ナタリー PowerPush - BRAHMAN
フロントマンTOSHI-LOWが語る 5年ぶりアルバム「超克」
自分たちにしかできないカバーがやりたい
──今回特にお聞きしたかったのは、カバーでジュディ・シルを取り上げた理由なんですよ。すごく意外な選曲だったので。
イヤですか?
──いやいや、そんなこと言ってない!(笑) ただ、普通に考えればBRAHMANとジュディ・シルはなかなか結びつかない。しかも日本語だけのアルバムに1曲だけ英語曲で、しかもボーナストラック的な扱いじゃなく、ちゃんとアルバムの流れの中にきっちりと位置付けられている。
カバーですから、何やったっていいんですけど……。今までの俺たちのカバーって、あまり知られてないアーティストや曲をやるパターンが多い。いわゆる名曲を自分なりにアレンジして、というのが一般的だと思うんですが、それにあまり魅力を感じない。カバーも自分たちにしかできないものをやりたい。
──前からやってる曲なんですか?
いやぜんぜん。今回も1曲ぐらいカバーやろうよってことになって。でもジュディ・シルは俺が何曲か持ってきた中でも、無理じゃん、難解だし、変な曲だしって。ボーカルのリズムとバックが合ってなくて、女性的な感じと崇高な感じが混ざってて……俺らには無理じゃんて話にいったんなって。でも最終的にはみんなが「面白い」「いい曲だからやろう」ってなった。
──歌詞に思い入れは?
歌詞もいいですよね。本人はすごく数奇な運命をたどったわけじゃないですか。ジーザスって言葉は出てくるけど、直球で「神様素敵」と思ってる人じゃないだろうなと。
──本人は「これは神の歌じゃなく、ただの失恋の歌だ」って言ってたみたいですけどね。
でもダブルミーニングとかあるだろうし、こういうタイトルを付けて、こういう言い回しをしてますからね。本当に失恋の歌なら、「ハートブレイク」でもいいわけだし。でもあえて神様を登場させるような表現を使って、自分が生きている証を記そうとした。共感する、というのじゃないけどね。俺には神様とかよくわからないし。
──アルバムのこの位置にあるのがいいアクセントになってますね。ここからちょっと流れが変わる感じがある。
やっぱりアルバムってフルコースじゃないですか。順番間違えると食べられなくなっちゃう。始めのほうにばっかりメインがきちゃったら、お腹一杯になっちゃうし。だからそういう流れは意識してます。でもそういうのって普通の感覚でやってるから、カバーによる特別な狙いというのはないんですよ。
──でも、いいカバーだと思いますよ。
なんだっけ、あの曲カバーしてる。ホリ……。
──THE HOLLIES?
あれよりはよかったかなと思いますけどね(笑)。
「10年後にやれる曲だけを作ろう」
──曲作りは基本的にスタジオの中で全員でやるんですか?
そうですね。持ってくるパーツが多かったり少なかったりしますけど、基本的には4人でやります。ただ今回もう俺はほとんど(レコーディングスタジオに)行ってないんですよ。歌詞を書く時間がなくて、3人はスタジオで録音してて、俺は別の所で歌詞を書いて、夜になって歌入れしてって作業がずっと続いて……。
──今回の歌詞は時間かかったでしょう。
かかりましたね。これまでみたいにすべて感覚的にパーッと決められるわけじゃなかったから。1つひとつ意味付けがあるから。
──これはあくまでも出発点ということですよね。これからライブを重ねるごとに歌の意味が成熟してきて、違う意味も出てくる。
うん。あるいは、本来の意味が見えてきたり。まだ俺は歌詞を書いてる段階では上辺だけしかわかってないんで。そういう歌がライブの現場で鍛えられていくことで、本当の意味が実感できるんじゃないかと思いますね。
──横山健くんに去年インタビューしたとき、アルバムの「Best Wishes」について、こんなことを言ってたんですよ。「何年か経ったら、なんでこういう作品ができたかわからないよね、って思われるぐらいの作品であってほしい。2011年から2012年にかけての日本の、40代の2児の父親が考えたことがそこにある。よその国の、あるいは何年かあとの人が聴いたら『これ、何を言いたいわけ?』っていうぐらいの内容であってほしい」(雑誌「BOLLOCKS」2012年12月号)。つまり、5年先、10年先も聴き継がれていくものというより、時代の空気感を閉じ込めた「今の日本を表すもの」になってほしいと。TOSHI-LOWさんは今回、そういう気持ちはありました?
ああ! なるほど。でもそれはないなあ、俺。バンド始めて最初にうちのドラムと話してたことがあるんですよ。「10年後にやれる曲だけを作ろう」って。そのときはバンドは10年ぐらいが限度かと思ってたから。もちろんがんばって駄作になるのはしょうがないけれども、でも無駄なものを作るぐらいだったら、その無駄をなくして、本当に大事なことだけやろうと。10年先に歌えなくなっちゃうような曲を作るのはやめようと。現に今も20年前に作った曲をやってるしね。
──10年後も歌える曲を作る。でもそれと同時に、現在の自分を反映する曲であらねばならない。
もちろんそれはそうです。極端に言えば、今日1日生き残ればいい、というぐらいのつもりで一生懸命やってて、今日明日を精一杯生き抜いて、それが10年後まで続くという感じですね。それ以上先のことは考えてないし、考えられない。
──ある人がね、10年先20年先に自分という名前や存在は忘れられても、曲だけが生き残って聴き継がれていればいいって言ってたんですよ。それは共感できます?
あ、俺、どっちも残んないと思うけど(笑)。結局自分のためにやってるんで、残ろうが残るまいがどっちでもいい。どっちみち100年経ったら消えてるだろうし。歴史に名を刻みたいとか、後世に何かを残したいとか、そういう感覚ないんだよね。だったら自分の今を刻みたい。
──でも10年後も歌える曲を作ってる。
そうなんですよ。今を刻むためには、10年後にも耐えうるような曲じゃなきゃダメなんですよ。今日明日しか保たない安物じゃダメなんだと思います。今を戦い抜くために、折れる可能性があっても名刀が必要なんです。
──今を戦わなきゃ明日も来ない。
そうなんですよ。1日1日を生き抜いて、1ステージ1ステージを戦い抜くためには、鼻歌みたいな歌じゃダメなんです。
» ツアー情報
- ニューアルバム「超克」 / 2013年2月20日発売 / NOFRAMES
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / TFCC-86425
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / TFCC-86425
- 通常盤 [CD+DVD] / 2625円 / TFCC-86426
- アナログ盤 [アナログ] / 3000円 / PPTF-3859
BRAHMAN (ぶらふまん)
1995年に東京で結成された4人組ロック / パンクバンド。ハードコアと民族音楽をベースにしたサウンドを特徴とする。1996年に初めての作品として「grope our way」をリリース。1998年に発表した1stアルバム「A MAN OF THE WORLD」はトータル60万枚以上のセールスを誇り、90年代後半にひとつの社会現象になったパンクムーブメントにて絶大なる人気を集める。ライブを中心とした活動を行っており、日本以外にもヨーロッパやアジアでもツアーを行うなどワールドワイドな活躍を見せている。2011年3月11日の東日本大震災以降よりライブ中にMCを行うようになり、震災の復興支援を目的とした活動を積極的に展開。2011年9月にシングル「霹靂」、2012年9月にシングル「露命」を発表し、いずれも強いメッセージと圧巻のサウンドがリスナーに受け入れられた。2013年2月に5年ぶりとなるアルバム「超克」をリリース。