瞬発力で作曲している
──収録曲はすべて短期間でまとめて書いたんですか?
今回、デュエットが3曲入ってるんですけど、それに関してはこの5年間で書いたストック。残りはさっきお話ししたように、去年の秋以降ギュッとまとめて作りました。ちなみに僕、どうやって曲を作ったかはほとんど覚えてないんです。アレンジの記憶はあるんですけど。瞬発力で作曲してるので、アドレナリンが出すぎちゃうのかなんなのか、昔からそう。
──以前のインタビューでも、「曲作りは基本、頭の中で鳴っている音を表現するだけ」とおっしゃってましたね。無理に曲を展開させるのは好みじゃない、と。
使うコード進行も大体決まってるしね。そういえば中学時代に、38 Special(アメリカのサザンロックバンド)の「Caught Up in You」という曲がヒットして、僕も好きでよく聴いていたんです。で、たまたま昨日の夜、なぜかコピーしたくなって、初めてギターで弾いてみた。そしたら、Curly Giraffeの楽曲のコード進行とそっくりだったという(笑)。その頃から好みがほとんど変わってないんですね。
──アルバム1曲目は先行シングル「SOMEWHERE」。シャープなギターのカッティングに、キラキラしたシンセの装飾音が印象的です。
この曲を作った時期に、たまたまThe Gap Band(オクラホマ州出身の黒人ファンクバンド)を聴いてまして。彼らの感じがけっこう強く出ている気がします。ああいうギターのカッティングとか、ストラトキャスターのハーフトーン(2つのピックアップを同時に使って出した音)っぽい響きとかもともと大好きですし。80年代っぽいシンセの音色も、子供の頃から聴いてきたものだから、やっぱり入ってると安心する。
──音像はそれこそAORっぽいんだけど、どこか切ない感じもあって。
ですね。さっきの「ロスの風景にはドヨンとした音像がしっくりくる」という話題ともつながると思うんですけど、ただ明るくてハッピーなだけの音楽って、個人的にはリアルに感じられない。「SOMEWHERE」もまさにそう。ダンサブルではあるけれど、むしろ“踊りながら切なくて泣けちゃう”みたいなイメージですかね。
マック・デマルコの日本語カバーを聴いて
──2曲目「a taste of dream」は、歌詞が日本語ですね。これまでのCurly Giraffeの楽曲はすべて英語でしたが、今作は12曲中8曲が日本語。大きな変化だと思うんですが、何か理由があったんですか?
これはですね。去年たまたまマック・デマルコ(モントリオール出身のシンガーソングライター)が細野晴臣さんの「Honey Moon」をカバーしてるのを聴いたんです。それがかなり衝撃的だった。聴いた瞬間、日本人じゃないっていうのはわかるんですけど、そのたどたどしさが言葉を超えた音として逆にグッときたんですね。うまいんだけど、ネイティブとは微妙に違う感じ。
──地上から数センチ浮いたような、柔らかい浮遊感がありますね。私たちが普段聴いている日本語とはちょっと異なる感じ。
たぶんそれが、僕の音楽の聴き方にしっくりきたんでしょうね。自分も洋楽を聴いているとき、歌詞に意味を求めすぎないというか、心地よい音として受け止めている部分が強いので。Curly Giraffeで日本語の歌詞を避けていたのも、その意識からだと思う。でもマックの「Honey Moon」を聴いたとき、自分もこういう日本語なら歌ってみたいなって初めて感じたんです。
──それって、今まではなかったことですか?
周囲からはさんざん「日本語でも歌ったほうがいいよ」って言われてたんですけど、ピンとこなかった。でも今回、自然にそういう気持ちになったので、せっかくだからやってみようと。レーベルの人はビックリしてましたけど(笑)。要は僕にとっての音楽って、歌も含めての音なんですね。耳に気持ちよければ、英語か日本語かは関係ない。今後は思い込みとかこだわりは捨てて、曲に合った言葉を選べればなと。
──日本語で歌うときに、何か意識したことはありましたか?
いや、歌そのものに関しては特にはなかったかな。そもそも歌い方を変えられるほど、器用なシンガーでもないし(笑)。ごく自然に、ありのまま歌っています。むしろサウンドプロダクションの中で、日本語の歌詞をどう生っぽくなくなじませるかのほうが大事だった気がする。あと、歌のキーはわりと低めに設定してる曲が多いですね。声を張るんじゃなく、普段歌ってるよりも呟きに近い感じ。タイトル曲の「a taste of dream」は特にそうです。
東京とロスのトラベル感
──歌詞は1stアルバムからすべてジーニー・クラッシュさんが手がけてこられましたが、今回はクレジットが“Tyger Lilly”になっていますね。
あ、これは名前が変わっただけで、同じ人です(笑)。
──全体を通してある種の“漂泊する感覚”だったり、ロードムービーっぽさが出ているように感じたんですが。
確かにそうですね。ただ歌詞については、いつも完全にお任せなんですよ。なので、それが意図的なものかどうかは、彼女に聞いてみないとわからない。もしかしたら、この数年は僕が東京とロスを頻繁に行き来しているので、そのトラベル感みたいなものを汲んでくれたのかもしれませんね。いつも先に曲を渡して、そこに言葉を乗せてもらっているので。
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高橋幸宏、藤原さくら、ハナレグミとのデュエット