音楽ナタリー Power Push - 藤井フミヤ
ようやく芽生えたシンガーとしての自覚
藤井フミヤが4年ぶり、通算21枚目となるソロアルバム「大人ロック」を発表した。
1983年にチェッカーズのリードボーカリストとしてデビューして以降、30年以上にわたって歌い続けているフミヤ。彼は50代になってから初めて制作した本作で、“大人”に向けたロックを目指したという。
そんなフミヤが思い描く大人とはどんな姿なのか。またかつては50歳になるまで歌っていることはないと明言していた彼が、今も歌い続けている理由はなんなのか。じっくりと話を聞いた。
取材・文 / 中野明子 撮影 / 緒車寿一
未来よりも過去が長い人たちに向けた作品
──「大人ロック」は、2012年リリースの「Life is Beautiful」からオリジナルアルバムとしては4年ぶりの作品になりますね。フミヤさんのキャリアの中でこれほどアルバムのリリースが空いたことはなかったのでは?
ああ、確かに。ひさしぶりと言われればそうなんだけど、なんかいらなかったんだよね。
──いらなかった?
そう。新作が自分には必要がなかったの。30周年ツアーの2年間は過去に発表した作品を歌うことで十分だったから。
──確かにライブはコンスタントにやってますもんね。
あとね、実はレコーディング作業があんまり好きじゃないんだよ(笑)。好きじゃないって言うと語弊があるけど、コンサートのほうが好きなの。レコーディングが好きなミュージシャンもたくさんいるけど、俺は制作するより歌ってるほうが好きで。いくらでも歌える過去の曲があるし、そんなに新しいアルバムを作りたいと思ってなかったんだよね。
──そんなフミヤさんがなぜ重い腰を上げて、このタイミングでアルバムを作ろうと思ったんですか?
まあ、そろそろ作るかっていう(笑)。1年半くらい前かな? 俺の場合は曲を集めることから始めるんだけど、まず誰と一緒にやろうかと考えて。そのときにプロデューサーの大島(賢治)くんに出会ったんだよ。ただ出会ったときは、アルバムのプロデュースを大島くんにお願いしようとはならなくて、なんとなく一緒に何曲か作っていく中でお願いした感じだったね。
──大島さんとはどのようなきっかけで一緒に仕事をすることに?
ディレクターが彼のことを知ってたのと、俺がKANIKAPILAっていう久留米のガールズバンドに曲を書くことになって。そのアレンジをしたのが大島くんだったのね。それがよかったから、まずは「友よ」をアレンジしてもらって。そこからアルバムのレコーディングもっていう流れですね。相性がよかったんですね。馬が合うというか。役割分担もはっきりしてたし、俺は歌うことと作詞がメインで、それ以外の音作りを大島くんにやってもらう。同じ世代で同じような音楽を聴いてきたせいか、阿吽の呼吸だった。
──大島さんと組んで発見したことはありましたか?
発見というか、改めて俺はロックンロールが好きなんだなって再発見したね。
──ああ、大島さんロックバンド出身の方ですもんね。
そう。元の鞘というか、やっぱりロックンロールが根本なんだって再認識しました。
──今作は50歳を迎えられて初めて制作したアルバムになりますが、何か意識したことはありますか?
「大人ロック」っていうタイトルとテーマにしたんだけど、大人が聴いたほうが染みる作品っていうのは意識したかもね。自分が聴いても楽しいというか。だからあんまり若者向きではないのかも(笑)。サウンドはけっこうポップなんだけど、歌詞は大人向けだね。ある程度世の中を知っちゃってるから、あんまり初々しいこと書いても嘘っぽいなと。例えば若者は「がんばれソング」を歌えるけど、俺がむやみやたらに歌っても変でしょ? あと50過ぎて「好きだ好きだ!」って歌ってもね(笑)。とにかく書く歌詞の内容が、未来より過去が長くなってきたんだっていう感じになってる。
作詞は職業作家のような気持ちで
──今作はご自身で書かれた曲もありますが、プロデュースを手がけた大島さんをはじめ、B'zの松本孝弘さん、cobaさん、屋敷豪太さんなどいろんな方が曲を提供していますよね。曲を依頼する作家陣の基準は?
そのときに付き合いのあるミュージシャンになるね。今回は同世代が主。若い感じっていうのを今回は狙ってなかったし。どっちかっていうと80'sの雰囲気を目指したから。1980年代のポップ感がアルバムに欲しいなと思ったんだよ。
──具体的には?
当時のイギリスの音楽だね。今回は80年代のイギリスのロックっていうのは意識したかも。そういう感覚を今回の作家陣とは同世代なので共有できた。
──発注方法は?
