10月よりABCテレビほかで放送中のテレビアニメ「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。」は、月刊「少年ガンガン」で連載中のmatobaによる同名マンガを映像化した作品。魔界を統べる大悪魔でありながら可憐な容姿のゆるふわ少女・ベルゼブブと、その近侍となった純情乙女男子・ミュリンの不器用な恋模様がコミカルに描かれている。
音楽ナタリーではこのアニメの音楽を手がけた分島花音と千葉"naotyu-"直樹、そしてオープニングテーマを担当する三月のパンタシアのボーカル・みあによる座談会を実施。「ベルまま。」の世界観を彩る音楽について語ってもらった。
取材・文 / 須藤輝
クラシックの要素と作品がうまく噛み合えば
──分島さんは今回、初めてアニメの劇伴を担当されたそうですね。
分島花音 そうなんです。私は普段、楽曲を作る際はアレンジャーさんと相談しながら作業を進めていたこともあって、正直私1人で劇伴の制作が成り立つのか懸念があったんです。なので、今回はnaotyu-さんに支えられながらチャレンジさせていただきました。
千葉"naotyu-"直樹 基本的に僕は分島さんが作ったデモをいただいて、尺の調整やアレンジ的な部分でサポートする立場だったんですけど、そのデモ自体がかなりしっかりしていたんです。だからなるべくその雰囲気を生かす方向で、変にいじりすぎないようにしました。
分島 naotyu-さんは私が描いたイメージを大切にしつつ、楽曲をより華やかにしてくださったんです。
──千葉さんは以前から分島さんの楽曲のアレンジをなさっているので、お互いに気心の知れた仲だと思います。一方、分島さんが作詞を手がけたオープニングテーマ「ピンクレモネード」を歌われたみあさんは、分島さんとご一緒するのは今回が初めてですよね?
みあ はい。歌詞の打ち合わせのときに初めてご挨拶させていただきました。そのとき……あの、尊敬する先輩なので恐縮なんですけど、すごくかわいい方だと思ったんですよね。
分島 突然、何を言い出すの?(笑)
みあ だから余計に緊張しちゃって、何も話せないまま……。
分島 いろいろ話してくれたじゃん。
みあ 自分の話だけして、歌詞の話はほとんどできないままその打ち合わせは終わっちゃったんですよ(笑)。
──その「ピンクレモネード」のお話はのちほどじっくりと伺うとして、まずは劇伴について聞かせてください。そもそもどういう経緯で分島さんに音楽制作のオファーが来たんですか?
分島 以前「ベルまま。」のプロデューサーの中山(信宏)さんと一緒にお仕事をさせていただいたことがありまして。私の名前を知ってもらえていたから……なんですかね?
千葉 それだけ?(笑)
──本日は中山プロデューサーもいらっしゃっているので、少しコメントしていただいても?
中山信宏 名前を知っていただけではオファーしませんよ(笑)。僕は主にわけさん(分島)がシンガーとして歌う自作曲を聴いていたんですけど、その延長にあるものが、映像化した「ベルまま。」の雰囲気と合うんじゃないかと思ったんです。
分島 うれしいです。私は作曲も好きでしたし、3歳からチェロを習っていて、ずっとクラシックに触れてきたんです。そういった自分のルーツになっているクラシックの要素と作品がうまく噛み合えばいいなと。加えて、今までシンガーソングライターもしくはボーカリストとして私のことを認知してくださっていた皆さんに「分島ってこういう仕事もやるんだな」というのを知ってもらいたい気持ちもあって、今回やらせていただきました。
ゆるふわを貫く
──おっしゃる通り、全体としてファンシーな室内楽の小品集といった趣きで、劇伴単体でも聞き応え十分です。ひと口に「クラシック」と言ってもいろいろあると思いますが、今回どういったことをテーマに作曲されましたか?
分島 劇伴の最初の打ち合わせで、和ト湊監督から“ゆるふわ”というキーワードをいただいたんです。クラシックって、優雅な感じやシリアスな雰囲気になりすぎてしまうところがあるんですけど、そうならずに「ゆるふわを貫く」みたいな(笑)。
千葉 その打ち合わせの前に、分島さんと僕で原作コミックを全巻読んで「こんな雰囲気ですかね?」というデモを2パターン用意したんですよ。1つはクラシック寄りの優雅な曲で、もう1つはのほほんとした軽めの曲だったんですけど、監督からは「どちらかといえば後者のイメージ」という返答をいただいて。
みあ アニメ第1話の冒頭で、ベル(ベルゼブブ)が綿菓子を食べているシーンがあったじゃないですか。あの場面で、優しくてふんわりした音色が基調になっている曲が流れるのがすごく素敵だと思いました。あの音楽で、一気に「ベルまま。」のゆるふわな世界に身を委ねることができましたね。
分島 木琴を使った曲かな。
千葉 場面によっては、おもちゃっぽい音色を意識的に使っていますね。
中山 劇伴を発注する側からすると、木琴やピアニカでかわいい感じを出そうとすると、子供っぽくなってしまいがちなんですよ。でも、今回はまったくそういう印象がなくて。それはクラシックが音楽的な基盤になっている、わけさんだからこそだと思います。
分島 私としては、かなり自由に作らせていただいた感じです。劇伴はこれが初めてなので比較対象がないんですけど、こんなに自分で何でも決めていいんですかね?
