ポルノグラフィティのボーカリスト・岡野昭仁が、初のソロアルバム「Walkin' with a song」を8月23日にリリースする。
2020年11月に「歌を抱えて、歩いていく」というテーマを掲げてスタートした岡野のソロプロジェクト。そこで彼はさまざまなアーティストやクリエイターとのコラボレーションを通して、自身の歌と改めて真摯に向き合い、新たな表現を手に入れてきた。その1つの集大成と言えるのが本作となる。
既発楽曲でコラボした澤野弘之やn-buna(ヨルシカ)、辻村有記、スガ シカオ、井口理(King Gnu)、BREIMENをはじめ、アルバムではEve、柳沢亮太(SUPER BEAVER)、小原綾斗(Tempalay)、山口寛雄、市川喜康など多彩な面々が新たに参加。さらに岡野自身が作詞作曲を手がけた楽曲も収録されている。
約3年におよぶソロプロジェクトは岡野にとってどんなものだったのか? アルバムにまつわるエピソードとともに、本人にじっくりと話を聞いた。
取材・文 / もりひでゆき撮影 / 須田卓馬取材協力 / Amazon Music Studio Tokyo
本当にいろんなことができた3年
──昭仁さんが「歌を抱えて、歩いていく」というソロプロジェクトを始動させたのは2020年11月。そこから約3年の時間を経て、今回初のアルバムにたどり着きました。振り返ると、その歩みはどんなものでしたか?
とにかくボーカリストとして新たなチャレンジをたくさんしようという思いだけを持ってスタートさせたプロジェクトだったので、当初はその終着点みたいなものはあまり明確に見えてはいなかったんですよ。でも、その中でいろいろなアーティスト、クリエイターとの出会いによって新しい曲がどんどん生まれていったことで、その行き着く先としてアルバムが徐々に見えてきた感じでしたね。振り返れば、それぞれの楽曲はもちろん、カバーを盛り込んだライブ(2021年に開催された配信ライブ「DISPATCHERS」「DISPATCHERS vol.2」)だとか、本当にいろんなことができた3年でした。
──ワクワクしながらソロプロジェクトを堪能している昭仁さんの姿がすごく印象に残っています。
うん。本当にワクワクすることばかりでした。例えば「MELODY」という楽曲でご一緒したBREIMENとのレコーディングでは、自分と比べて若いみんなが、湯気が立つほどに命を燃やしながら音楽に向き合う姿を見せてくれて。それにすごく力をもらえたりもしたんですよ。自分の若い頃にもそういう情熱はもちろんあったけど、この年齢でそれを目の当たりにしたことで改めて刺激をもらえたというかね。
──ソロとしての初アルバム「Walkin' with a song」を聴けば、いかに濃密で充実した時間を過ごしてきたかが鮮明に伝わってきますよね。本当に素晴らしい作品だと思います。
ですね。ホントにいいアルバムになったんですよ。自分でもそう思う(笑)。豪華なメンバーに作ってもらった曲たちはすべてがとんでもないクオリティだし、そこに対して自分は歌にフォーカスしてしっかり楽しみ尽くすことができましたからね。リリースされることで、皆さんからどんな反応をもらえるかがすごく楽しみです。
僕のことを思う存分に料理してほしかった
──これまで澤野弘之さん、n-bunaさん(ヨルシカ)、辻村有記さん、スガ シカオさん、井口理さん(King Gnu)、BREIMENといった方々とコラボレーションしてきましたが、アルバムにはさらに多彩な面々が参加されています。どんな基準で人選をしていったんですか?
ソロではね、いろんな方々の才能で僕のことを思う存分に料理してほしかったんですよ。だから僕がボーカリストとして乗っかったときに面白い化学反応が生まれそうな方に、スタッフ陣のオススメも含めて、お声がけさせてもらった感じでしたね。配信ライブではSUPER BEAVERの「人として」や、ヨルシカの「だから僕は音楽を辞めた」をカバーしたんですけど、そうやって僕のアンテナが触れたことでn-bunaくんや柳沢亮太くん(SUPER BEAVER)にアプローチさせてもらった流れもありました。
──普段から若い世代のアーティストを意識的に聴いているんですか?
