映画「すくってごらん」尾上松也×百田夏菜子インタビュー | 金魚すくいを通して見る景色は唯一無二、映像と音楽で紡ぎ出すポップエンタメ

尾上松也が映画初主演、百田夏菜子(ももいろクローバーZ)が映画初ヒロインを務めた「すくってごらん」が3月12日に公開される。大谷紀子のマンガを原作に、「ボクは坊さん。」の真壁幸紀が映画化した本作。左遷されて田舎町へやって来た東京のエリート銀行員・香芝誠が金魚すくい、そしてそれを取り巻く人々に出会い成長していくさまが描かれる。多彩な映像表現と、歌ありラップありとバラエティに富んだ音楽が紡ぎ出す新感覚ポップエンタテインメントだ。

ナタリーでは音楽、映画のジャンルを横断して本作を特集。映画ナタリーでは香芝役の松也、ヒロイン・生駒吉乃役の百田にインタビューを行った。松也が頭をフル回転させて読んだという“ぶっ飛んだ”脚本や、百田と真壁のほほえましい現場エピソードが語られたほか、最後には真壁から2人に贈られたメッセージに対するアンサーも。なお音楽ナタリーでは真壁へのインタビューと、キャストおよび音楽制作陣のコメントが掲載中だ。

取材・文 / 田尻和花 撮影 / 小原泰広

頭に入ってこないくらいぶっ飛んでましたよ(松也)

──本作は金魚すくいがテーマという、ユニークな作品ですね。原作や脚本を読まれていかがでしたか?

尾上松也

尾上松也 金魚すくいをフィーチャーしているマンガはほかにはないですし、香芝をはじめそれぞれのキャラがすごく個性的。金魚すくいという題材でしっかり物語を成立させられているのが面白いなと純粋に思いました。僕はオファーをいただいてからマンガを知ったのですが、この原作をどういうふうに映像にしていくのか、非常に興味深かったです。上がってきた脚本は予想をはるかに超えるというか、予想もしなかった作り方をしていました。読んだときには驚きと戸惑いと……いろいろな感情が湧き起こりましたね(笑)。原作にただ忠実にということではなく、真壁幸紀監督ならではの世界観と発想を盛り込んでチャレンジしようというところがわかって、一緒に形にしてみたいという気持ちにさせられました。

百田夏菜子 金魚すくいと自分の人生を重ね合わせて、そこから成長していくという視点はすごいなと思いました。人生をこんなふうに例えることができるんだと。劇中には音楽がかかるシーンが多くありますし、セリフにも音が付いていたりと、脚本だけでは想像しきれない部分は大きかったです。でもいろんな情報がどんどん集まってくるにつれて、これはすごく面白い作品になるんだろうなと感じるようになりました。

──脚本にはト書き(※シーンを説明する文章や役者への指示など)もたくさんあったんでしょうか。

松也 ラップなどの楽曲があるということは書かれていたのですが、それが頭に入ってこないくらいぶっ飛んでましたよ(笑)。理解しようと頭を回転させるのに精一杯。脚本を読んだだけではどういうシーンで、どういう展開でこうなるのか全然理解できなかったんです。

百田 難しかったですよね。

松也 難しい。

百田 まず1人で読んだときは本当にわからなくて(笑)。自分が演じるキャラクターへのアプローチの仕方も難しいな、なんて思いながら松也さん、監督との読み合わせに参加したんです。そこでなんとなく見えてきました。楽曲の振り付けとまではいきませんが、「こんな動きで」と合わせたりもして撮影前にパーツを徐々に作っていっていたので、どんどんパズルが埋まっていくような感覚がありましたね。

松也 想像がつかない部分はたくさんありましたし、ぶっ飛んでるところもけっこうありました。ですが監督にお会いしたときに、ビジョンが確実にあるのがわかって安心しました。本読みをしているときでも振り付けしている中でも、監督は当然のような顔で指示してくださるので……。

百田 そう(笑)。

松也 監督の頭の中には画ができているんだろうなって(笑)。今回は撮影前にラップや電話ボックスのシーンの振り付けをしましたが、カメラが回ってからじゃないとやはりわからなかったです。振り付けのお稽古のときは「これ、なんだろう?」って。

百田 現場行ってもわからないこともありましたよ(笑)。

松也 現場でも想像できないまま演じていた部分があったね(笑)。

百田 ただ、監督に付いて行けば大丈夫だという安心感はありました。電話ボックスのシーンでも「ここで水がバシャンとなるので大丈夫です」って言うんです。でもこっちは「どういうこと!? どういうこと!?」って。気付いたら松也さん、水でびしょびしょで……。

松也 (笑)

「すくってごらん」

百田 そういうのがおかしくて楽しかったですね。想像しながらみんなで作り上げるのがすごくよかったです。

──完成した映像をご覧になって大きな絵が見えた感じでしょうか?

松也 そうですね、電話ボックスのシーンなんかは特に。なんとなくだった部分が「ああ、こういうふうにつながるんだな」と試写で初めてわかりました。振りが物語の中で唐突に来るので、どういう仕上がりになるのかは実際に観てみて初めてわかったというのがけっこうありました。

始まっちゃう!? うそ、どうしろっていうの!?(百田)

──なるほど。探りながらの現場のようでしたが、今回松也さんは映画初主演という大役でしたね。

「すくってごらん」

松也 とにかく無事に終わってほっとしたところもありつつ、濃い時間を過ごさせていただいたので、終わったときは「もう少しみんなと撮っていたいな」と思うくらいすごく寂しかったです。それくらい楽しくみんなで撮影させていただけたのはありがたかったなと思いました。主演を務めるとなったら、主役を演じるということだけではなく、みんながその作品に携わってよかったと思えるような空気を監督や演出の方と一緒に築いていくことも仕事の1つだと考えています。その現場が楽しいと思えることが僕自身すごく大事。映画の現場でそれができるかどうかわかりませんでしたが、百田さんはじめキャスト・スタッフの皆さんが思った以上に楽しい空気を作ってくださった。皆さんにとても救われ、助けていただきました。

