ナタリー PowerPush - BRAHMAN

フロントマンTOSHI-LOWが語る 5年ぶりアルバム「超克」

BRAHMANの音楽は“家のごはん”

──素人考えだと、毎日毎日同じ曲やってたら飽きるんじゃないかと思いがちですけど。

うーん、飽きるような曲を作るからじゃないですか?

──はははは(笑)、確かに。

家のごはんは飽きないじゃないですか。どっちかといえば俺らそういうものなのかもしれないし。濃いめのごった煮だけど。自分たちの中から出てくるものだから。外食的な見栄えは少ないかもしれないけど。

──ご自分のレパートリーでやらなくなった曲はないんですか?

ないですよ。もちろんメインでやる曲はありますけど、その合間にいろんな曲をやる。18年前の楽曲とか平気でやってますからね。

──歌詞とか、そのときの感情や考えが特に出てくると思うんですが、18年前の曲を今歌うのにギャップとか感じませんか?

若えなあ、とは思いますけどね。でも意外に「そのときだけオッケー」みたいな曲ってBRAHMANの場合ないから。

──今歌う意味があるし、今歌うなら違うニュアンスも出てくる。

そのとき歌えなかったものも歌えるかもしれないし。もちろんそのときあったものを失くしてるかもしれないけど(笑)。全部確かめることができる。

音楽と向き合うようになった

──今回のシングルで、アルバムまでに何か変化のあった曲はありました?

ありました。「霹靂」は録り直したんですけど、シングルは2011年の4月に録ったんで、そのときにしかない空気感が入ってる。俺らも、日本全体も切迫してた時期のもので。ほぼ一発録りで録ったんですよね。でも、もう1回楽曲と向き合って、丁寧に歌ってみるとか、ライブを1年2年やったうえで、そういう経験もイメージして歌ってみるとぜんぜん違ってくる。震災から1カ月の2011年4月に見えてた光景と、震災から1年9カ月経った光景がまったく違うように。もちろん同じものもあるんだけど。同じ楽曲でアレンジも大して変わってなくても、気付きはありますよね、小さなものでも。ああこういう歌い方ができたんだなと思うことも、ここは変えちゃダメなんだなと思うこともある。

──1年9カ月経って、TOSHI-LOWさんの中で何が一番変化しました?

以前はちゃんと音楽と向き合ってなかったんじゃないかなって思いますね。震災直後は焦って突っ走ってたし。基本的にはそういうタイプなんですけど、今はもう、勢いに任せてやる時期じゃないだろうし。一番いいのは、ボランティアとかじゃなくて、音楽でつながれればそれがベストなんですよ、俺たちは。できることはいろいろあるんだけど、やりたいものは音楽だし、こういう表現方法なんですよ。別にボランティアの人になりたいと思ってないしね。でもそういう活動をすることで、それまで自分たちが触れてなかった、考えてなかったことに向き合うようになった。偽善だなんだと周りから叩かれることも含め、そういう現実と向き合うことを意外にしてなかったのかなと。ラッキーなことに長いこと音楽をやってこれたけども「じゃあお前どこまで深く音楽と向き合ってたの」と自分で問いただすと、まだまだ俺もやりきれてないこともあるんじゃないかなと、反省すべきところが出てきた。このまま行ったら後悔しちゃうかもな、ということがありましたね。歌と向き合えてなかったんですよ。

──そういえばあるインタビューで、「歌うということに初めて前向きになれた」というようなことを言われてましたね。

バンドのボーカルって“歌手”じゃないじゃないですか。パフォーマーでもいいし、いろんな在り方がある。俺、ボーカルのわりに歌を一生懸命やってなかったなと。

──ご自分をなんだと規定してたんですか。

フロントマンだし、バンドマンではあるけど、シンガーじゃないし、歌手でもなかった。自分の喉とカラダを使ってやってることに対して知識もなかったし、なんの勉強もしてなかった。ただ思い込みだけでやってた。

──歌うことで何かを伝えたり表現することに自覚的ではなかった?

