9mm Parabellum Bullet菅原卓郎インタビュー|20年追求してきたオリジナリティ (2/3)

今なら素直な気持ちを曲にしてもいいんじゃないかと思った

──そんな紆余曲折を経て、結成20周年の節目に通算10枚目のアルバム「YOU NEED FREEDOM TO BE YOU」が完成しました。前作「TIGHTROPE」はコロナ禍から抜け出そうとする姿勢がサウンドにも反映されていたと思いますが、そこを抜けた今、次はどんな内容の作品にしようと考えましたか?

「TIGHTROPE」の時点ではコロナ禍を抜け切っていなかったことが大きくて。まだ鬱屈としているものがあって、自分たちも明るい風景が見えるような曲が並んだアルバムをまだ聴きたくなかったし、それを聴かされたほうもどう盛り上がりゃいいんだみたいな感じだったと思う。だから、「TIGHTROPE」はあの時代の空気に合った曲で構成したアルバム。で、「TIGHTROPE」をリリースした翌年に9mmは19周年を迎え、いろんなやり方で祝ってもらったことで、「自分たち、がんばってきたし偉いじゃん。めでたいことだな」という感覚が自分たちの中にも芽生えてきて。そして今年20周年を迎えたので、今ならそういう素直な気持ちを曲に表してもいいんじゃないかという思いが、みんなの心の中にあったと思うんです。だから、今作は闇雲に暗い曲を並べたというよりも、単純にクオリティの高い曲を採用したアルバムなんですよね。

菅原卓郎(Vo, G)

──だからなのか、一聴して楽曲の振り幅が今まで以上に広い印象を受けましたし、その振り幅が生み出すバンドのうねりが聴いていて気持ちいい1枚だと思いました。

滝くんも作っているときはアルバムの中での振り幅は意識していたと思うんですよ。いつも候補の中からアルバムに適切な曲を選んでいくんですけど、その選曲の傾向が1色でまとめたいときと、今回のようにいろんな側面を見せるためにひたすらクオリティの高い曲を選ぶときの2パターンあって。今回は確実に後者ですね。で、僕らは既発曲もできるだけアルバムに入れたいので、既発曲と新曲のバランスもけっこう重要だと思っていて。前作の「TIGHTROPE」だったら「Hourglass」というダークで激しい曲と、「煙の街」という静かで激しい曲、この2曲をオープン / エンドに置いてから組み立てていったんですけど、今回はある程度録ってみるまでどうなるかわからない感覚が僕にはありました。いざ完成したら、「カタルシス」のような激しくてドラマチックな曲もあれば、「それは魔法」のようなジャズっぽいテイストの曲もあるという、バラエティ豊かな1枚になっていて。

──大きな節目にたまたまこうなったのかはわからないですけど、この20年にやってきたいろいろな挑戦が随所にちりばめられた、カラフルなアルバムだなと思いました。

そうですね、ありがとうございます。20周年を大っぴらに祝おうとしてない体でいるくせに、20年で得たものを表現したアルバムができたという意味では、自分たちは天邪鬼に見えて素直なのかなと思いました(笑)。

9mmは子供の頃の面影を残した大人

──オープニングの「Baby, Please Burn Out」からして、歌っていることは初期の楽曲と変わらず、バンドの根底にある部分を今そのまままた歌詞にしているようですし。20年選手で「完全燃焼 一片の悔いも残すなよ」と言い切れるのが清々しいといいますか。

あははは。もちろんサウンドから想起して歌詞を作っていった部分もあるんですけど、だからといって初心を振り返ろうと最初からイメージしていたわけでもなく。勢いのある曲だから「完全燃焼」でいいかなみたいな、本当に無造作な感じですね。でも、言われてみれば確かに20年経ってもこんなこと歌うんだって、作ってから気付くことも多くて。個人的には、初志貫徹してると受け取ってもらえてうれしいですね。

──いい意味で変わっていない部分と20年間の積み重ねで大人になった部分、その両方がバランスよく混ざり合っていて、まっすぐ正しい成長の仕方をした1曲だなと感じました。

滝くんがよく言ってることなんですけど、活動初期に作った曲たちが自分たちにとても合っていて、なおかつ周りからのリアクションもよくて手応えがあったから、「じゃあもうこれを続けよう」とそのときに思ったと。なので、変に自分たちを変えたりせずに、いいと思うものをやろう、あのとき感じた手応えをもう一度得られるものを作ろうという感覚なんですよね。9mmはパンク寄りなロックンロールだと思うし、そういう音をずっと鳴らしている。20年経っても子供の頃の面影を残したまま大人になったバンドというか。

──変にグレることもなく。

途中グレたこともあったかもしれないですけど(笑)、今のところ昔と変わらず素直な状態なのかなと。

──そしてそこからアルバムのタイトルトラックとも言うべき「叫び -The Freedom You Need-」へと続きます。

サビの歌詞の2行目にある「君が君でいるためには自由が必要だろ」というフレーズを英訳したのがアルバムのタイトルで。もともとはこの曲のタイトルを考えているときに出てきた言葉なんですけど、語呂もいいし、僕たちがバンド活動をするにあたって、あるいは聴いてくれるみんなが生活するにあたって、大事だと考えていることなんです。20周年を迎えた今の9mmが新しいアルバムで打ち出すなら、このフレーズが最適だなと思ってタイトルに選びました。

菅原卓郎(Vo, G)

──なぜ今作では「自由」や「Freedom」という言葉にスポットを当てたのでしょう。

これまでも「自由」という言葉はちょこちょこ歌詞で使っていて。選択肢がたくさんあることが無限の可能性につながるし、それこそが自由だと思いながら、みんな暮らしていると思うんです。ただ、その逆を考えたときに選べないことが不自由になるのかなと。例えば、選択肢が2つしかないこともあるじゃないですか。それでも選んだ先で、今よりもうちょっとマシなほうに行けるかもしれない。自分が自分らしくいるためには、選択肢の多さよりも、選択できる環境そのものが自由ってことなんじゃないかと考えたらすごくしっくりきたので、「選んでいくことで自分を作っていくんだぞ」というイメージで、今回スポットを当ててみました。

──特にこのご時世だと、2択が「悪いほう」と「もっと悪いほう」になることもあり得るわけで、どっちを選んでもマイナスだと選ぶことを放棄するのではなくて、悪いなりにそこからどう動くかでまた先も変わってくる。未来に対してどんな思いを馳せられるかで、自由の可能性も変化していくのかなと。

そうですね。一手だけ見ていると「どっちも選べない、この世はクソだ」で終わってしまうかもしれないけど、「Brand New Day」の歌詞みたいに嵐の中を通り抜けないと目的地にたどり着けないんだったら通るよね、ということもあるわけで。

──アルバム冒頭のこの2曲のメッセージで、個人的にはグッとくるものがありました。まさにさっき伝えた「いい意味で変わっていない部分と20年間の積み重ねで大人になった部分」が顕著に表れた2曲だと思います。

うれしいですね。ありがとうございます。