9mm Parabellum Bullet菅原卓郎インタビュー|20年追求してきたオリジナリティ (3/3)

ノスタルジーに響く「幻の光」

──「カタルシス」までの4曲は攻めの姿勢で突き進みますが、5曲目「幻の光」以降の中盤でアルバムの世界はどんどん広がりを見せていきます。

「幻の光」はいろんな人から好きと言ってもらえる、人気者なんですよ(笑)。

──この曲や「それは魔法」は、本作における強烈なフックだと思いました。かつ、その間にインストナンバー「Fuel On The Fire!!」も用意されていて、冒険的なんだけどしっかり9mmらしさも伝わるんですよね。

やっぱりみんな、そのあたりの曲が特に気になるみたいですね。

菅原卓郎(Vo, G)

──「幻の光」はロックとはまた違った、歌謡曲チックなテイストが強い1曲ですが、そこを意識して制作したわけではないんですよね。

あえて歌謡曲に寄せようとか、歌謡曲とロックの融合を狙っているという感覚はまったく自分たちの中にはなくて。結果的にそう聴こえちゃうというのが、舞台裏なんですよ。滝くんから「ドラムのフィルやベースのフレーズも全然決まってなくて、ストレートな音しか入ってないから考えてください。お願いします」と投げられたデモをリズム隊で相談して、「これはそのままにしておくのが一番だから、シンプルなアレンジでいこう」ということになって。僕は最初に聴いたときユーミン(松任谷由実)みたいな曲だなと思ったので、ユーミンみたいな歌詞にして、ユーミンみたいな歌い方にしようと(笑)。それくらい日本人のノスタルジーに響く要素を持った曲だなと思います。

──確かに、歌謡曲というよりもニューミュージック的な香りが強い仕上がりですものね。

そうですね。安全地帯までいかないぐらいの感じだと思います。

──インスト曲「Fuel On The Fire!!」は、「TIGHTROPE」に収録されたインスト曲「Spirit Explosion」とはアルバムにおける立ち位置やテイストがまた異なりますよね。

「Spirit Explosion」はかなりハードロッキンなノリでしたけど、「Fuel On The Fire!!」は僕らが昔から仲のいいmudy on the 昨晩のような展開や転調が次々やってくる曲がいいなと思いながら作りました。だからタイトルにも「On The」って入っているんですよ。

──オマージュというか、mudy on the 昨晩へ向けたリスペクトも伝わります。

そうそう。「あいつらが弾いてるみたいに弾こう」とか言いながらギターも録りました。

──これがアルバムの真ん中に入ることで世界が二分されるというか、後半に向けたインターミッションのような形でつないでいる感じがあります。

確かに。「Fuel On The Fire!!」が、アナログで言うとA面の最後なのかB面の頭なのかはわからないんですけど、「それは魔法」の世界観にグッと入っていける導入の役目を担っている気がしますね。

菅原卓郎(Vo, G)

最後にはまた新しい1日が始まる

──それ以降も「Domino Domino」、「新月になれば」など、演奏の強弱はありつつも、しっかり聴かせる楽曲が並んでいますね。今作は曲順にもかなり趣向を凝らした印象があります。

今回はかなり考えました。滝くんは最後にバーンと清々しく終わる流れを想定していたみたいなんですけど、歌詞が付いて歌が入ったところで、僕は「Baby, Please Burn Out」を1曲目にしたいと思ったし、「Brand New Day」がアルバムのエンドロールになるんじゃないかなと思いました。

──前半4曲のカオティックなモードから「幻の光」で流れを変え、「Fuel On The Fire!!」で折り返して「それは魔法」から後半に向けてまた熱を高めていく。ラスト2曲の「朝影 -The Future We Choose-」と「Brand New Day」に関してですが、これは意図的だったのかわかりませんが、明日や未来に対するポジティブな空気が伝わってきて。そこも前作とは対照的ですよね。

真逆と言ってもいいくらい違いますよね。「Brand New Day」を19周年のときにリリースして、ライブで演奏していくうちに、自分が思っていた以上に人を祝福する力がある曲なんだなと感じるようになって。作っているときは、19年間の歩みに対してねぎらいをかけるような曲になったと思っていたんですけど、それ以上に聴いた人を肯定できるパワーを持っていると感じたんです。で、奇しくも19周年、20周年と2年連続でお祝いすることになったので、ずーっと自分たちを肯定し続けているような感覚もあったんですけど(笑)、それでもきっとこれは最後に置いたほうがいいんだろうなと。正直、アルバムとしてはその前の「朝影 -The Future We Choose-」で終わってもきれいな形に収まると思うんです。尺が長くて壮大な曲ですし。ただ、アルバムの中でいろんな起伏があるにせよ、最後にはまた“新しい1日(Brand New Day)”が始まると、聴いている人にも感じてもらえるのがいいなと思って、「Brand New Day」を最後に置くことにしました。

菅原卓郎(Vo, G)

──この2曲が並ぶことで、聴き手としても気持ちが上向きになりますし、何よりラストに「Brand New Day」が置かれることで爽快感が強まりますね。新たな一歩を踏み出そうとする意味でも、この流れはすごく大事だなと思いました。

