社会の幸福度が上がれば、悪口の量も減ると思う
──本作は、一度社会のレールから外れてしまった三上が苦労する姿を通して、社会の不寛容さを描いています。AKB48として15年アイドルを続け、常に世の中から見られる立場でいる峯岸さんも、感じるところがあったのではないかと思うのですが。
“失敗した人間が戻ってくることが許されない空気”は、最近の芸能界においても強いと思います。特にネットでは、何かしてしまった人に対して、直接被害に遭っていない人々も石を投げる風潮がありますよね。もちろん本人に至らない点があったのだとは思うんですけど。でも私ももし一般の仕事をしていたとしたら、いわゆるゴシップを面白がっていたかもしれないなって。ネットに書き込むまではしなくても、友達との話題にはしていただろうし……。ただ自分もその標的になったことがある人間としては、メディアに取り上げられている部分がすべてではないってことをみんながわかってくれたらな、と思います。メディアに出る立場なので見せ方や発言にいっそう気を付けていかなきゃと思いつつ、実際に見たものや触れたものを一番に信じるような世の中になってほしいです。
──劇中で吉澤たちが三上をネタにテレビ番組を作ろうとするシーンでは、ある一面を恣意的に切り取ろうとする描写も盛り込まれていましたね。
三上のような人を見たら、私も怖いと感じてしまうと思います。でも近くの人の目を通して見ると、三上にも優しい面があるとわかりました。世の中には、近付いてみないとわからないことがたくさんあるんだっていう大前提を考えさせられましたね。みんながそれに気付けば、もうちょっと優しい世界になるのかな。だからこそ私は、エゴサーチして傷付くこともあるけど、「この人たちはネットニュースの一部とか、テレビに切り取られた印象だけを見て発言している」ってことを忘れないように心がけています。無責任な言葉に必要以上に傷付いてしまうのは精神的にもよくないので、身近にいる大切な人の声を、なるべくボリュームを上げて聞くようにしています。
──なるほど。
長澤まさみさん演じる吉澤のセリフにあった「レールの上を歩いている私たちも、ちっとも幸福なんて感じてないから、はみ出た人を許せない」っていう言葉は、まさにその通りだと感じました。特にコロナ禍になってからは世の中がピリピリして、みんなの言葉もトゲトゲしてしまっているので、社会の幸福度が上がれば悪口の量も減るんじゃないかな。もっと明るい未来を描ける社会になって、みんなが自分の生活に満足できたら、傷付く人も減るだろうなと思います。
「大事なのは誰かとつながりを持つこと」
──この映画では、1人で生活することになった三上が、社会にどう立ち向かっていくかが描かれていました。AKB48卒業を発表されている峯岸さんが、今後1人で闘っていくために考えていることはありますか?
結局世の中って、人とのつながりだなって。昔からぼんやりと考えていたことが、この映画を観て感じたことにリンクしました。しっかりと挨拶をして、ひたむきに謙虚に仕事をして、「この子とまた仕事したい」って思われることが次につながると思います。バラエティでやっていくにしても、女優さんとしてやっていくにしても、芸能界以外でもそうだと思うので、常識なんですけど(笑)。才能やビジュアルでは、私よりも優れた人が数え切れないくらいたくさんいます。だから私にできるのは近くにいる人を大切にすることだし、それがいつか自分に返ってくるのかなと。簡単なようで難しいですが、それに気を付けていれば、「気付いたら周りから誰もいなくなっていた」ってことにはならないんじゃないかな。それは、周りの人に恵まれている三上の姿からもらったヒントでもあります。
──社会の冷たさが描かれる反面、そんな状況でも手を差し伸べてくれる人の優しさも際立っていましたね。
はい。(北村有起哉演じるケースワーカーの)「大事なのは誰かとつながりを持って、社会から孤立しないこと」っていうセリフもすごく心に残っていて。落ち込んだときは自分の殻にこもってしまって、人に会いたくなくなっちゃいますけど、そういうときこそ周りの人の言葉が救ってくれるんです。つらいときほど誰かに頼ってもいいんだなって思えましたね。
──コロナ禍で物理的に孤立しがちな分、精神的なつながりはいっそう大事になってきますね。
はい。今の時代を生きるみんなに、どこか思い当たる節のある物語だと思いました。生きるヒントや、心が軽くなる言葉がたくさん落ちていたので、みんなこの映画から好きなところを拾って“勝手に”楽になってほしいです。
──ありがとうございます。最後に、この映画をどんな人にお薦めしたいですか?
もともと映画好きな方は自分から観てくれると思うので、「薦められた映画は観るけど、自分では何を観たらいいかわからない」っていう人を、こっちに引き込みたいです(笑)。重すぎず、楽しんで観られるシーンもたくさんある映画なので、身近な人で言うと……エンタメ好きのさっしー(指原莉乃)とか。あと、コロナ禍で自分の時間が増えたとき、私は自発的に何かをしている人がすごくうらやましかったんです。資格を取ろうとしたり、筋トレをしたり、毎日凝った自炊をしたり。でも自分にはできないな、とも思ってしまったんです。だから同じような気持ちでいる人に「何をしていいかわからないんだったら、ちょっとこの映画観てみなよ!」ってお薦めしたいです。
※記事初出時、公開表記に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
2021年2月22日更新