音楽ナタリー Power Push - cero
変化の時を迎え、やがてバンドは次のコーナーに
今回は自分のタイム感で気楽に作りたかった
──「街の報せ」のニューヨークでレコーディングした部分は、どんな感じでしたか?
髙城 黒田さんの家でアレンジをしたんですよ。
荒内 まず「ジグザガー(rework)」のベーシックになる2分くらいのデモを作っていって、2分じゃ尺が足りないから、どうしようかって“TK旅館”でみんなで酒を飲みながらアイデアを出し合ったんです。昼に作り始めて夕方くらいには完成して、その後、黒田さんの家で酔いつぶれてみんな寝てました。
──ジャズミュージシャンっぽい(笑)。
荒内 それでセッションして酔いつぶれて、夜にふと起きたら黒田さんが「街の報せ」の譜面を書いて1人でトランペットを吹いてたんです。その時点でイントロのフレーズができてたんですけど、キーが違ってたから「ちょっと直してください」って言いました(笑)。で、その後みんなでスタジオに行ってコーリーと会って、1時間くらいで録音して。黒田さん的に納得いくフレーズができたみたいで、すげー満足してるって言ってましたね。
髙城 黒田さんは録り終わった音を何回も聴いて、その後に自分の家に帰ってからも「もう1回聴こう」って言ってて。自分で何回も聴きまくってた。
荒内 黒田さんとコーリーがやるのもひさしぶりだったみたいで、その2人もうれしそうでよかったですね。トランペットのフレーズはロイ・ハーグローヴの「Crazy Race」を意識してくれてると思うんですよ。歌詞に「ファミレスで聴くロイ・ハーグローヴ」って出てくるし。
──もとからこの歌詞ですか?
荒内 そうですね。黒田さんが入る前から。
──黒田さんはロイ・ハーグローヴのことを尊敬してるから、それに合わせた歌詞なのかと思ってました。言われてみると「Obscure Ride」に入っていてもおかしくない曲ですね。
荒内 「Obscure Ride」はこういう曲を生演奏でやろうってコンセプトで作りました。あのときは、ヒップホップ的なビートを生でやることに躍起になっていたというか、そこが1つのテーマだったんですけど、生ドラムに置き換えるときの労力が大きくて。こういうヒップホップ的なビートのタイム感を完全に光永(渉 / Dr)さんにトレースしてもらうっていうのも難しいですし、音色的にもキックの強さを出すにはミックスに時間がかかっちゃうんですよね。1年半経って、また生で置き換えるのもどうなんだろうって思って、そこまでやらなくても自分のタイム感が完璧に頭の中にあるんだったら、そのまま出しちゃってもいいかなって。当たり前の話ですけど、自分のタイム感でビートを作ってるので、ストレスはないですよね。もちろんそのストレスは悪いものではないし、生でやる面白さも十分あるんだけども、今回は気楽に作りたかったので。
「外注してみる」っていうのがテーマの1つ
──今回のシングルで面白かったのが、3曲共リズムの作り方がそれぞれ違うことで。「Obscure Ride」は総じて人力だったけど、今回はそれにこだわらずにやってますよね。「ロープウェー」は特にそのこだわりから自由になった印象があります。ビート制作を手掛けたのはSauce81で、ベースは岩見継吾さんのコントラバス。
髙城 「Obscure Ride」と関係がないと言ったらあれですけど、そこと切り離した感じで、何か作ってみようかなって思って、習作のような感じでモチーフを探して、それに曲を付けてみたんです。滝本淳助さんの写真をTwitterで見て、いい写真だなと思って、画像保存してたんで、これに何か曲を付けてみようと思って作ったのが「ロープウェー」だったんです。
──なるほど。
髙城 曲自体はシンプルだけど、何か新しいことをしたいなと思った部分はあったので、僕も生演奏に置き換えずにそのまま出す想定で打ち込みで作ったんです。作業はMTRでいつものようにやりましたね。このシングルは最初から、バンド外の人と作ってみるっていうか、外注してみるっていうのをテーマにしてて。エンジニアにしてもそうだし、ゲストにしてもそうだし。「ロープウェー」に関しては、誰かに聴いてもらったうえでトラックを組み直してもらいたいっていう話をしてて、お願いする相手として最初はDorianさんとか、Seihoくんとか近いところにいる人の名前が挙がっていたんです。でも、本当に初めて会うような人のほうが今回の試みでやりたいことに近いかなと思って。エンジニアの奥田(泰次)さんに話したら、「Sauce81って人が合うと思うよ」って教えてくれて、音源を聴いたらすごくよかったんで、お願いしたんです。結果、僕が打ち込んだものにかなり寄せて作ってくれたんですけど、新しい試みとして非常に刺激的でした。
