オレは1人で3人分すごいんだ

クレモンティーヌ　ところで大橋さんは1人なのにどうして名前が「トリオ」なんですか？

大橋　僕は歌をやる前に映像音楽の仕事をしていて、歌を歌うって決めたときに考えた名前がこれだったんです。ジャズピアノをやっていたのでその要素を入れたかったんですけど、ジャズの人って山下洋輔トリオ、小曽根真トリオ、オスカー・ピーターソン・トリオとか「トリオ」を名乗るじゃないですか。あと「トリオ」という響きは日本人男性の名前っぽくもあるので。

クレモンティーヌ　へー。面白いですね。

大橋　よく「3人じゃなかったんですね」って言われます。

クレモンティーヌ　エゴイズムが強い人で、「オレは1人で3人分すごいんだ」とか言うのかなと思ったんですけど、違いましたね。

大橋　あ、でもそれもちょっとだけ（笑）。

クレモンティーヌ　あはははは（笑）。プロフェッショナルなミュージシャンとして生きていくためには、そういうエゴも必要ですよね。

ユニークなアルバムジャケットの意図

クレモンティーヌ　大橋さんはいろいろな面白いアイデアを持った方ですね。この「PARODY」のジャケットも素晴らしいです。

大橋　ありがとうございます。

──CDジャケットの写真で、大橋さんはロックスターや歴史上の偉人などを連想させる姿に変身しています。これはどういった意図で？

大橋　スタッフが「大橋くんがラフに撮った写真をジャケットにしてみたら？」って例で見せてくれたのがアンディ・ウォーホルのポラロイド写真の寄せ集めみたいなやつで。それがすごくカッコよかったので、そんなふうに僕がいろんな人に扮したポラを集めたら面白いんじゃないかということになりました。あえて「この写真のモデルは○○」と言わず、伝説のギタリスト風、中米の革命家風……みたいに（笑）、みんなでアイデアを出し合っていきましたね。実はそのあとでタイトルチューンの「PARODY」ができたんですが、それによってこのジャケットにも意味が出てきたなと思います。

──アルバムの内容も、圧倒されるほど振り幅の大きい楽曲が詰まった、聴き応えのある1枚でした。

大橋　いつもいろんなことをやりたいとは思ってるんですけど、今回はまさにそこがメインのテーマというか。とにかくいろんなジャンル、いろんなアプローチの曲……ということで、1曲1曲に時間をかけて作っていきました。mabanuaくんという今活躍中のトラックメーカーに 5曲ほど参加してもらったんですけど、レコーディング中は彼がうちに泊まりに来てくれて。2泊3日を2回くらい（笑）。おかげでじっくり作れました。クレモンティーヌさんにはぜひ音楽のほうも聴いていただければと思います。

クレモンティーヌ　もちろん！ 早く聴きたいです。

世の中で一番大切なのは出会い

──大橋さんからクレモンティーヌさんへの質問はありますか？

大橋　日本の音楽やアーティストについてどう感じているのか聞いてみたいです。

クレモンティーヌ　日本のアーティストと一緒に曲を作って思うのは、皆さん勉強家ですよね。日本の方が作った曲は歌ってみると想像以上に難しかったり、こんなに構成が複雑なんだって驚かされることが多いです。

大橋　個人的に思うことなんですが、海外の音楽はシンプルでキャッチーな要素が強い。日本の音楽は逆にそういうところが弱いのかなって。

クレモンティーヌ　真面目な人たちだから丁寧にいいものを作ってるんだけど、今回の大橋さんみたいにもう少し外に目を向けて、インターナショナルな方向で売っていくのもいいのになって個人的には思います。

大橋　それがしたくて目指してる人はいっぱいいると思うんですけど、現実はなかなかうまくいかないことも多い。その点でいうと、今回僕は素敵なチャンスをいただけて、自分の音楽がどこまで通用するのかっていう腕試しみたいな気持ちもあって。先ほどクレモンティーヌさんから直接お褒めの言葉をいただけてすごくうれしいし、もっと世界に出て行きたいなって思いました。

クレモンティーヌ　世の中で一番大切なのは出会いです。チャンスが落ちている場所へ行くか行かないか迷ったら絶対行ったほうがいいし、やるかやらないかで迷ったら絶対やったほうがいい。大橋さんのメロディは本当に素晴らしいので、どうか外に目を向けて、これからも音楽を続けていってください。また何か一緒にできるとうれしいです。

大橋　僕も同じです。今日は本当にありがとうございました。