柏木ひなたインタビュー|ソロアーティストとしての第一歩、「From Bow To Toe」に込めた感謝の言葉

柏木ひなたが私立恵比寿中学を卒業してから約半年。早くもソロアーティストとしての活動がスタートした。

グループ在籍時から“エビ中の歌姫”と賞され、単独でテレビ番組に取り上げられるなど広く支持を集めていた柏木。エビ中卒業後は迷わずソロアーティストの道を選び、ファンの期待に応えるべく早々に音楽シーンへとカムバックした。満を持してのソロデビュー曲「From Bow To Toe」はカラッと明るいアッパーチューンで、歌詞にはファンに向けたであろう感謝のメッセージが直接的に込められている。

デビュー曲に続き、7月12日には1st EP「ここから。」の配信リリースも決定。勢いよくソロアーティストとしてのスタートを切った柏木は、これからの活動に対しどんな思いを持っているのか。初のソロインタビューでたっぷりと語ってもらった。生き生きとした表情を収めた特集後半の撮り下ろしフォトギャラリーも併せて楽しんでほしい。

取材・文・撮影 / 臼杵成晃

「打ち合わせ」という予定が増えた

──柏木さんは昨年12月16日のライブ「私立恵比寿中学 柏木ひなた卒業式『smile for you』」をもって私立恵比寿中学を卒業しました(参照:エビ中・柏木ひなた、ラストライブで12年間の集大成を披露「みんなのおかげで輝き続けられた」)。小学生の頃から12年という長い期間「エビ中の人」として生きてきたわけですよね。卒業ライブが終わったからと言って、すぐに気持ちの切り替えはできました?

私が卒業した次の日が新体制のお披露目ということもあったから、自分の中にも、メンバーの中にも、ファンの皆さんの中にも「卒コンが終わったらすぐに切り替えなくちゃ」という気持ちがあったと思うんです。エビ中の柏木ひなたは12月16日で本当に終わり、という気持ちをずっと持っていたので引きずることはなかった。あのライブですべてを出そうと思っていたから、きちんと「私立恵比寿中学の柏木ひなた」を終わらせられたんだなって。それには自分自身でも安心しているというか。ファンのみんなもメンバーも引きずることなく「いってらっしゃい!」と送り出してくれたので、すぐに「ソロとしてがんばらなくちゃ」という気持ちになれました。

柏木ひなた

──先日、深夜に地上波で卒業ライブのダイジェストが放送されているのを観たとき、すごく昔の話のような感覚があったんですよね。半年しか経ってないのに。

それだけエビも私も次に進んでるってことですよね。

──柏木さんのファンも、ちゃんと未練なく今のエビ中を楽しんでいる感じがありますよね。ちゃんと“推し変”したり。

そう(笑)。みんなエビの現場に行って、2ショット会も行って。楽しんでますよね(笑)。自分が卒業したあとも、大切で大好きなグループをずっと応援してもらえているのは、元メンバーとしてもやっぱりうれしいです。

──すぐに切り替えられたとは言っても、12年間染みついた体内リズムというか、「私立恵比寿中学の柏木ひなた」としての行動、エビ中としての人生が急になくなってしまったことに戸惑いはないですか? 生活のリズムもきっと変わりますよね。

それが意外となかったんですよね。たぶん、コロナ禍の体験が大きいと思う。休みが何日も続いて、細かいお仕事だけをしながら「どうしていこうか」と考えていた2020年の春のあの時期に似てるなあって。

──ああ、なるほど。

そのあと2021年にもしばらく1人で休む経験をしているので(参照:私立恵比寿中学・柏木ひなた「ちゅうおん」後に一時休養へ)、「ヤバい、仕事しなくちゃ!」みたいな変な焦りはなかったです。普通にお休みを過ごしていた感じ。

──しばらくリフレッシュしてソロ活動に備えようと。ただ、こうして半年後にソロを始動させるとなると、そうそうゆっくりもしていなかったのかなと思いますが。

はい。エビ中時代にはあまりなかった「打ち合わせ」という予定が増えたんですよ(笑)。今後どうする?という打ち合わせにも当然最初から参加して。打ち合わせをするうちにだんだんソロの実感が湧いてきました。

──エビ中もキャリアや年齢を重ねるうちにメンバーの意見を反映する場面も増えてきたとは思いますけど、最初の頃は何せ小中学生でしたし、そもそもアイドルだとメンバー自身が方針や打ち出し方を考えることはあまりないですしね。「こういう曲ができました。こう歌ってください」「こういう作品をリリースしてツアーを回ります」と用意されたものをどう表現するか?というのがアイドルの仕事だとすれば、そこからは大きく変わった?

そうなんですよ。今は曲を決める段階から制作に携わっていて、どこまで自分で決めていいんだろう?という不安もちょっとあるけど(笑)。「えっ、これも私が決めていいの?」みたいな。でも、今まで大人たちだけでやってくれていたことに自分も携われているのはすごくうれしいです。

ダンサーになりたかった女の子が歌って踊るソロアーティストになるまで

──自分自身について、1人になって初めて気付いたことはありますか?

