映画「ウトヤ島、7月22日」 PR

「ウトヤ島、7月22日」エリック・ポッペ×上田慎一郎 対談 | 偶然は一瞬だけ、72分ワンカットで描いた“希望”

2011年7月22日にノルウェーで起きた無差別テロ事件をもとにした「ウトヤ島、7月22日」が、3月8日より公開される。

たった1人の男が77人もの命を奪ったノルウェーにおける戦後最悪の惨事を、事件発生から終息までの72分ワンカットで描く本作。監督は「ヒトラーに屈しなかった国王」のエリック・ポッペが務めた。

映画ナタリーでは、このたびポッペと「カメラを止めるな!」の監督・上田慎一郎の対談をセッティング。同作で37分にわたるワンカットに挑んだ上田は、「ウトヤ島、7月22日」をどう観たか? さらに2人には、ワンカット撮影への思いや制作中に起きたハプニングなどについても語ってもらった。

取材・文 / 秋葉萌実 撮影 / 佐藤類

72分ってこんなに長いのか……(上田)

上田慎一郎 自分もウトヤ島で逃げ惑っているような気分になる、すごい映画でした。ドキュメンタリーやニュースでは知ることができなかったであろうホンマの真実みたいなのは、こういったフィクションの形でしか描けないんだろうなと映画を観て思いました。

左からエリック・ポッペ、上田慎一郎。

エリック・ポッペ 主人公のカヤをフィクションの存在にしたのは、倫理上の問題があったからなんだ。大多数の人が経験したことに近付けて描くには、あえてフィクションにしなければならなかった。そうすれば、生存者や遺族が「私の家族の話かしら」と余計なことを考えずに映画を観られると思ったから。

上田 なるほど。監督の「遺族の方のことを考えなきゃいけない」というコメントや、ウトヤ島で撮るかどうか迷って別の島にしたというエピソードを知って、誠実に映画を作っている方なんだなと思いました。

ポッペ まだ起きてから間もない事件なので、犠牲者にできるだけ敬意を払って作らねばという意識があった。この映画では、観客にもウトヤ島にいるかのような気持ちになってもらって、逃げ場のなさや攻撃されている恐怖を肌で感じてほしくて。そうするためにはどういう形がいいかを考えたときに思い付いたのが、上田監督の「カメラを止めるな!」と同じワンカットだったんだ。

上田 狙い通りという気がします! ワンカットの場面は、72分ってこんなに長いのか……と感じました。僕は最近子供ができたので子供が死ぬ描写は見ていられない気持ちになったのですが、絶望的な状況下でも希望や夢を語ったりジョークを言ったりする、登場人物たちの前を向く強さに感動して。「希望や思いやり、優しさを描きたかった」という監督のコメントを読んですごく腑に落ちました。

ポッペ 人には惨劇の中でもお互いを思いやる力があって、今にも崩れんばかりの相手を冗談を言って笑わせようとする。そんな人間のあり方が美しいと思って、この映画の中で描いたんだ。ちなみに、カヤがシンディ・ローパーの「True Colors」を歌うシーンは、生存者の体験談からそのまま取ったよ。

上田 希望や優しさは、最初から描こうと思って作り始めたんですか? それとも最初は違うものを描きたいと思っていて、たくさんの体験者と会う中で方向性が変わっていったんでしょうか?

「ウトヤ島、7月22日」

ポッペ 私は映画の資金集めをしているときは、紛争地帯へ行って映像を撮ったりしているんだ。兵士たちと一緒に過ごして、ともに走ったりもする。彼らの姿を見ていて、どんなに冷酷な社会や極限状態に立たされても、人間の根底には善意や相手に配慮する心があると確信した。この映画はそんな思いで作ってはいるものの、きらびやかなヒロイズムは避けたくて。カヤは相手を助けようとしたり、あるいは放っておいてしまったりするが、それは人間の自然な反応だと思う。ハリウッド映画のスーパーヒーローがビルから飛び降りて誰かを助けるシーンはカッコいいし観ていて楽しいけれど、現実はそうはいかないから。

偶然は一瞬だけ(ポッペ)

上田 劇中で、カメラが計算では撮れない動きをした瞬間がありましたね。その場で起きたことに反応してカメラを振っているように思えたし、感情が高まる場面ではぐっと寄っている気がしたんです。もちろん計算や動線はあるとは思うのですが、カメラマンとはどう打ち合わせをしたんですか?

