ナタリー PowerPush - BRAHMAN
フロントマンTOSHI-LOWが語る 5年ぶりアルバム「超克」
「超克」は“個”を支えるために作った
──ここ最近のTOSHI-LOWさんはちょっと変わってきた気がしますね。構えや気取りがなくなって、それこそ等身大になってきたというか。
……つまんないと思いますよ俺、等身大だと(笑)。
──いえいえ。生身の人間として観客、音楽と向き合っている印象があります。
でもね、負けねえぞって気持ちはあるんですけどね、まだまだ(笑)。
──何かと戦っているって気持ちはあるんですか。
もはや自分と、ですけどね。自分の弱いところ。だから諦めないようにする。できないことでもなんでも。制作しててもそうだし、人とぶつかったときでもそうだし。このまま逃げちゃおうかなあ、とか……。俺けっこう本気で思うタイプなんで、1回頭の中で想像しますね。
──他人に対する怒りというのはありますか?
ありますね。それで相手を殺すんですよ、頭の中で。今前科ないから、捕まって何年(刑務所に)入って、とか全部シミュレーションして、あ、殺すとすごい無駄な時間を費やすことになるなと悟って、殺さないでおこうと(笑)。
──日常的に一番腹が立つ瞬間って、どういうときですか。
弱い者に対するいじめみたいなものに腹が立ちますけどね。俺は強い者にあたっていくから勝負だと思ってるし。小が大を倒すとか、そういうのに人生の醍醐味を感じる。集団でいじめたり、強い人が弱い人をいじめたり、そういう感覚は気持ち悪いし腹が立つ。
──このアルバムを出すことで、より大きなものに立ち向かっていこうという気は?
いやあ、基本的にはこの作品は自分っていう“個”を支えるものだと思ってるので。自分っていう個を支えることが、誰かの個を支えることになるんだったら、心の底からうれしいですね。でもそれは目的じゃない。自分を支えるために作ってるから。
今は日本語から逃げたくない
──全曲日本語で歌うようになったのは、より強く誰かに伝えたいという気持ちからですか?
うーん……普通に洋楽が好きな世代だったし、英語で楽曲をやることですごくスピード感を得た90年代の人たちが好きでライブハウスとか行ってたから。日本語のデメリット──音が切れるところとか、意味がメロディを越してしまうところとか、わかりすぎて雑念が入りすぎちゃうとか──そういうのから逃げてたつもりはないんですけど、もし日本語でスピード感とか力強さが出せるんだったらやりたいと思ってたし。これまでも日本語の曲は入ってたからね。ただ昔に比べると、ちょっとずつ量は増えてるんですよ。とはいえ今でも「何語でもいいじゃねえの?」というのはある。もともとワールドミュージックとか好きだし、どこだかわからない言語でもすごい感動することがあるし。だけど、今は日本語から逃げたくないなっていうのがあって。
──日本語をリズムに乗せる弊害や難しさは、今回どのように解決を?
それはもう……自分の中でグッとくる言葉をいいリズムに乗せて、自分とか自分以外の声も使って表すっていうのをやっていく作業ですね。
──1回で聴いただけではわかりにくい漢語や難しい言葉を多用してますね。
だいぶ易しくなったんですよこれでも(笑)。なんだろ。色気があったほうがいいものもあるし、難しすぎると入ってこないものもあるし、そこらへんは自分の感覚なんで。伝わってないこともあるけど。だけども決して日常で使ってない漢字じゃないし、感覚的にわからないものでもない。絵画を見るような難しさはないと思うんですよ。芸術性だけを求めたような難解さはないつもりです。
──聞き流してほしくないのかなと思いました。考えさせたいのかなと。
簡単でグッとくる言葉があれば、それでもいいと思うんですよ。簡単に越したことないんで。でも「それが愛なんだぜ」とか言われたら、「違う」と思うタイプなんで(笑)。
──特にパンクとかラウド系のロックだと、ライブですんなり歌詞が聴き取れることってまずないじゃないですか。歌詞のことを知ろうと思ったらCD買って、歌詞カード読まなきゃならない。でもそれをやるんだったら、多少難しい言葉でも考えて理解するからいい、という考え方もありますね。
そうなんですよ。歌詞を聴き取るためにライブハウスとか行ったことがないんで。コンサートとかの考え方だったら別ですけど。音楽全体でオッケーだったらオッケーと思っちゃう。
──伝えたいことがあれば、どう表せばいいか、どうすればわかってもらえるか考えますよね。
でも寝っ転がってるときに突然わかることもあれば、すごい必死に走ってるときにわかる言葉もあるわけで、それを全部平たくしようとするから、面白くない歌詞ばっかりになっていく。どの曲もそれこそ愛だ平和だ、世界中が敵になっても君を守るよ、みたいな歌詞になっていく。そうじゃないと思うんですよ。いろんなシチュエーションがあって、自分の中でもジェットコースターみたいに起伏があって、いろんな言葉があって、わかりやすいときもそうでないときもあって、そういうのはアルバムじゃないと見えないときもある。3曲じゃわかりづらいなと。13曲あると、そういう起伏や強弱やバリエーションがつけられるんですよ。
- ニューアルバム「超克」 / 2013年2月20日発売 / NOFRAMES
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / TFCC-86425
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / TFCC-86425
- 通常盤 [CD+DVD] / 2625円 / TFCC-86426
- アナログ盤 [アナログ] / 3000円 / PPTF-3859
BRAHMAN (ぶらふまん)
1995年に東京で結成された4人組ロック / パンクバンド。ハードコアと民族音楽をベースにしたサウンドを特徴とする。1996年に初めての作品として「grope our way」をリリース。1998年に発表した1stアルバム「A MAN OF THE WORLD」はトータル60万枚以上のセールスを誇り、90年代後半にひとつの社会現象になったパンクムーブメントにて絶大なる人気を集める。ライブを中心とした活動を行っており、日本以外にもヨーロッパやアジアでもツアーを行うなどワールドワイドな活躍を見せている。2011年3月11日の東日本大震災以降よりライブ中にMCを行うようになり、震災の復興支援を目的とした活動を積極的に展開。2011年9月にシングル「霹靂」、2012年9月にシングル「露命」を発表し、いずれも強いメッセージと圧巻のサウンドがリスナーに受け入れられた。2013年2月に5年ぶりとなるアルバム「超克」をリリース。