あのー、言葉が出てこないってことが一番(笑)。エビ中のときも後半はけっこう自分で意見を言えるようになったと思ってたんですよ。だけど、今はみんなが私1人のことを思って真剣に動いてくれているし、私もやらなきゃ!と思うものの、思えば思うほど、どんな言葉で伝えたらいいのかわからない。「こう伝えたいのに」と頭ではわかっていても、口が開かないの(笑)。もう笑ってるだけみたいな。私、コミュニケーション下手くそだなあって改めて気付きました。もともと自分を出すのがあまり得意なタイプではなかったので、まだそれが多少あるのかなって。遠慮しがちというか、どうしても1歩引いちゃうんですよ。

──柏木さんは以前から安室奈美恵さんへの憧れを公言していたし、ソロアーティストとして活動するビジョンはエビ中時代から、もっと言えばその前からあったんですよね?

私、子供の頃はあまり歌をやりたいとは思っていなくて。もちろん好きは好きでしたけど、別に歌はそのへんでも歌えるというか(笑)、歌手として仕事で歌うなんて考えてなかったんです。憧れていたのはダンサー。そっちのほうが優先で……奈美恵ちゃんを見て「私、この人みたいになりたいというよりは、この人のダンサーになりたい」と思ったのが最初でした。

──安室ちゃんみたいになりたい!じゃなく、安室ちゃんの横で踊っていたい。

そう! でも、ダンスを習っているうちにだんだん「歌もいいな」と思うようになって、「ダンサーになりたい」から「歌って踊れる人になりたい」に変わったんです。最初から歌手になりたかったわけではないから、エビ中に入って歌で注目されるようになっても、しばらくは「いや、自分はダンスのほうに力を入れてたので……」と申し訳ない感じでした(笑)。

──エビ中で活動をしているうちに比重が変わってきた?

はい。もっとさかのぼると、エビ中に入る前、理事長(スターダストプロモーション取締役副社長・藤下リョウジ氏。ももいろクローバーZや私立恵比寿中学をはじめとするアイドルグループの立ち上げに携わり、メンバーやファンの間では“理事長”の名で親しまれている)に事務所で「歌を歌ってみて」と言われたんです。CDを持ってきて自分の好きな歌を歌ってくれって。そのときに、CDプレイヤーが壊れてCDを読み込まなくなっちゃって、結局アカペラで歌ったんですよ(笑)。そしたら理事長に「君、歌声いいね」と言われて。初めて人に歌を褒められたんです。それまで歌うことはただ好きなだけだったけど、「人に褒められることもあるんだ」って、そこで初めて歌に対する気持ちが芽生えたのかもしれません。

柏木ひなた

──「憧れの職業=歌手」ではないところからのスタートだったと。エビ中では誕生日に合わせたソロライブが2016年から恒例行事になっていましたが、年に一度のソロライブによってソロアーティストとしての自分がイメージできたところもある?

そうですね。2021年に初めてバンドを入れてソロをやったんですけど……その前の年、2020年がエビ中に入って10周年のタイミングで、もともと芸能の世界に入ったきっかけでもある「ひとりで歌って踊れる人になりたい」って夢を改めて追いかけてみたいと思って、エビ中を“転校”(脱退)したいとスタッフに相談したんです。それは自分がエビ中をやってきた中で初めての大きな決断で。ただ、やっぱりグループでの活動を一番大事にしていたので、その時点ではグループを卒業する話は一度なしになったんですけど、「いつかはソロになって活動してみたい」という思いは頭の中に常にあって。それでその次の年の生誕ライブでは、これまでとは違う、アイドルとしての私ではない、歌に特化したソロ公演をやってみたいと思って「バンドでやってみたい。それも1公演だけじゃなくツアーで」と伝えました。

──東名阪で行われたソロツアー「over the moon」ですね(参照:エビ中柏木ひなた、憧れの小湊美和と誕生日デュエット「これ以上ないプレゼントです」)。

あのツアーで「人と一緒に音楽を作るのは楽しいんだな」と実感できました。そこでソロの自分がイメージできたというのはあるかもしれない。自分にとってもそうだし、観に来てくれたファンの方にも純粋に音楽を楽しんでもらえている実感があって。年に1回、ソロライブはこの形でやっていこうと考えていたんですけど……そのあと体調を崩してお休みに入ったときに、このままだとグループの活動を続けていくのは難しいから自分のペースで動けるソロの道を選ぼう、と改めて卒業を決断しました。

──柏木さんからはエビ中への強い愛着を感じていたので、グループを離れるという発表があったときは驚きました。

私、自分が卒業すると言ったとき、もっと否定的な意見があると思っていたんです。もちろん寂しいとか「ひなたがいないエビ中は考えられない」という声もありましたけど、逆にソロを楽しみにしてくださっている人もすごく多くて。卒業から半年でソロデビューなんてこんなにありがたいことはないので、デビュー曲を通して一番にファンの方への感謝を伝えたいなと思っていました。

──感謝を伝えるところからスタートしたいと。

楽曲制作にもイチから関われるようになったので、まずはスタッフの方にその意思をお伝えして。そこから制作を進めていきました。