歌っていう手段に対しては自覚的だけれども、それをちゃんと自分で選び取ったのかっていうと、そうじゃなかった気がするんですよ。それがわからなくなってしまったときに、初心に戻らなきゃいけないんじゃないかなって。最初にステージに立ったときとか、初めて音楽に接したときに自分がどう思ったか。そう考えたとき、自分の鳴らしたい音、歌いたい歌、こういうことをやってみたい、歌いたいっていうのが出てきた気がしますね。震災が起きるまで、それまで愛だ平和だって歌ってた連中が、いざとなると何もしなかった。ああいう切迫した緊張感のある現実の中で、嘘ばっかりの歌が響かなかった。そういう連中みたいにはなりたくないと思ってずっとやっていたんです。ただ、食べていくこととか、現状とか、もしかしたら知らず知らずに迎合してたのかもしれない。例えるなら、海で遊んでるときに、同じ場所で遊んでるつもりが、いつのまにか流されちゃうとか。そんなことがあったかもしれない。気付いたときには沖に流されてたとか。そうならないようにずっと気を付けてはいたけど、少しずつ違ってきてたのかもしれないし。そういう自分を突きつけられたところがあったんじゃないですかね。自分が嘘だと思いたくねえ、じゃあ何をするんだよっていうのを突きつけられた気がします。

──自分のやってきたことを嘘にしないために……。

……どうするんだっていう。そのときに「テキトーにやってます」みたいことは言えねえだろうっていう。

──楽な方向にいこうと思えばできたけど、そうはできなかった。

それやるんだったら、トイズファクトリーに入ったときに、もっと売れる方向にいったと思いますよ(笑)。でもそれをやったら、華々しく終わったと思いますけど。自分が耐えられなかった気がしますね。デビューした頃にも十分売れさせてもらって、あれでも自分でギリギリなところがあったから。もっともっと自分を大きく見せて、それこそ孔雀の羽根みたいに自分を誇張してたら、現実の自分とのギャップに耐えられなかったと思う。

ニューアルバム「超克」 / 2013年2月20日発売 / NOFRAMES
初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / TFCC-86425
初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / TFCC-86425
通常盤 [CD+DVD] / 2625円 / TFCC-86426
アナログ盤 [アナログ] / 3000円 / PPTF-3859
CD収録曲
  1. 初期衝動 PVを観る
  2. 賽の河原
  3. 今際の際
  4. 露命 PVを観る
  5. 空谷の跫音
  6. 遠国
  7. 警醒 PVを観る
  8. 最終章
  9. Jesus Was a Cross Maker
  10. 鼎の問 PVを観る
  11. 霹靂 PVを観る
  12. 虚空ヲ掴ム
初回盤DVD収録曲
  1. TONGFARR
  2. THE ONLY WAY
  3. SEE OFF
  4. BEYOND THE MOUNTAIN
  5. CHERRIES WERE MADE FOR EATING
  6. SPECULATION
  7. 鼎の問
  8. 露命
  9. 警醒
  10. ANSWER FOR…
  11. 霹靂
  12. 賽の河原
  13. 初期衝動 (MV) (BONUS TRACKS)
  14. 警醒 (MV) (BONUS TRACKS)
BRAHMAN (ぶらふまん)

1995年に東京で結成された4人組ロック / パンクバンド。ハードコアと民族音楽をベースにしたサウンドを特徴とする。1996年に初めての作品として「grope our way」をリリース。1998年に発表した1stアルバム「A MAN OF THE WORLD」はトータル60万枚以上のセールスを誇り、90年代後半にひとつの社会現象になったパンクムーブメントにて絶大なる人気を集める。ライブを中心とした活動を行っており、日本以外にもヨーロッパやアジアでもツアーを行うなどワールドワイドな活躍を見せている。2011年3月11日の東日本大震災以降よりライブ中にMCを行うようになり、震災の復興支援を目的とした活動を積極的に展開。2011年9月にシングル「霹靂」、2012年9月にシングル「露命」を発表し、いずれも強いメッセージと圧巻のサウンドがリスナーに受け入れられた。2013年2月に5年ぶりとなるアルバム「超克」をリリース。