映画「すくってごらん」尾上松也×百田夏菜子インタビュー | 金魚すくいを通して見る景色は唯一無二、映像と音楽で紡ぎ出すポップエンタメ

松也さんの歌声が心に響いてきた(百田)

──ではお気に入りのシーンを挙げるなら?

松也 電話ボックスのシーンですね。ドアを開ける前、開けたあとといろいろ入り混じっているので、何日も掛かって完成したんです。仕上がりが想像できない中で演じていたので、完成したものを観たときの感動はすごくありましたし、水をかぶるシーンはやり直すのにも時間がかかるので、一発で成功させなくてはいけなくて……。

百田 緊張感がありましたね。

松也 何人ものディレクターさんが水の犠牲になっては「はいOKです!」と、何度も検証していました。

百田 「けっこうヤバいですねこれ、松也さんヤバいです」って言ってました(笑)。私は香芝さんが「僕が歌います」って急に歌い出す、「オンリーユー・オンリーミー」が流れるシーンが本当に大好き。夜に町の通りに出てワンカットで撮影して、歌とセリフで2人で掛け合いしながら進んでいく場面です。松也さんが本当に気持ちを込めて歌ってくださって、その声が町中に響いていました。物語的には香芝の思いが吉乃に響いてはいけないなと思ったんですが、松也さんの歌声がすごくて、心に響いてきてしまって(笑)。これはダメだ!と思って、気持ちにふたをしました……という葛藤も含めて印象的なシーンでしたね。でもここでは歌が突然始まるシュールさに私が笑ってしまって、2回くらいNGを出してしまいました。

松也 ふふ(笑)。

「すくってごらん」

百田 ツッコみたくなっちゃうんですよ、「いや歌わないで!?」って(笑)。それくらいシュール……カオス……なんですけど、すごく素敵なシーンで。香芝のかわいらしさやまっすぐさが表れているシーンです。

──生歌はぜいたくですね……! 楽曲数も多いですが、1曲好きな曲を教えてください。

百田 石田ニコルさん演じる山添明日香さんと香芝さんが歌う「すれちがいのラブソング」です!(と言って歌い始める)

松也百田(2人で歌の続きを口ずさむ)

百田 めっちゃ好きで家ではそればっかり。最初に楽曲を全部いただいたときからこの曲がすごく好きだったんですが、2人の歌の掛け合いは本当に素敵でした。

松也 僕はあの場面で初のキスシーンをしてますからね。

──えっ! 初だったんですか?

左から石田ニコル扮する山添明日香、尾上松也扮する香芝誠。

松也 映像では初めてなんです。めちゃくちゃ緊張しましたよ……。石田さんも映像だと初キスシーンだったみたいです。「どの段階でキスするんだろう? リハーサルや段取りのときからやるのかな……?」といろいろ考えていたら、石田さんが段取りからバッと。リアルに「エッ!? エッ!?」ってなってしまいました。

一同 あははは!(笑)

松也 それで、僕が好きなのは終盤の「この世界をうまく泳ぐなら」です。ハッピーになれる曲ですし、吉乃と王寺と香芝の3人で歌う曲。映画のラストをガッと盛り上げてまとめてくれる1曲なので。

なんだこれ?と面白がって観ていただければ(松也)

──松也さん、百田さんはそれぞれ楽曲でラップとピアノ演奏に挑戦されてますね。すごかったです。

松也 僕なんか全然です! ラップは英語でしたから開き直ってやりました。上手下手というより、なんだこれ?と面白がって観ていただければという気楽なつもりでやれたんです。ですが百田さんは大変です、演奏技術ですから。僕も演奏を聴きに行って感動しました。みんな感動してましたよ。より一層みんなでがんばろうという空気にしていただきました。

百田 でも監督は「もうちょいできるよね?」って言ってました(笑)。

松也 言いたがるんですよね(笑)。でも監督と一緒にモニタで観ていたんですけど、感動したって言ってましたよ。ピアノの経験はなかったんですよね?

百田 そうですね、幼稚園のときのピアニカぐらいで。撮影前に集中的に練習しました。

──ピアノを弾きながら歌も歌われてましたね?

