雨のパレード|蔦谷好位置共同プロデュースで描く新たなポップスの世界

そこらへんのやつには負ける気はしない

──私がよくアーティストの方に聞く質問があるんですけど、例えば雨パレの曲をギターの弾き語りで演奏したとき、曲の真意は伝わりますか?

僕自身で言うのもなんですけど、かなり伝わるほうだと思います。歌を大事にしているバンドなので。ひたすら俺らの好きな音を追求してアレンジを作り込んだ曲にもよさがありますが、それとは別にアコギ1本でもそこらへんのやつには負ける気はしないですね。

──なるほど。アコギで曲の真意が伝わるんだったら、バンドでやる必要はないという考え方もあると思うんですが。

雨のパレード

もちろんそういう考えもあると思います。でも、すごく大きいことを言っちゃうと、僕は音楽で時代をよくしたいみたいな気持ちがあって。たぶん僕と同世代のアーティストは、もっと音楽の文化を豊かにしたいという感覚がすごく強い気がするんです。僕は1991年生まれで今27歳なんですけど、高校生ぐらいのときにYouTubeが一般化して、多様性がある中で、自分の好みの音楽にたどり着きやすくなっていった時代だと思うんです。僕らは当時フェスで人気だった“四つ打ちバンド”に何がいいんだろうって嫌悪感を抱いていて、カウンター精神じゃないですけど、そういう思いが自分たちの音楽性に反映されているんじゃないかなと思っています。もちろんアコギだけの弾き語りは普遍的なものですけど、自分たちの音を鳴らしてみたいという気持ちがある。昔のものを今聴いたってよく感じると思うんです。そういう、“いい時代の音”を鳴らしたいみたいな気持ちが、バンドそれぞれをいろんなカラーにさせているじゃないかなって。

──「いい時代の音」というのは、“その時代の音”、“時代性のある音”ということですか?

そうですね。もちろんリバイバルはあるから、80年代のシンセの音が気持ちいいって感じるときもあるし、今だったら90年代のニュージャックスウィングとかよく聞こえるときもあるし。僕らが今、ホントにいいと思えるものをメインストリームとして鳴らしたいという気持ちが強いんです。だから自分としては自然なことをしているだけという感じです。

──そうすることで時代というか、シーンが変わっていくことを望んでいる?

そうですね。

──福永さんだけじゃなく、同世代のアーティストもそういうふうに考えている人が多いんですか?

うーん、音を聴いてそう感じることがあるかな。今は10年前に比べて圧倒的に個性のあるアーティストが多いと思うんです。同い歳で言うと、Yogee New Wavesとか、Suchmos、向井太一、小袋成彬、ちょっと下だとD.A.N.、yahyel、DATSとか。みんながみんなそうだとは言いませんけど、無意識にそう考えているんじゃないかと思ったり。つながりがあるやつとは、そういう話をしたりしています。

──今名前が挙がったアーティストの方々は、洋楽志向が強い印象があります。

そうですね。むしろ邦楽志向のバンドってどれだけいるんだろうみたいな感じですけど。例えば僕がYouTubeで見つけたAstronomyというバンドは、日本でCDは流通してなかったんですけど、Apple Musicだと聴けるんですよね。今はApple MusicやSpotifyで、そういう洋楽インディのいいやつを薦めてきてくれたりする。その恩恵を授かって音楽に反映できている部分もあると思います。

究極は最高のメロディと歌詞

──雨のパレードの前作「Reason of Black Color」のレビューで私は、「洋楽的なものと邦楽的なもののバランスがものすごくいい。バランスの取り方にすごくセンスを感じる」と書いた記憶があるんです。

ありがとうございます。そこは一番気を使ってる部分ですね。雨のパレードは洋楽のエッセンスを積極的に曲に取り入れてるんですけど、やっぱり僕はポップスのフィールドで戦っていきたい気持ちがあるし、コアな音楽好きだけに聴かれて満足するような気持ちはあんまりなくて。

──福永さんはわりとそのことを以前からハッキリ口に出してますよね。

福永浩平(Vo)

そうですね。洋楽でもポップな歌モノはいっぱいあるし。ジャンルの分け隔てなく大衆性のある歌モノが好きなんです。

──例えば、理想とするポップソングを書いているアーティストで洋邦問わず真っ先に思い浮かぶのは誰ですか?

ユーミン(松任谷由実)さんですね。僕、すごくユーミンさんに憧れていて。どんなジャンルを歌ったとしてもポップスになっちゃうところというか。

──触るものがみんな黄金に変わっていくみたいな、そんな感じですよね。

はい。そういう部分にすごく憧れます。

──ポップな歌モノをより多くの人たちに届ける、共有してもらうためには何が必要だと思いますか?

最高のメロディと歌詞だと思います。

──最高のメロディと歌詞だけあればいい?

究極的には。コード進行とかアレンジの仕方とかいっぱいあるけど、削りに削ってしまえばそこかなと。

──歌詞とメロディに帰着すると。

うん。

──でも、先ほどもおっしゃっていたように、普通にメロディと歌詞だけをハッキリ歌っていればそれでいいわけではないんですよね。

ホントにそれだけで勝負して、多くの人に広がる曲もあると思うんですけど……僕は音楽が大好きで、特に海外の新譜を聞いて、刺激を受けた音、好きな音を自分の作るポップスに入れたい、鳴らしたい気持ちもすごくある。もちろんおっしゃっているように、アコギと歌だけの曲も“正解”だと思うし、アルバムにそういうタイプの曲を入れたりもする。でも、それだけでホントに目立つのか、という気持ちがあるんです。

──目立つ?

アコギと歌だけの曲でレーベルの人が下北のライブハウスで見つけてくれますか?って言われたら、その可能性は低いなと思っちゃう。

──より多くの人の耳に届けるためには、歌詞とかメロディ以前に、聴く人の耳をハッと引き付けるような引きがないと難しいと。それがサウンドのテクスチャーだったり、アレンジだったりイントロの作り方だったり、コードの響きだったりする。むしろそういうものが以前よりも重視されるようになっているということですね。

そうですね。歌と歌詞だけで勝負しても勝算があるかもしれないけど、僕は、いろんな“引き”があったほうがいいと思っている。