──いいチームだったんですね。百田さんは映画での初ヒロインを務められました。

百田夏菜子

百田 ヒロインというものがなんなのかよくわからないまま参加させていただいて、「何をしたらいいんだろう」と戸惑いもあったんです。ですが松也さんも初めて主演されるということでしたし、現場も温かかった。奈良の雰囲気もあって穏やかで。スケジュールはみっちり詰まっていたんですけど、それでもヒロインの緊張感を忘れてしまうくらい楽しく撮影させていただきました。最初はずっと2人でのシーンを撮っていたので、そのときにどんどん空気が自然とできていったところがあって、プレッシャーは撮影に入ってみたらなかったかなと思います。

──撮影はどれくらいの期間だったんでしょうか。

松也 1カ月ぐらいですね。僕は奈良に行きっぱなしで、百田さんは前半のほうでバッと撮って、間が空いて、後半にまた戻って来られて。

──先ほど「楽しい」「温かい」という言葉もありましたが、現場を振り返っていかがですか?

百田 すっごく楽しくてアットホームでした!

松也 出演者同士だけではなく、スタッフも入り交じって仲良く撮影していたんです。監督もすごくフランクな方なので、距離感が近い感じでいろいろと言ってくださいました。あとは監督と百田さんの絡みがすごく面白かったです。いじり好きなお兄ちゃんと、それに対応する妹みたいな。そして両方がボケとツッコミをする漫才師のような……。

百田 そんなふうに見てたんですね(笑)。

松也 監督が百田さんと話すときも「こうしてもらっていいですか?」「わかりました」で終わるところがなんかいつも「いや違うし!」みたいな感じで、いつも大げさになってたんですよ。監督が一言余計なことを付け足して、それに対して百田さんがツッコむんです。

百田 本当に余計なことを言うんですよ……(笑)。あと無理難題だけ言って去って行かれると「ちょっちょっちょっ!」みたいな。「ちょっと待って!」「はい、始めまーす」「始まっちゃう!? うそ、どうしろっていうの!?」となったりして。この演技は違ったかもなと思っていると、「今のじゃないよね?」という感じで監督が近付いてくるので、「そうですよね。私もそうだと思ったんだけどなあ、ちょっと自分の中で消化しきれてないなあ」って話したり(笑)。

松也 それも別に眉間にしわ寄せながらやっているのではなくて、「今の違うよねっ?」という感じで。

百田 「確かに違ったかもなあ」って(笑)。

松也 そういう雰囲気がほほえましかったです。この間メイキングを観ていたのですが、監督が「百田さんこれはこうで、こうしてもらっていいですか」と言うと、百田さんは「OKOK!」って(笑)。仲がいいからなんですけど、僕がそれにツッコんでるシーンがありましたよ。

百田 あははは!(笑)

日本ならではの美しさが表現されている映画(松也)

──監督とは皆さんいい関係を築けたようで(笑)。監督は音楽に強いこだわりを持ってディレクションされたようですが、ほかにもこだわっていた一面があれば教えてください。

百田 ビジュアルへのこだわりはすごかったです。

松也 特に髪型に関してはすごかったですね! 香芝の前髪と吉乃ちゃんの後ろの髪の毛が……。

左から百田夏菜子扮する生駒吉乃、柿澤勇人扮する王寺昇。

百田 監督にしかわかんないだろうなというくらいの髪の毛1本にこだわりを持たれていて。

松也 ミリ単位でこだわってましたよ。僕はけっこう癖っ毛なので大変なんですよ。天気によっては前髪もくねくねしちゃって。ヘアメイクの方がカットかかるたびに直してくれました。百田さんも長い髪を内側に入れ込んでボブ風にしたよね?

百田 そうなんです。原作の吉乃ちゃんがボブなのでボブにもしたいけど、結った髪型もしたいと監督が。ボブの形もすごくこだわってましたね。

松也 画角的に後頭部は映らないのに、ここがさ……って(髪を気にするような監督のしぐさをまねしながら)。みんなで「今日は真壁センサーに引っかかっちゃうかな? 大丈夫かな?」って言ってたね(笑)。

百田 それが朝の会話ですよね(笑)。

「すくってごらん」
「すくってごらん」

──意外なお答えです(笑)。ビジュアルつながりですが、劇中では和の雰囲気たっぷりの美術や、美しいライティングが印象的でした。

松也 美術スタッフの皆さんの努力もあって、本当に素敵だなと。町自体も雰囲気のあるところでしたので素敵な映像になるだろうと思っていました。とても美しく、金魚が映えるようなセットを作っていただけたのはすごくうれしかったです。あと(柿澤勇人演じる)王寺昇が乗っている金魚カーは現場で見ていても楽しかったですし、映像では予想以上に美しかった。これは日本ならではの美しさが表現されている映画だなと。金魚すくい、金魚を通して見る景色は唯一無二だと感じました。

百田 町自体本当に素敵で、そこを撮るだけでも日本を感じられるような場所でした。現場にいろんなセットや美術がある中でも、照明や光がすごく綺麗で。そういうものが大好きなので、自分のシーンじゃないときでも照明が美しい紅燈屋や、カフェ・RANCHUでただただ金魚を見てました。待ち時間も癒やしの時間でしたね。あんなに日本のよさを感じられることってなかなかないので、それを毎日感じて生活できたのはすごくよかったです。