「好きに書いてください」って言うだけ。「こういう曲を書いて」とかリクエストはしてない。
──「藤井フミヤが歌うことを前提に書いてください」と。
そう、それだけ。
──その結果、それぞれのアーティストの個性が出た曲がそろいましたね。
本当にね。どれも歌ってて面白かったよ。cobaさんなんてイタリアンポップだし。最初曲が届いたとき「俺の声を狙って書いてきたな」って思ったね。3曲書いてきてくれたんだけど、2曲がマイナー調の歌謡曲でさ。それがけっこうパンチが効いてて。かと思えば、「命の名前」になるとガラッと変わるし、さすがだなあと。
──歌詞は曲が届いてから書くスタイルですか?
うん。昔から曲先だね。いつもメロディにイメージが導かれる形。メロディがないと言葉が浮かばない。「詞先でやってみれば?」って何回か周りに言われたんだけど、1回もやったことないね。
──作詞で心がけていることってなんですか?
職業作家のような気持ちで書くこと。この曲にはこの言葉が合うだろうとか。これは康珍化さん的な感じで書こう、この曲は売野雅勇さん的な詞を書こう、これは阿久悠さん的だなとかイメージしながら書く(笑)。中身は基本的にフィクション。たまに歌詞に自分の感情を入れることはあるけど、あんまりメッセージ性を前面には出さない。聴いた人が何か感じてくれればってくらい。
──作詞で詰まったりすることはありますか?
ほぼない。サクサク書ける。
──では作詞の根源って?
文字を読むこと。目の前に文字があったら必ず読むし、活字中毒なんだろうね。インスパイアされるのはとにかく本。ジャンルは問わなくて、新聞の書評を読んで面白そうならすぐ買いにいくし。移動時間はずっと本を読んでるね、昔から。それが結果的に作詞に生きてると思う。
──フミヤさんの歌詞って言葉がわかりやすくて、物語性もあってとても日本語が丁寧な印象があります。
若い頃は洋楽しか聴いてなかったし、アメリカやイギリスへの憧れが強かったから、英語で歌ったり、英語を歌詞に入れたりしてたんだけどね。今はそういうのはなくて。できれば全部日本語で歌いたいと思ってるくらい。やっぱり歌詞がわかったほうが、伝わるしいいじゃんって思うようになった。
──歌詞作りは普段どんな形で?
とにかく書き始める。だから最初のイメージからまったく変わることも多い。悲しい歌として書き始めたはずが、幸せな歌になったり。あと具体的なイメージが浮かばないときは、メロディのイメージでタイトル付けて書いちゃったりする。
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- ニューアルバム「大人ロック」 / 2016年7月13日発売 / Chaya-zaka Records
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 4050円 / XQNA-91001
- 通常盤 [CD] / 3240円 / XQNA-1001
CD収録曲
- この空の真下で
[作詞:藤井フミヤ / 作曲・編曲:大島賢治] - GIRIGIRIナイト
[作詞:藤井フミヤ / 作曲・編曲:大島賢治] - 愛しいゴースト
[作詞:藤井フミヤ / 作曲:屋敷豪太 / 編曲:大島賢治 / ストリングス編曲:村田泰子] - エデンの起源
[作詞:藤井フミヤ / 作曲:松本孝弘 / 編曲:大島賢治] - どっちでもいいよ
[作詞:藤井フミヤ / 作曲:coba / 編曲:大島賢治] - ひとりごと
[作詞:藤井フミヤ / 作曲:松本孝弘 / 編曲:大島賢治] - 消えないキャンドル
[作詞・作曲:藤井フミヤ / 編曲:増本直樹 / ストリングス編曲:村田泰子] - 命の名前
[作詞:藤井フミヤ / 作曲:coba / 編曲:大島賢治] - 友よ
[作詞:藤井フミヤ / 作曲:藤井尚之 / 編曲:大島賢治 / 唄:藤井フミヤ&憲武とヒロミ] - ふるさと
[作詞・作曲:藤井フミヤ / 編曲:石成正人] - 最終目的地
[作詞:藤井フミヤ / 作曲:屋敷豪太 / 編曲:大島賢治]
<通常盤ボーナストラック>
- シンデレラ(COOLSトリビュートアルバムより)
[作詞・作曲:近田春夫 / 編曲:The TRAVELLERS & 中村達也、藤井フミヤ]
初回限定盤DVD収録内容
- GIRIGIRIナイト ミュージックビデオ
- 愛しいゴースト ミュージックビデオ
藤井フミヤ(フジイフミヤ)
1962年生まれ、福岡県出身。1983年から1992年までチェッカーズのリードボーカルとして活躍後、1993年11月にシングル「TRUE LOVE」でソロデビュー。人気ドラマ「あすなろ白書」の主題歌にもなった同作は200万枚を超えるセールスを記録し、オリコン5週連続1位という快挙を果たす。その後も今日に至るまでコンスタントにリリースとツアーを展開する。2013年7月にデビュー30周年&ソロデビュー20周年を記念したシングル「青春」を発表し、大規模なアニバーサリーツアーを実施。バンド編成でのライブ以外にも、フルオーケストラ公演を開催するなどさまざまな形で音楽活動を行っている。2016年7月にソロとしては21枚目のアルバム「大人ロック」を発表。