「ウトヤ島、7月22日」

ポッペ 撮り方はあらかじめ全部決めていたよ。撮影隊はたった1人のカメラマンと、彼を補佐する係やカメラのピントを合わせる人などだけだった。私やほかのテクニカルクルーは離れた小屋の中で音や映像を無線で拾い、モニターを通してチェックしていたんだ。島には150人の俳優やエキストラ、救護隊がいたけどスタッフは完全に隠れていたから、間違って島に流れ着いた人がいたら映画の撮影中だなんて気付かなかったと思う!

上田 (笑)。撮影するまでの準備には、どれくらい時間をかけたんでしょうか。

ポッペ リハーサル期間は3カ月。舞台をやるかのように、俳優たちとかなり綿密に準備をしたよ。最後の6週間はカメラマンに入ってもらって、どういうアングルで撮っていくかを相談して撮影稿を作った。その撮影稿をもとに記録係がカメラマンに無線で逐一指示をするという形を取ったんだ。

上田 じゃあ、俳優たちのアドリブは入っていないんですか?

エリック・ポッペ

ポッペ まったくなかった。アドリブを許すとコントロールができなくなっちゃうんだ。150人の子供たちが自分の意思で動き始めたら収拾がつかなくなってしまう(笑)。

上田 本当に起こったことをフィクションとして撮ってはいるけれど、撮っている最中に起きたことがドキュメントなのか、計算されたものなのかがわからなくなる瞬間がけっこうありました。ある女の子が死んだときに、体に蚊が止まっているところが映されますよね。あれは偶然なのか、計算なのか……。

ポッペ あれはあのテイクだけたまたま起きたことなんだ。

上田 え! 蚊が止まったときに、カメラマンが撮るべきだと判断したんですね。フィクションを撮ってはいるけれど、その場で起こるドキュメントも捉えられているんだなあ。

ポッペ カヤの視線が死んだ女の子の腕を捉えていたから、「何を見ているんだろう?」と思ってカメラを振ったそうだよ。

上田慎一郎

上田 カメラワークの打ち合わせはしているけどその場で起きたことに関してはカメラを向けていいという信頼関係があったんですね。

ポッペ そうだね。かっちりと決め込んで入念に準備している分、ここまではやっていいという境界線がわかるんだ。でも、偶然が切り取られたのは蚊が止まったあの一瞬だけ。そのほかはすべて俳優たちに振り付けをしたよ。

「ウトヤ島、7月22日」
2019年3月8日(金)より全国公開
ストーリー

ノルウェーの首都オスロから北西40kmに位置する島、ウトヤ島。サマーキャンプのためこの島に集まった数百人の若者たちは、キャンプファイヤーやサッカーを楽しみながら政治を学び、自分たちが暮らす国の未来について語り合っていた。そんな折、島に突如として銃声が鳴り響く。妹のエミリアとともにキャンプに参加した少女・カヤは、何が起きたのか判然としないまま仲間たちと森へ逃げ込むが、喧嘩別れしたままのエミリアの行方が気がかりで……。

スタッフ / キャスト

監督:エリック・ポッペ

出演:アンドレア・バーンツェン、エリ・リアノン・ミュラー・オズボーン、ジェニ・スヴェネヴィク、アレクサンダー・ホルメン、インゲボルグ・エネスほか

エリック・ポッペ
1960年6月24日生まれ、ノルウェー・オスロ出身。主な監督作には「おやすみなさいを言いたくて」「ヒトラーに屈しなかった国王」がある。
上田慎一郎(ウエダシンイチロウ)
1984年4月7日生まれ、滋賀県出身。2015年にオムニバス映画「4/猫-ねこぶんのよん-」の1編で商業映画デビュー。2018年公開の監督作「カメラを止めるな!」は口コミで話題が広がり、東京都内2館での上映から全国で拡大上映された。同作は第61回ブルーリボン賞の作品賞など多くの映画賞を受賞している。