「初情事まであと1時間」大九明子×趣里タイトル|今“距離”を感じながら生きる人たちへ贈る、12通りの恋と性の駆け引き

橋口亮輔、三浦大輔、大九明子、谷口恒平が監督を務めるドラマ「初情事まであと1時間」の放送がMBS、テレビ神奈川ほかテレビ特区で7月22日にスタートする。ノッツの同名マンガをもとにした本作は恋人たちが初めて結ばれるまでの直前1時間を描く恋愛オムニバスドラマ。心も体も裸になってつながるまでの、12通りの恋と性の駆け引きが描かれる。

TELASA(テラサ)では地上波未放送の4話を含む全12話を見放題独占配信。これを記念し、映画ナタリーでは3本の監督を務めた大九とその中の一編「プラスマイナス、インタレスティング」に出演した趣里の対談をセッティングした。数々の作品でタッグを組んできた2人が語る現場で起きた“奇跡”とは? コロナ禍の今、人と人の触れ合いを描くことについても語ってもらった。

取材・文 / 金子恭未子 撮影 / 清水純一
ヘアメイク / 内田香織 スタイリング / 中井綾子(crêpe)

ドラマ「初情事まであと1時間」はTELASA(テラサ)で独占見放題配信中

いろんな人が興味を持つ題材(趣里)

──「初情事まであと1時間」はタイトルの通り、男女が初めて結ばれるまでの直前1時間を描く恋愛オムニバスドラマです。放送決定のニュースは映画ナタリーでも配信したのですが、すごく反響が大きかったです。

大九明子

大九明子 企画そのものが面白いですよね。何通りもストーリーが生み出せる。ノッツさんが描かれた原作を読んだときに、すごい発明だなと思いました。

趣里 直前1時間にフォーカスしている作品ってきっと今までにないですよね。いろんな人が興味を持つ題材なんじゃないかと思います。

──大九監督と趣里さんはこれまで「ただいま、ジャクリーン」「勝手にふるえてろ」やドラマ「時効警察はじめました」などたびたびタッグを組まれています。先ほど写真撮影に立ち会わせていただきましたが、お二人の仲の良さが伝わってきました。

趣里

趣里 今回、オファーをいただいたときに、大九さんと作品が作れるんだ!って。またご一緒できるのが本当にうれしかったです。

大九 企画を聞いたときから、趣里さんにお願いしたいとプロデューサーに伝えていたんです。自由度高くお仕事させてもらえるというお話だったので、自分の好きな俳優さんに当て書きするような形でシナリオが作れるなと思いました。

自分の想像を超えた感動に届いた(大九)

──お二人がタッグを組まれた「プラスマイナス、インタレスティング」は、不幸体質の月子がヒロインの物語です。原作1巻に掲載されている「霞と晴樹の場合」をもとに作られていますね。

大九 不幸体質の女の子というのがビビッと来て。この作品のほかにラジオネームで呼び合う男女を描いた「ラスタカラーの夜」と、オリジナルで大人の恋を描いた「ビフォア」のシナリオを書き下ろしました。3つの中で趣里さんにやってもらうならどれだろう?と考えたときに、付き合いは長いんですけど、ギトッギトなコメディはやってもらってないなと思って「プラスマイナス、インタレスティング」に出演してもらうことになったんです。趣里さんだから安心してシナリオも書けました。

──趣里さんは、ご自身に当て書きされた月子を演じるうえで意識したことはありますか?

趣里 生きるうえでユーモアを忘れないというメッセージがところどころにちりばめられている大九さんの作品が大好きなんです。今回の作品はコメディなので笑える要素はたくさんありつつも、足りないところを補い合う月子と陽太が描かれています。こんなふうに心が通じ合ったらいいなと思いながら、2人の感情は真実だと思って大切に演じました。面白いだけじゃない何かを作品に残したいと思っていたんです。

大九明子

大九 最初は面白いことを追求して、ふざけて書こうと思っていたんですが、生身の人間が演じるとなると、不幸体質の女の子ってどういう心持ちで今まで生きてきたんだろう?と想像するようになるんです。当初はコメディをがっつりやろうと思っていたんですが、現場に入ってちょっとホラーっぽくしてみたり、その場その場で足していきました。そんな中、最後には自分の運命をかなぐり捨てて、月子が自分から陽太に手を差し伸べる。最初にイメージしていたものよりドラマチックというか、自分の想像を超えた感動に届いたような気がしています。ちょっと恥ずかしいですけど(笑)。

──「私とエッチしたら、死ぬかもよ」と言って、陽太と一線を引いていた月子が自分の運命に立ち向かっていく姿はグッとくるものがありました。

趣里

大九 「死なせない!」というセリフは自分で書いているときも好きだったんですけど、趣里さんのセリフ回しが本当にかっこよくて! 泣くような話じゃないんですが、2人の高揚感が伝わってきて、編集しているときに込み上げるものがありました。

趣里 陽太を演じた渡辺大知さんが真摯に向き合ってくださったので、それも相まってドラマティックなものにできたと思います。陽太はちゃんと「付き合ってください」って言えるのが偉いですよね。月子にとって見たことのない世界に足を踏み出す、その一歩手前の大切な瞬間を表現できたように感じています。

渡辺大知さんも大九組経験があるから安心感があった(趣里)

──ドラマでは12通りの“初情事”が描かれますが、その後の恋の行方も気になります。

大九 月子はすぐに別の男性にいってしまうと思いますね(笑)。

趣里 あはははは(笑)。

大九 エンジョイしてみたかった恋愛を一通り陽太と味わったら、引け目も感じなくなると思うんです。私、大丈夫だった!って。たぶん陽太は捨てられるんじゃないかな(笑)。でも、若い方の恋愛なんてだいたいそうですよね。10年ぐらいしてお互いどこかで再会して再燃するかもしれないし。

──作品を作るうえで、渡辺さん含めて3人で何かご相談されたことはありますか?

大九 いや、してないですね(笑)。サバサバしたもんで、大知くんはカットが掛かったら休憩に行って、趣里さんはポケットに忍ばせたお菓子をボリボリ食べてたり。

趣里 おせんべい食べてました(笑)。

大九 常に食べてます。小リスちゃんみたい。

趣里 本当に現場ではたわいない話しかしてないですね(笑)。

──すごく息の合った掛け合いだったので、入念な打ち合わせをされたのかと想像していました。

左から大九明子、趣里。

趣里 渡辺さんも大九組経験があるからだと思います。それだけで安心感がありました。

大九 とにかく2人ともコメディセンスがすごいんです。隙あらば面白いことをしようとしてくる。月子は短いお話の中で、感情の起伏がガチャガチャなんです。そう書いた私のせいなんですけど(笑)。笑ったと思ったら泣いたり、次の瞬間驚いて。それも趣里さんだからこそやれてしまう。実は玄関のシーンはアクシデント的に電気が消えちゃったんです。大知くんは緻密に考えて動く人なんですけど、一方でエモーショナルなものも大事にする人なので、背中で月子の言葉を聞きながらとっさに手が動いちゃったんでしょうね。そのときの趣里さんの顔がもう最高! 直前まで泣いていたのに、ちゃんと瞬発的に反応して、的確に芝居を入れてくれて。

──あれは現場で起きた奇跡のようなものなんですね。

大九 そうですね。NGにしてもいいようなテイクだったので、そのあともう一度撮ったんです。でも、やっぱり電気が消えたほうが面白かった。