──打ち込みのビートに岩見さんのコントラバスっていう組み合わせはすごくよかったですね。岩見さんがやってるOncenth Trioもちょっと無機質な質感をアコースティックのトリオで出してるけど、その感じと合ってますよね。
髙城 奥田さんとも話してたんですけど、結果的にどこまでがマシンで、どこまでが血の通った生演奏なのかが相当あいまいになっていて、そこが面白いんですよね。確かに完成品は人力とそうでないものを分けるのがあまり意味をなさない、変な質感になったと思います。
──今までのceroになかった質感かもしれないですね。
髙城 曲自体はceroらしいというか、僕らしい曲だと思うんですけど、質感については新しいことができたので次に生かせそうな気がします。
──バスクラリネットが入っているのもよかったです。
髙城 それもなんとなくイメージがあって、最初に「ロープウェー」のデモをみんなに聴かせたときに、「キング・クルエル的なロンドンっぽい感じと、ジョー・ヘンリーみたいな暗いアメリカンゴシックの感じが混ざったようなものを作ってみたい」ってなんとなく言ったんですよ。バスクラはそのへんの名残として入っています。
──クラリネットが入ると、ブラックミュージックというよりは室内楽感が出ますよね。
髙城 バスクラとか、サブキック、ウッドベースとかを使うと、ローの要素はすごくふくよかなんだけど、フロアで鳴ったらズーンって響いて気持ちいいんじゃないかなと思います。
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収録曲
- 街の報せ
- ロープウェー
- よきせぬ
- ライブBlu-ray / DVD「Outdoors」 / 2016年12月7日発売 / カクバリズム
- Blu-ray Disc / 5000円 / DDXK-1002
- DVD / 4000円 / DDBK-1014
収録曲
- (I found it)Back Beard
- 21世紀の日照りの都に雨が降る
- マウンテン・マウンテン
- 大洪水時代
- 船上パーティー
- good life
- スマイル
- さん!
- Summer Soul
- Yellow Magus(Obscure)
- Orphans
- ticktack
- ロープウェー
- outdoors
- Elephant Ghost
- わたしのすがた
- ターミナル
- 夜去
- Narcolepsy Driver
- Wayang Park Banquet
- 大停電の夜に
Encore
- Contemporary Tokyo Cruise
- 街の報せ
cero(セロ)
2004年に髙城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key)、柳智之(Dr)の3人により結成された。グループ名のceroは「Contemporary Exotica Rock Orchestra」の略称。2006年には橋本翼(G, Cho)が加入し4人編成となった。2007年にはその音楽性に興味を持った鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースを手がけ、翌2008年には坂本龍一のレーベル・commmonsより発売されたコンピレーションアルバム「細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-」への参加を果たす。2011年にはカクバリズムより1stアルバム「WORLD RECORD」を発表。アルバム発売後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退し3人編成になった。2013年12月に「Yellow Magus」、2014年12月に「Orphans / 夜去」というブラックミュージックにアプローチした2枚のシングルを発表。2015年5月に3枚目のアルバム「Obscure Ride」をリリースした。2016年には東京・日比谷野外大音楽堂と大阪・大阪城野外音楽堂でワンマンライブ「Outdoors」を開催し、その日比谷野音公演の映像を12月にDVDとBlu-rayで発表。同日にシングル「街の報せ」を発売した。