中山 音響監督によっては、例えば楽器や音色まで指定する方もいらっしゃいます。ただ、今回「ベルまま。」の音響監督を務めてくださった本山(哲)さんは、心情やシチュエーション、キャラクターにそれぞれ「こういう雰囲気の音楽を」という要望を出された程度でしたね。
分島 今回に関して言えば、決まりごとがほとんどなかったのは自分にとってよかったかもしれません。
千葉 決まりごとがなかったぶん、自分の中で「このキャラクターだったらこの楽器のイメージ」という縛りを設けましたね。曲数が50曲以上ある中で、似たような曲をたくさん作っても面白くないので。
──具体的に、例えばベルゼブブだったらどんな楽器を?
分島 チェンバロとか、あとハープを入れたかな?
千葉 確かそうだったね。あとアザゼルさんはチェロやバスーンみたいな低音楽器、ごっちん(ベルフェゴール)だったらちょっとコロコロした感じの高音が出る楽器とか。もちろんあくまでも提案であって、絶対に使わなきゃいけないというルールではないんですけど。
──ベルゼブブと並ぶメインキャラ、ミュリンの名前が出てきませんでしたが……。
千葉 すみません(笑)。ミュリンはなんだったかな?
中山 ミュリンはスタンダードなキャラで、ストーリーテラーでもあるので、実は音で印象を付けるのは難しいんですよね。
千葉 確かに。やっぱり主人公格のミュリンとベルゼブブに関しては、楽器で縛るのが難しい部分が少なからずありましたね。
みあ でも、そのキャラクターをイメージする音色を使われているというお話をお聞きして、これからそういった視点でアニメを観るのも楽しみになりました。
千葉 僕は先行上映会で2話まで観させてもらったんですけど、2話ではそれこそアザゼルさんとごっちんのシーンで今お話ししたような音楽を使っていただけていたので、とてもうれしかったです(取材は10月上旬に実施)。
分島 私も1話と2話を観て、感激しましたね。普段そこまでBGMを意識しないんですけど、耳が聴きにいっちゃうんです。「ああ、知ってる曲が流れてる」みたいな(笑)。
中山 劇伴はやり始めると面白いですよ。
次のページ »
点として浮かんでいたイメージを、線でつないでくださった
- アニメ「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。」
- 放送情報
-
ABCテレビ:毎週水曜26:50~
Abema TV:毎週水曜26:50~
TOKYO MX、群馬テレビ、とちぎテレビ、BS11:毎週土曜24:30~
テレビ愛知:毎週土曜25:50~
AT-X:毎週火曜22:00~
- ストーリー
-
数十万の悪魔を統べる万魔殿(パンデモニウム)の主・大悪魔ベルゼブブ。その近侍として仕えることになった新人職員・ミュリンは知的でクールな彼女に憧れていたが、ベルゼブブの実態は、モフモフ大好きゆるふわ少女だった!?