ありがとうございます。「朝影 -The Future We Choose-」はゲーム(2025年春発売予定のNintendo Switch「レッドベルの慟哭」)のエンディングテーマなんですけど、スタッフの人から「戦いが終わって朝が来てもただ平和になったわけじゃなくて、いろんな過去があって傷付いている人もいるけど、それでも今この風景を見ている間は祝福しよう、というイメージの曲が欲しいんです」というオーダーをいただいて。その話を聞いたときに「そういうテーマの曲をすでに書いてるな」と思ったんです。それが「The Revolutionary」という曲。だったら今回は同じテーマを別の角度から見た歌詞にしようと思って書いてみたんですね。もちろん、ゲームのテーマソングとしても「これしかない」という曲にしたかったし、タイアップと切り離して9mmの曲として聴いたときにもめちゃくちゃいい曲と思えるものにもしたかったので、両立させるためにも自分たちが昔作った曲とつながりがあるのはとてもいいなと思えたんですよ。

──「The Revolutionary」を作った当時から年齢も経験も積み重ねているから、同じテーマでも違った感じ方、見え方もあるでしょうしね。

「The Revolutionary」は「俺たちの思い通りに世界を変えようぜ」ということを歌っているんですけど、実はこの曲の主人公は革命の最中に死んでしまった人なんじゃないかなと思っていて。書いた本人なのに「なんじゃないか」と言うのもおかしな話ですけど(笑)、「The Revolutionary」に「世界は変わっても おれはおれのままさ」や「あなたが変わっても おれはかまわないさ」という歌詞がありますけど、世界が変わったのに何も変わらずにいられる人なんていないから、この人はもうこの世にいないんだなと。それで「朝影 -The Future We Choose-」の歌詞を書いているときに、「破り捨てた未来図の果てまで歩いて行きたいよ」というフレーズに対して「あれ、この人本当は生きているのかも?」と感じることができた。そういう意味でも面白い体験でした。

──それこそ、先ほど話題に上がったBLANKEY JET CITYにおける“JET CITY”のような世界が、すでに菅原さんの中にもできあがっているという証明なんじゃないでしょうか。

確かに。自分が見落としていたわけじゃないけど、知らないところでそういうストーリーが進行していたのかもしれないですね。

──改めて20周年という節目に、9mmにとって新たなスタンダードとなるアルバムが完成しましたね。

そうですね。これから作る曲たちは、間違いなくこのアルバムが起点になると思います。なので、ここからまた新たな扉を開く作品にたどり着けるような活動を続けていきたいです。

菅原卓郎(Vo, G)

公演情報

9mm Parabellum Bullet Tour 2024-2025
「YOU NEED FREEDOM TO BE YOU」

  • 2024年11月9日(土)神奈川県 F.A.D YOKOHAMA
  • 2024年11月16日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2024年11月17日(日)北海道 小樽GOLDSTONE
  • 2024年11月23日(土・祝)山形県 山形ミュージック昭和Session
  • 2024年11月24日(日)宮城県 Rensa
  • 2024年11月30日(土)京都府 京都FANJ
  • 2024年12月1日(日)兵庫県 神戸VARIT.
  • 2024年12月6日(金)香川県 高松オリーブホール
  • 2024年12月8日(日)愛媛県 WStudioRED
  • 2024年12月19日(木)東京都 下北沢CLUB251
  • 2025年1月11日(土)東京都 Spotify O-WEST
  • 2025年1月18日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2025年1月19日(日)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
  • 2025年1月25日(土)茨城県 mito LIGHT HOUSE
  • 2025年1月31日(金)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
  • 2025年2月1日(土)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
  • 2025年2月8日(土)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2025年2月9日(日)鹿児島県 CAPARVO HALL
  • 2025年2月22日(土)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
  • 2025年3月1日(土)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2025年3月2日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside

9mm Parabellum Bullet Tour 2024-2025
「YOU NEED FREEDOM TO BE YOU」 Extra~カオスの百年vol.21~

2025年3月17日(月)神奈川県 KT Zepp Yokohama

プロフィール

9mm Parabellum Bullet(キューミリパラベラムバレット)

2004年3月、横浜にて結成。2枚のミニアルバムをインディーズで発表したのち、2007年10月に「Discommunication e.p.」でメジャーデビュー。パンク、メタル、エモ、ハードコア、J-POPなどさまざまなジャンルを飲み込んだ音楽性と、激しいライブパフォーマンスで人気を博している。2016年には自主レーベル・Sazanga Recordsでのリリースプロジェクトを始動。2019年4月に結成15周年を記念して東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)、大阪・大阪城野外音楽堂で「東西フリーライブ」を行った。“9mmの日”として知られる9月9日には8thアルバム「DEEP BLUE」をリリース。2020年9月に初のトリビュートアルバム「CHAOSMOLOGY」を発表。2023年に結成19周年を迎え、9月には東京・日本武道館公演を開催。2024年3月に結成20周年記念日を迎え、7月にベストアルバム「THE ULTIMATE COLLECTION -20Years, 20Bullets-」を配信リリース。同年10月には10枚目のアルバム「YOU NEED FREEDOM TO BE YOU」をリリースした。