雨のパレード|自分たちにしかできない音楽で、この世の中を映し出す

雨のパレードが12月23日にニューアルバム「Face to Face」をリリースした。

1月に発表された「BORDERLESS」に続く今年2枚目のアルバムとなる本作は、新型コロナウイルス感染拡大によりライブを行えない中、ファンへの感謝と愛情を伝えるため急遽制作された。タイトルに冠された「Face to Face」という言葉の通り、彼らはコロナ禍に起きているさまざまなことに向き合いこのアルバムを制作したという。この作品の発売を受け、音楽ナタリーでは雨のパレードの3人にインタビュー。歌詞やサウンドの解説を通して、アルバムに込められた思いを紐解く。

また特集の後半には、椎木知仁(My Hair is Bad)、向井太一、尾崎雄貴(BBHF)、TENDRE、AAAMYYY、GLIM SPANKY、高橋海(LUCKY TAPES)、牧達弥(go!go!vanillas)という雨のパレードと関わりのあるアーティストによる「Face to Face」に対するコメント、バンドへのメッセージを掲載している。

取材・文 / 渡辺裕也 撮影 / 山崎玲士

「Face to Face」が映し出す現代社会

──「Face to Face」は今年2作目のオリジナルアルバムとなりました。今作はコロナ禍を踏まえて急遽制作されたアルバムだと思うのですが、実際はいかがですか?

雨のパレード

福永浩平(Vo) そうですね。今年1月からツアーを回っていたんですけど、それがコロナの影響で中止になってしまって。ライブもできなくなってしまった今、僕らが何をすればファンの人たちが喜んでくれるだろうと考えていく中で、やっぱりここは新しい音源を届けるのが一番だなと思ったんです。それで7月からメンバー全員そろっての作業が始まって、完成したのが10月だったので、今回の制作期間は大体3カ月ということになるのかな。

──外出自粛期間は各々どのように過ごしていたのですか?

福永 僕はわりとダラダラしてました(笑)。映画を観たり、マンガを読んだり、料理を作ったり、けっこう充実してましたね。もともと僕は1人で過ごす時間が好きなので、じっくり自分と向き合える時間ができたのはよかったです。

大澤実音穂(Dr) 私は猫を飼い始めて。猫と暮らし始めたことで気持ちに余裕ができたので、自粛期間はいろんなものをインプットしてました。

山﨑康介(G, Syn) 僕は家の作業スペースを拡充して、機材をそろえたり、練習しやすい環境を作ったりしてました。

──「Face to Face」には今年の社会問題を反映しているようなリリックも見受けられます。

福永 その時期に話題になっていたことや、そこで自分が感じていたことはたしかに反映されてると思います。それこそ「scapegoat」の歌詞はSNSの誹謗中傷に当てたものだし、「Child's Heart」もコロナ禍だったからこそ書けた曲だと思う。

自由に遊べるようになった作品

福永浩平(Vo)

──作品の醸し出すムードも「BORDERLESS」とは対照的だと感じました。

福永 そうですね。個人的なことを言うと、「BORDERLESS」の制作では「大人の言うことを聞いてみる」が裏テーマだったんです。プロデューサーの蔦谷好位置さんやディレクターの意見をいろいろ聞いてみて、その意見を自分なりに昇華してみようと。実際にそれで学べたことがいっぱいあったので、今回はそれを踏まえて、自分たちだけで作ってみました

──「BORDERLESS」の制作で得た知見が、今作には生かされていると。

福永 そうですね。あと、前々作までは主にセッションで構築したものをスタジオで録って、そこからミックスするようなやり方だったんですけど、前作からDAWで曲を構築するようになったことで、自分たちの目指すものにより近付けるようになったんですよ。以前はレコーディング後にやっていたミックスなどの作業を、今では自分たちの手で試せるようになって。そういう技術が身に付いてきたのは大きいですね。より自由に遊べるようになったというか、自分たちの感性をさらに固めることができたと思います。

──確かに、今作はDAWで構築した密室的な音と生演奏のスタジオ録音がにじみ合うようなプロダクションになってますね。

福永 ええ、僕らとしてもそこはシームレスにつながっているというか。純粋にやりたいことを形にしていったら、結果的にそういう音になっていきました。

意味のないこだわりを捨てられるようになってきた

大澤実音穂(Dr)

──3人体制になったことで、それぞれ制作との向き合い方に何か変化はありましたか?

大澤 何かがすごく変わったという感覚は、私はあまりないかな。ただ、以前は自分の真面目すぎるところがビートに出ていたと思うんですけど、「こうしなきゃいけない」みたいな固定観念はだんだんなくなってきているのかもしれません。

福永 なんというか、意味のないこだわりを捨てられるようになってきたよね。クリックに合わせて演奏しなきゃいけないとか、絶対に生音でなければいけないとか、そういうこだわりを取っ払って、純粋に今の尺度で良し悪しを見極められるようになってきたと思う。ルーズな演奏にも、それはそれでよさがあるというか、いろんなものを柔軟に受け止められるようになったんじゃないかな。

山﨑 僕はもともとギターをメインでやってきたので、鍵盤を触り始めたのはけっこう最近なんですけど、それでもいろんな楽曲を演奏していくうちに、ホームプロダクトで作るもののクオリティが格段に上がってきてる実感があって。イメージにある音をすぐに鳴らせるようになってきたので、それは大きいですね。

──ちなみに今作のベースはどなたが演奏されているんですか?

山﨑康介(G, Syn)

福永 今回はまず仮で康介さんに弾いてもらいつつ、レコーディングでは須藤優さん(ARDBECK、XIIXのメンバー。米津玄師などをサポート)、雲丹亀卓人さん(ex. Sawagi)、Kenちゃん(Aun beatzのメンバーでTempalayなどをサポートしているKenshiro)、TENDREの河原太朗さんという4人のベーシストに、それぞれ2曲ずつお願いしました。ベースのレコーディングは2日間にわたって行ったんですけど、これが本当に楽しかったんです。特に「partagas」はサンダーキャットを意識した曲だったので、須藤さんに「ここはサンダーキャットになってください!」とお願いしたんですけど、あのときの須藤さんは、もう完全にスターでしたね。「scapegoat」も当初は人肌感のないイメージだったんですけど、須藤さんに弾いてもらったことで印象がかなり変わりました。