百田 それも難しかったです……! 一応普段は音楽の世界にいるんですが、「やっぱりすごいな、この世界は」と改めて思いました。「この世界をうまく泳ぐなら」を弾きながら、「泳げない! うまく泳げません!」って考えてました(笑)。

──本当に素敵なシーンでした。お二人は歌舞伎、音楽と違う分野で主に活動されていますが、ジャンルを超えての共演はいかがでしたか?

左から尾上松也、百田夏菜子。

松也 百田さんは瞬間的な集中力が本当にすごい方だなと思いました。オンオフのスイッチがはっきりしていて、そこには引っ張っていただきました。「撮れました、大丈夫です」とスタッフさんに言われても、僕がわざと歌い続けると、それをくんでちゃんと受け止めてくれる度量もあって。だからこそより一層やりたくなるし、どんどん引き出してくれる方だなと思いました。一緒に出演させていただけて面白かったです。

百田 私も松也さんの切り替えが本当にすごいなと実は思っていました。香芝はまっすぐすぎて「あの人なんなんだろう?」って思われてしまうくらいのキャラクターなので、私も現場で切り替えないとフッと心をくすぐられてしまうというか(笑)。現場では松也さんがずっと香芝としていらっしゃる中、そこに付いて行こうと必死でした。普段はお互い違う舞台・ステージに立っていますが、違う場所から来たからこそ逆になんの違和感もないという感覚です。全部を一緒に作り上げていける感じがあって、毎日探り探りやっていくのが面白かったです。

松也 プロのアイドルですよね、本当に。このときはこのチャンネル、このときはこのチャンネル……とそれぞれあるんですよ。

百田 そんなそんな! 私も個人的に松也さんの歌舞伎を観に行かせていただいたこともありましたし、テレビでも拝見していましたが、実際にお会いしてみたら全然違う雰囲気でびっくりしました。

それは直接言ってほしいなあー!(笑)(百田)

──今回音楽ナタリーでは真壁監督へのインタビューを実施しています。その際お二人にメッセージを預かっていまして。まず松也さんへ……「初主演映画でこういうことをやって後悔はないと言ってくださいましたが、本当のところはどうなんでしょうか?(笑) あと、次に僕と何か一緒にやるとしたらどんなことをしたいですか? 同年代組で盛り上げていきたいので、ぜひ」とのことです。

松也 後悔してるわけないでしょ!(笑) 本当にやってよかったです。監督とは舞台を一緒にやっても面白いと思いますし、もう一度映画も撮りたいですね。映画作りって舞台作りに近いんだなと今回感じたんです。奈良でずっと籠っていましたので、毎日みんなで顔を合わせて、24時間作品のことしか考えない。合宿のようで、それが舞台の過程にすごく近かった。僕は舞台をメインにさせていただいてますので、改めて映画作りってすごく楽しいんだなと感じました。真壁監督とは同年代で、いい出会いになりました。「すくってごらん」の続編があればうれしいですし、この間監督とは「突然ラップが始まったりする時代劇を作りたいですね」とも話しましたよ(笑)。

──それはかなり期待してしまいます……! では、百田さんへ。「百田さんに関しては、僕がすごく無茶を言ってしまったのでどこかで本当に嫌われてしまったのではないかと(笑)。目を合わせてくれなくなるくらい嫌いになったと思いますが、今はもう大丈夫でしょうか? まだ嫌いですか?」ということですが……。

百田 あははは!(笑) よく現場でも言われてたんです。お芝居が終わったあと、監督と女優さんってアイコンタクト取ることがよくあるんですが、私とは1回も目が合わないって(笑)。そんな意識全然したことないんです。嫌いとかじゃないです!(笑)

──音楽ナタリーの取材では、監督が百田さんのピアノをとても褒められていて、「本当にすごい」「努力されてて、才能もある」とおっしゃっていたそうです。

百田 それは直接言ってほしいなあー!(笑) 確かにスパルタだったと思いますが、本当にいい経験をさせていただきました。監督の頭の中に付いて行きたいという気持ちも強かったですし、監督が想像しているもの以上に大きなものを出せるようにがんばりたいという思いでいっぱいいっぱいだったので、目が合わなかったんだと思います。また一緒に作品やらせていただけることがあれば、付いて行けるようにがんばりたいです!