不器用ながら徐々に距離を縮めていくベルとミュリン、そして2人を取り巻くこれまた不器用でユニークな悪魔たち。このお話は、悪魔たちが“ある気持ち”に名前をつけるまでのお話……かもしれない。 - スタッフ
-
原作:matoba(掲載 月刊「少年ガンガン」スクウェア・エニックス刊)
監督:和ト湊
シリーズ構成・脚本:冨田頼子
キャラクターデザイン:住本悦子
総作画監督:住本悦子、伊藤大翼、依田正彦
プロップデザイン:住本悦子、依田正彦
美術監督:本田光平
美術設定:綱頭瑛子
色彩設計:木村聡子
撮影監督:小畑芳樹
編集:長谷川舞
音楽:分島花音、千葉"naotyu-"直樹
音響監督:本山哲
アニメーション制作:ライデンフィルム
製作:「ベルまま。」製作委員会
- キャスト
-
ベルゼブブ:大西沙織
ミュリン:安田陸矢
ベルフェゴール:久野美咲
アザゼル:日野聡
サルガタナス:加隈亜衣
アスタロト:松岡禎丞
エウリノーム:赤﨑千夏
ダンタリオン:悠木碧
モレク:興津和幸
ナレーション:井上喜久子
ほか
©matoba/SQUARE ENIX・「ベルまま。」製作委員会
- 三月のパンタシア「ピンクレモネード」
- 2018年11月21日発売 / SACRA MUSIC
-
初回限定盤 [CD+DVD]
2376円 / VVCL-1355~6 -
通常盤 [CD]
1296円 / VVCL-1357 -
期間生産限定盤 [CD+DVD]
1728円 / VVCL-1358~9
- 初回限定盤、通常盤CD収録曲
-
- ピンクレモネード
- 恋を落とす
- サイレン
- ピンクレモネード -Instrumental-
- 期間生産限定盤CD収録曲
-
- ピンクレモネード
- 恋を落とす
- サイレン
- ピンクレモネード -TV size-
- 初回限定盤DVD収録内容
-
- 「ピンクレモネード」 -Lyric Video-
- 期間生産限定盤DVD収録内容
-
- TVアニメ「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。」ノンクレジットオープニング
- ベルゼブブ(CV.大西沙織)&ベルフェゴール(CV.久野美咲)&サルガタナス(CV.加隈亜衣)「あくまで恋煩い」
- 発売中 / アニプレックス
-
ベルゼブブ [CD]
1296円 / SVWC-70376 -
ベルフェゴール [CD]
1296円 / SVWC-70377 -
サルガタナス [CD]
1296円 / SVWC-70378
- ベルゼブブ収録曲
-
- あくまで恋煩い
- あくまで恋煩い<ベルゼブブver.>
- もふもふファジーハート
- あくまで恋煩い<Instrumental>
- もふもふファジーハート<Instrumental>
- ベルフェゴール収録曲
-
- あくまで恋煩い
- あくまで恋煩い<ベルフェゴールver.>
- らぶるブーケ
- あくまで恋煩い<Instrumental>
- らぶるブーケ<Instrumental>
- サルガタナス収録曲
-
- あくまで恋煩い
- あくまで恋煩い<サルガタナスver.>
- 可愛い♡らんでぶー
- あくまで恋煩い<Instrumental>
- 可愛い♡らんでぶー<Instrumental>
- 「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。1」
- 2018年12月26日発売 / アニプレックス
-
完全生産限定盤 [Blu-ray2枚組]
7560円 / ANZX-13021 -
完全生産限定盤 [DVD2枚組]
6480円 / ANZB-13021
- 収録話数
-
- 第1話「ボーイ・ミーツ・モフみガール。 / 近侍の心、 閣下知らず。」
- 第2話「兄貴はメルヘンなお味。 / 登場、 バイブレーションガール。」
- 完全生産限定盤Blu-ray / DVD特典
-
- matoba描き下ろし全巻収納BOX
- 住本悦子描き下ろしデジジャケット
- オリジナル・サウンドトラックCD 1
- カラーブックレット
- 応援イラストカード
- オーディオコメンタリー(第1話)
- 特典映像(キャラクターミニPV&本PV)
- イベントチケット優先販売申込券
- 分島花音(ワケシマカノン)
- 東京都出身の女性シンガーソングライター、チェリスト、作詞家、イラストレーター。3歳からチェロを始め、クラシック音楽と共に育つ。2008年に1stシングル「still doll」でメジャーデビューし、2011年にはヨーロッパ10都市でツアーを行った。以降も精力的に活動を行い、2018年にアニメ「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。」で初めて劇伴を手がけた。
- 千葉"naotyu-"直樹(チバナオチュウナオキ)
- ソニー・ミュージックパブリッシング所属の作曲家。2000年代初頭に各Webサイトで楽曲を発表し、若手作曲家・トラックメイカーとして注目を集める。以降ももいろクローバーZや三澤紗千香といったさまざまなアーティストに楽曲提供するほか、アニメ「ニセコイ」「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。」などの音楽を手がけている。
- 三月のパンタシア(サンガツノパンタシア)
- 「終わりと始まりの物語を空想する」をコンセプトに、ボーカルのみあを中心に結成されたプロジェクト。コンポーザーとしてすこっぷ、n-buna、ゆうゆ、40mP、buzzG、イラストレーターとして浅見なつ、loundraw、bob、ノベリストとしてみのりが名を連ねる。2015年8月に活動を開始し、2016年6月にテレビアニメ「キズナイーバー」エンディングテーマであるシングル「はじまりの速度」でメジャーデビュー。2018年8月にはみあが書き下ろした小説とイラストレーターのダイスケリチャードが手がけたイラスト、楽曲を連動させて展開するプロジェクト「ガールズブルー」が始動した。11月21日にアニメ「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。」のオープニングテーマを表題曲としたシングル「ピンクレモネード」をリリースする。