そこまで貪欲に掘っているわけではないけど、例えばSNSなりなんなりで入ってきた情報で気になるものはパッと聴くようにはしていますね。BREIMENと関わりを持ったことをきっかけに、彼らと同じ世代のアーティストの音楽をけっこうたくさん聴いたりもしたんですよ。その中から、今回「芽吹け」という曲を提供してくれた小原綾斗くんのいるTempalayにアンテナが触れたりとか。Eveくんに関しては、彼のマイナーな曲調で音符が詰まっている楽曲を聴いたときに僕との相性がよさそうだなと思ったから声をかけさせてもらって。で、いざ曲を書いてもらったら、「これ俺、歌える!?」って思うくらい難しいものが届いたんですけど(笑)。
──あははは。楽曲の詳細に関してはのちほど伺いますが、アルバムについて具体的に動き出したのはいつ頃だったんですか?
ポルノグラフィティのツアー(昨年9月から今年1月まで開催された「18thライヴサーキット“暁”」)が終わったあと、3月ぐらいから本格的に動き出した感じかな。水面下ではいろんな方にお声がけはしていて、その曲たちが今年になって続々と上がってきたので。アルバム曲で言うと「インスタント」からレコーディングしたんですよ。この曲はもともと、けっこう前に上がっていて。
──アルバムのオープニングを飾る、n-bunaさんが作詞作曲とアレンジを手がけた楽曲ですね。
n-bunaくんには「光あれ」で歌詞を書いてもらいましたけど、彼が書く曲で歌うこともしてみたかったんです。制作に入る前の打ち合わせで彼は音楽に対する思いをすごく明確に、明瞭な言葉で僕に伝えてくれて。年齢は若いですけど、ホントにすごいアーティストだなってことを改めて実感しました。そんな彼に対して、僕も自分自身のことをより深く知ってもらいたかったので故郷のことを話したりもして。この曲は僕の生まれた因島のイメージで作ってもらったんですよね。
──鮮明に情景が浮かぶ楽曲になっていますよね。
そうそう。ホントにカッコいい曲だし。ほかの方もそうなんですけど、今回は基本的に楽曲を作ってくれた方が仮歌も歌ってきてくれていて。それがもうホントに素晴らしいんですよ。この曲でのn-bunaくんの仮歌もよかった。僕が持っていないエッセンスを感じさせるボーカルから受け取るものがたくさんあったので、それが再現できているかは別としても、自分としての新しい表情を歌に込めることができた気がしていますね。
「48歳、ムリしてない?」
──続く2曲目が先ほどお話に出た、Eveさんが作詞作曲をした「ハイファイ浪漫」です。確かに難易度の高い楽曲だと思いますけど、バッチリ乗りこなせてますよね。
大丈夫? 乗りこなせてる? いやー、これはもうがんばりましたね(笑)。普段はあまりやらないんですけど、この曲は家で相当歌い込みましたよ。そうでもしないと絶対に歌いこなせない曲だと思ったので。
──Aメロの言葉が詰まっているパートは昭仁さんの得意なところだと思いますけど、その歌い方はすごく斬新ですよね。普段なら滑舌よく歌うところを、ここではちょっとラフなニュアンスで歌っていて。
うんうん。それはEveくんの仮歌から受け取った表現ですね。ここは彼が提示してくれたように、ちょっとラフに崩した、ある意味日本語っぽくない歌い方にしないと、この曲の音と言葉が持つ面白さ、世界観が伝わらないと思ったので。
──ラップパートもありますよね。
ラップはね、スタッフ陣やアレンジをしてくれたNumaくんに何度も聞きましたよ。「ちゃんとラップできてる? 48歳、ムリしてない?」って(笑)。
──いやいや(笑)、めちゃくちゃカッコいいと思いますよ。
だといいんですけどね。ラップミュージックは自分のルーツ的にほとんど通ってないものだし、昔の自分はちょっと毛嫌いしてる節がどこかにあったような気がするんですよ。でも今はそこも素直に受け入れられるというか。「もう何でもやってやる!」っていう気持ちが、ソロをやるようになってからどんどん強くなってる気がします。
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SUPER BEAVER柳沢亮太のデモから受けた衝撃