミュージック的な要素を持つ楽曲もあり、歌われていないジャンルはないのではと思えるほどでした。アニバーサリーといえばベスト盤が付きものではありますが、今回プレイリストという形で発表された理由はなんだったんですか?

デビュー35周年のときにファン投票で収録曲を決めるベスト盤(参照:藤井フミヤ35周年ベストに収録の100曲明らかに、リクエスト1位は)をリリースしたんだけど、次は自分で選曲したいなという思いがあってね。ただ、今の時代はCDだと限られた人しか手に取らないだろうから、ベスト盤的なプレイリストを作って配信したほうが広がるだろうと。

──選曲のポイントはどういったものだったんですか?

自分の中で星の多い曲なんですよね。

──星が多い、と言いますと?

自分にとって出来のいい子、思い入れのある曲。それを聴いてもらいたい順に並べたんです。

──配信から1カ月ほど経ちますが、ファンの方や周りからの反響はありましたか?

「これでコンサートをやってほしい」って言われたけど無理(笑)。1人で90曲も歌うとか酷だよ。でも、ツアーを組んで今日のセットリストは「Lovers」、明日は「R15+」とかだったらできるかな。俺は歌詞カードさえステージに置いてくれれば歌えるんで。

──それだけ曲が体に入ってるということなんですね。

そうだね。さすがに90曲連続は無理だけど、何回かリハーサルすれば全曲歌えると思う。逆に言えば、歌えない曲はプレイリストには入ってないから。

──セレクトにあたって、当然のことながらご自身のソロ曲をほぼ聴かれたと思いますが、何か感じたことは?

改めていろんな曲を歌ってるなとは思いましたね。曲ごとにまるで違う人間だなって。

藤井フミヤがポップシンガーたる所以

──ここからは、各プレイリストやそのタイトルをキーワードにお話を伺えればと思います。フミヤさんはご自身のことをポップシンガーであると公言されているので、まずは「タイムマシーン[SUPER POP]」から。タイトルに冠されている「タイムマシーン」は1995年リリースのヒットシングルです。

「タイムマシーン」はなんと言っても、作曲が筒美京平先生ですからね。筒美先生に書いてもらったこと自体がポップだよね。

──もう30年近く前だと思いますが、筒美先生とは打ち合わせをして作られたんですか?

そうそう。飯倉のオータニで待ち合わせして打ち合わせをしたんだよね。で、先生からいただいたデモはスローテンポだったんだけど、アップテンポにアレンジしちゃったの。後日先生に「アップテンポにしちゃいました」って報告したらすごく驚かれて。もちろん納得していただいたけどね。

──なぜテンポを変えようと?

あの頃の俺、イケイケだったからさ(笑)、なんかそっちのほうがいいと思ったんだよね。「TRUE LOVE」の大ヒットで調子に乗っちゃって。左右で別の色のカラコン入れたりもしてたし。世の中がアナログからデジタルに変わる時期で、「タイムマシーン」はマクセル「MD」のCMで使われたのもあって、加速していく時代の流れを踏まえてテンポを変えたいと。

──それによってポップソングとしての強度が増したところはあると思います。言語化するのが難しいとは思いますが、フミヤさんの中でのポップスの定義とはなんでしょう? このプレイリストの選曲の背景にも通じるものですが。

当然のことながら大衆性のある音楽だよね。

──その大衆性の具体的なイメージは?

日本の場合はみんなが口ずさんだり、カラオケで歌ったりする曲はどのジャンルの音楽であろうとポップスになるよね。あとは、どんなところでも流れていること。例えばラーメン屋でも商店街でも耳にするような曲。場所を選ばず、どこで流れてきても人の心に響くものがポップスだと思う。

──フミヤさんがポップシンガーを名乗ってらっしゃるのは、そういった曲を歌うアーティストであるという自負があるから?

いや、俺が自分のことをポップシンガーと言ってるのは、あらゆるジャンルを歌うから。レパートリーにダンスミュージックもあるし、ロックもあるし、レゲエもある。ジャンルにこだわりがないという意味合いで名乗ってる。

──フミヤさんが思う、日本における「これぞポップスター」という人は?

キングオブポップは桑田(佳祐)さんだね。サザンオールスターズといったらどんな世代の人も知ってるバンドだし、歌声を聴いた瞬間に何を歌っていても桑田さんだとわかる。

──アイコニックな存在というのもポップスターの特徴ですよね。

クイーンオブポップはユーミン(松任谷由実)かなあ。デビュー時はニューミュージックと言われていたけど、あのジャンルをポピュラーにしたということを考えるとね。

──お二人の音楽シーンへの影響を考えると納得感があります。

ただ、今は音楽の聴き方が昔とは違うから、ひと口にポップスと言っても、それぞれの認識は変わってきてるだろうね。平成まではCDとかレコードとか、だいたい自分が持ってるものしか聴けなかったじゃない? そもそも聴ける音楽自体が限られていた。だけどサブスクが普及した今は、誰もが何万曲もの曲をすぐに聴ける環境にある。そうなると定義的なものも難しくなる。

──数が膨大だからこそ、指標があるととっつきやすいのかもしれませんね。今回フミヤさんが作られたプレイリストのように。

そう。どんなマニアックな曲でも探せないことはないんだけどね。今の時代、音楽は本当に底のないものになってしまった気がする。

ロック=不器用な人

──続いて「DO NOT」をタイトルに冠した「ROCKS」についてお伺いしたいのですが、フミヤさんの作品には「ロック」が付くものがいくつかありますよね。ソロ時代だと「大人ロック」「フジイロック」「ROCK'N ROLL VAMPIRE」など。歌詞にもたびたび登場していますし。フミヤさんにとってロックの定義とはなんでしょうか?

生き方が不器用なことだね。

──「大人ロック」の取材時にもそうお答えになってましたね(参照:藤井フミヤ「大人ロック」インタビュー)。

ロックって俺の中では音楽のジャンルじゃないんだよね。歌っている内容も生き方も不器用な人やバンドがロック。

──では「DO NOT[ROCKS]」の選曲も……。

不器用な人を歌った曲が多い。

──フミヤさんの作品には多種多様なジャンルのソングライターが参加しているわけですが、特にこの「ROCKS」で選ばれた楽曲を手がけている方々は、エッジが立ってる印象です。フミヤさんの数々の作品にプロデューサーとしても参加している屋敷豪太さんの曲をはじめ、浅井健一さん提供の「マリア」、奥田民生さん提供の「嵐の海」とロックシーンを代表する方々の作品が入っています。

「マリア」はベンジー(浅井健一)が書いたということ自体がロックなんだよね。昔からブランキー(BLANKEY JET CITY)とは仲がよくて、この間もベンジーと会ったばかりだし、長い付き合い。民生くんは世代的にはちょっとだけ下なんだけど、ベンジーと同じで生きてきた時代が近い。

──そういった世代の共通点のようなものが、タッグを組む理由になっているのかもしれないですね。ちなみにフミヤさんが考えるロックスターのあり方とは?

自分を曲げない人たちだよね。それゆえにステージ上での見え方を、私生活においてもずっと意識し続けないといけないんだろうなとは思う。矢沢(永吉)さん、布袋(寅泰)さんが海外に住んじゃう気持ちはわかる。だって、日本じゃコンビニに短パンとかで行けないでしょ。