Eve|おとぎの世界でリアルを歌う

Eveが2月6日にニューアルバム「おとぎ」をリリースした。

彼がアルバムを発表するのは2017年12月の「文化」以来、およそ1年2カ月ぶりとなる。カバーアーティストとしてそのキャリアをスタートさせたEveは、全曲オリジナル曲で構成された「文化」をリリースし、シンガーソングライターとしての活動を本格化させた。2018年にはオリジナル曲を中心としたセットリストでワンマンライブや東名阪ツアーを開催。東京・新木場STUDIO COASTでのワンマンライブをソールドアウトさせるなど、Eveの活動の規模は年々拡大している。音楽ナタリーでは「おとぎ」のリリースを記念した特集を展開。今回の特集では「文化」発表以降のEveの活動を振り返りつつ、最新アルバム「おとぎ」に表れている彼の心情の変化を読み解くテキストを掲載する。

文・構成 / 倉嶌孝彦

「文化」を経てEveが出会ったもの

YouTubeやニコニコ動画といった動画共有サイトの“歌ってみた”カテゴリでカバーアーティストとして自身のキャリアをスタートさせたEve。自分自身の内面を描いたという「ナンセンス文学」を皮切りに、「ドラマツルギー」「お気に召すまま」といったオリジナル楽曲を公開し、ソングライティングの才能を開花させていった。オリジナル曲を立て続けに発表し、初のオリジナルアルバム「文化」をリリースした2017年を経て、2018年はEveがライブ活動に重きを置いた1年だったと言える。「文化」を携えて東京・新宿ReNYで行われたワンマンライブ「お茶会」、キャリア初の東名阪ツアーとなった「メリエンダ」、さらにツアーの追加公演として実施された東京・新木場STUDIO COASTでのワンマンライブを成功させたことにより、ネット発のカバーアーティストの枠を超え、シンガーソングライターとして頭角を現していく。

最新アルバム「おとぎ」は「文化」と同じく全曲Eveが作詞作曲を手がけたオリジナルアルバム。「文化」がEveというシンガーの内面を描いた作品だったのに対し、最新作「おとぎ」はEveが聴き手に対してメッセージを発している印象を受ける。「この世界を どっかでひっくり返したくて」と歌う「アウトサイダー」で彼は「君にだけにしかできない事はなんだ」と呼びかけ、「アンビバレント」では「諦めないで 呼吸を合わせて 合図を送るから 選ぶんだ君の 未来を」とリスナーの背中を押す。シンガーおよび動画投稿者としてインターネットを通じて表現者となったEveは、自作の楽曲を携えてステージに立ち、モニターの向こう側に存在していたリスナーたちとリアルで巡り会った。Eveの活動の変化は彼の音楽の変化と直結しており、リスナーはネットとリアルの垣根を越えてEveというアーティストが成長する様子を目の当たりにしている。もちろん、Eveに注目しているのはリスナーだけではない。「おとぎ」に収録された「アンビバレント」「楓」「やどりぎ」といった楽曲でのタイアップの獲得や(参照:Eve「メカウデ」でアニメ主題歌初挑戦、コラボグッズも登場 / Eveら手がける「ドラガリアロスト」ルクレツィア曲を配信、限定CDもリリース)、「ROCKIN'ON JAPAN」「MUSICA」といった音楽系雑誌への記事掲載など、Eveの音楽はインターネットの外の世界へと広がり続けている。

“おとぎ”の中でリアルを歌う

「おとぎ」というアルバムは「眠り」「まどろみ」を意味するインスト曲「slumber」で始まり、「夜明け」「あけぼの」を意味する「dawn」という曲で終わる。夢の中でアルバムの曲が展開する構成や、サウンド、歌詞の節々でファンタジックな要素を含みつつ、本作の収録曲には今のEveだからこそ生み出せるリアルなメッセージが込められている。

「トーキョーゲットー」はタイトル通り東京の街を舞台にした楽曲である。MI8kがEveに書き下ろした楽曲「デーモンダンストーキョー」以降、Eveの楽曲ではたびたび東京という都市が舞台となってきた。「ナンセンス文学」のミュージックビデオでは渋谷の街が、今作の収録曲「ラストダンス」のMVでは東京タワーがそびえ立つ夜景が描かれ、同じく今作に収められた「アウトサイダー」は新宿に似た街が舞台となっている。Eveは「トーキョーゲットー」で「密集居住区」の意味を持つ「ゲットー」という言葉と「トーキョー」という言葉をかけ合わせ、彼が感じているであろう東京という都市の息苦しさを表現している。

これらのリアルなメッセージが込められた楽曲に対して「アンビバレント」や「楓」は「おとぎ」の中でファンタジックな要素を担う楽曲であると言える。前述の通り「アンビバレント」はアニソンとしてEveが書き下ろしたナンバーだ。シニカルな比喩表現もなく、ただまっすぐに“相棒”への思いを曲にした「アンビバレント」は、Eveの陽の部分を象徴した楽曲となった。一方の「楓」はアクションPRGアプリ「ドラガリアロスト」に登場するルクレツィアのキャラクターソングとして、Eveが書き下ろした楽曲。ゲーム内のルクレツィアは歌を武器に味方を鼓舞する能力に長けたキャラクターで、Eve自身が持つ歌への思いとキャラクターの心情をリンクさせた1曲に仕上げられている。華やかなバンドサウンドの原曲と異なり、「おとぎ」ver.の「楓」はアコースティックアレンジのしっとりとした聴き味になっており、ゲームを入り口にEveの楽曲を知ったファンにもぜひ聴いてもらいたい。

アンダーグラウンド出身の快進撃

「僕らまだアンダーグラウンド」ミュージックビデオより。

1月にミュージックビデオが公開された「僕らまだアンダーグラウンド」は、Eveが表現するリアルと“おとぎ”が融合した楽曲だ。MVでは荒廃した都市で生きる少年と、現実世界を生きる少女が出会うボーイミーツガールの物語が描かれており、Eveはこの曲の中で“君”を「喜劇的な世界」に連れ出そうと手を差し伸べる。

「僕らまだアンダーグラウンド」というタイトルには、自身がアンダーグラウンドにいることを失望も悲観もしていないEveの心情が表れている。彼はアンダーグラウンドにいることを1つの武器としてリスナーからの共感を呼んできたと言えるからだ。彼はこの曲の中で「最高の舞台にしようぜ 胸の高鳴る方へ」と、3月に行われる東名阪ツアー「おとぎ」の成功を暗示するかのような前向きなメッセージを発信している。リスナーと向き合うことで成長してきた彼は、「おとぎ」を携えた今回のツアーでどのような変化を遂げるのか。アンダーグラウンドの世界を突き進む彼の快進撃は、まだまだ続く。

ライブ情報

Eve 2019 春Tour「おとぎ」
  • 2019年3月25日(月) 大阪府 なんばHatch
  • 2019年3月28日(木) 愛知県 DIAMOND HALL
  • 2019年4月29日(月・祝) 東京都 Zepp DiverCity TOKYO