「ウトヤ島、7月22日」エリック・ポッペ×上田慎一郎 対談 | 偶然は一瞬だけ、72分ワンカットで描いた“希望”

銃声は事件と同じ540発(ポッペ)

上田 ちなみに本番はどのくらい回数を重ねて、何テイク目を使ったんですか?

ポッペ 1日ワンテイク撮影するのを5日繰り返して、そのうちの4テイク目を使った。「カメラを止めるな!」は?

上田 6回です! 僕はそのうち最後のテイクを使いました。というのも、5回目はあまりにも台本通りというか、なんのハプニングもなく終わったのでライブ感がなくなってしまって。劇中にカメラのレンズに血しぶきがかかるシーンがあるのですが、あれは撮影中に発生したハプニングだったんです。それが起きたことで俳優たちにライブ感が出てきましたね。

「ウトヤ島、7月22日」

ポッペ 私が4テイク目を使ったのは理由があって、5テイク目でカヤを演じた女の子(アンドレア・バーンツェン)が感情のコントロールができなくなって泣き崩れちゃったからなんだ。彼女はなんとかやり抜こうとしていたんだけど、そのテイクは使わなかった。リハーサルは銃声なしでやっていて、撮影が始まってから実際の事件で犯人が撃ったのと同じ540発の銃声を鳴り響かせたので、俳優たちはだいぶショック受けたと思う。

上田 それは本番までは銃声を鳴らさないでおこうと決めていたんですか?

ポッペ リハーサルでは徹底的に演技の準備をさせて、本番で銃声を入れ込む。そうすると、俳優からより生々しい反応が得られると思ったんだ。

上田 そうなんですね。僕の「カメラを止めるな!」は俳優たちを世に出すという目的からワークショップ形式で作った映画で、12人の俳優たちのために作ったところがあったんです。僕は、老若男女に向けるよりも身近な人のために作った作品のほうが結果的により多くの人に届いたのですが、ポッペ監督はこの作品を誰のために作ろうと思ったんですか?

左からエリック・ポッペ、上田慎一郎。

ポッペ 事件の全貌を知らない人や今の若者たち、あとはやっぱり生存者の皆さんのために撮りたいと考えた。一個人としての思いや、具体的な誰かへの思いを込められる作品のほうが、よりよい映画となるよね。上田監督の作品からは、監督が新たな手法に果敢に挑んで、それを観客と一緒に楽しんでいるのがよく伝わってくるよ。映画監督はそうあるべきだし、どんどん新しいことに挑戦して、観客にも挑戦状を突き付けるべきだ。そういう意味では、僕は上田監督にすごく期待をしているんだ。これから撮っていく作品にも注目したいし、きっと大いに注目を浴び、リスペクトされる監督になると思う。

上田 ありがとうございます! 僕は「カメラを止めるな!」を作るまでは、自主映画で自分がやりたいものを撮っていたんですが、この作品で有名になって、人から期待されることも増えて。ポッペ監督は期待の声とはどう向き合っているんでしょうか。

ポッペ 自分のやり方を曲げないことかな。監督には、雇われ監督と映像作家という2つのカテゴリーがある。映像作家としての自分を貫きたいのであれば、「私にはヴィジョンがあって、妥協しません」と証明しないといけない。自分の映像作家としての高潔性を曲げてはならないと思う。

左からエリック・ポッペ、上田慎一郎。
「ウトヤ島、7月22日」
2019年3月8日(金)より全国公開
ストーリー

ノルウェーの首都オスロから北西40kmに位置する島、ウトヤ島。サマーキャンプのためこの島に集まった数百人の若者たちは、キャンプファイヤーやサッカーを楽しみながら政治を学び、自分たちが暮らす国の未来について語り合っていた。そんな折、島に突如として銃声が鳴り響く。妹のエミリアとともにキャンプに参加した少女・カヤは、何が起きたのか判然としないまま仲間たちと森へ逃げ込むが、喧嘩別れしたままのエミリアの行方が気がかりで……。

スタッフ / キャスト

監督:エリック・ポッペ

出演:アンドレア・バーンツェン、エリ・リアノン・ミュラー・オズボーン、ジェニ・スヴェネヴィク、アレクサンダー・ホルメン、インゲボルグ・エネスほか

エリック・ポッペ
1960年6月24日生まれ、ノルウェー・オスロ出身。主な監督作には「おやすみなさいを言いたくて」「ヒトラーに屈しなかった国王」がある。
上田慎一郎(ウエダシンイチロウ)
1984年4月7日生まれ、滋賀県出身。2015年にオムニバス映画「4/猫-ねこぶんのよん-」の1編で商業映画デビュー。2018年公開の監督作「カメラを止めるな!」は口コミで話題が広がり、東京都内2館での上映から全国で拡大上映された。同作は第61回ブルーリボン賞の作品賞など多くの映画賞を受賞している。