「新解釈・三國志」 | 福田組は“ゆるい”だけじゃない / 「新解釈・福田雄一」プロデューサーが明かす知られざる一面とは

大泉洋が「水曜どうでしょう」のノリで劉備を演じる。そんな奇想天外なコンセプトから生まれた「新解釈・三國志」のBlu-ray / DVDが、4月21日に発売。映画ナタリーでは発売を記念し、監督・脚本を担った稀代のヒットメーカー福田雄一を特集する。題して「新解釈・福田雄一」。数々の現場をともにしてきたプロデューサーの北島直明、松橋真三には監督の知られざる一面や福田組が俳優たちに愛されるワケを聞いた。また年表からフィルモグラフィをたどると、「笑いのある喜劇」にこだわる新たな福田像がたち上がってきた。

文 / 奥富敏晴

笑いに特化!新解釈の「三國志」

中華統一を巡り魏、呉、蜀の3国が群雄割拠していた時代の史実と説話をまとめた「三國志」。日本でも小説やマンガ、ゲームなどで幅広く親しまれる「三國志」を、福田雄一が笑いに特化した独自の新解釈で実写映画化した。ムロツヨシ、賀来賢人、橋本環奈、山田孝之、佐藤二朗、小栗旬ら福田組の常連キャストたちが大集合&大暴れ。そして福田に「大泉さんが劉備をやらなかったら、これはもう全然やる必要ない」と言わしめた大泉洋が、満を持して福田組への初参戦を果たした!

福田組、初参戦 この3人に注目!

劉備(大泉洋)

大泉洋 劉備

ボヤキ続ける劉備

福田とは昔から親交があったという大泉洋が福田組初参戦にして主演。義兄弟の盃を交わした関羽、張飛とともに義勇軍を立ち上げ“乱世の英雄”となる劉備を演じた。多くの人々を惹き付けた人望の持ち主だが、新解釈では大泉ならではのボヤキ節が炸裂。ずっと愚痴しか言わない“かつてない劉備”だが、しっかりとしびれるシーンもあり。

趙雲(岩田剛典)

岩田剛典 趙雲

鼻につく自称イケメン将軍

モテるうえに……強い! 岩田剛典が演じたのは、三國志一のイケメンと名高い蜀の武将・趙雲。福田流の新解釈では、“鼻につく自称イケメン将軍”というキャラクターに。岩田にとってもコメディは新しい挑戦で、変な汗をかきながらの試行錯誤が続いた現場だったそう。趙雲が大活躍する映画随一のアクションシーンも必見!

左から周瑜(賀来賢人)、孫権(岡田健史)。

岡田健史 孫権

純朴なバカ

岡田健史が演じたのは、呉を建国した真面目で英明な孫権だ。福田曰く、岡田の演技は「純朴なバカを演じてほしくて、まさに純朴なバカになってくれた」とのこと。岡田が初めての福田組で迷いながら演じる姿が、図らずも福田の求める孫権像になったという。賀来賢人と矢本悠馬という福田組の常連が孫権を支える周瑜と黄蓋に扮している。

プロデューサーが語る福田雄一

北島直明
日本テレビ所属の映画プロデューサー。映画「ちはやふる」シリーズ、「22年目の告白ー私が殺人犯ですー」「キングダム」「藁の楯」「町田くんの世界」「ルパン三世 THE FIRST」などを手がける。「新解釈・三國志」は、「斉木楠雄のΨ難」「50回目のファーストキス」に続く福田とのタッグとなった。

ここがすごいぞ!福田雄一

「新解釈・三國志」

ありがたい事に、福田監督と組ませて頂いたのは、今回で3作品目となりました。毎度、驚かされるのは、【美術打合せ】の短さですね。【美術打合せ】とは、台本の1ページ目から最後まで、ロケ地・衣装・小道具・エキストラの数など、撮影に必要な詳細を打合せる場の事。通常の映画作品では丸1日掛かります。しかし、福田組では2時間くらいで終わります。「準備は大丈夫なのか?」と凄まじく不安に陥りますが、結果として、毎度、問題が起きた事がありません。全てのスタッフが、「For The福田雄一」の精神で、最高のパフォーマンスを発揮してくれるんですね。福田監督の求心力というか、カリスマ性というか、神懸っているな、と思います。

また、アクションシーンの撮影においては、本当に興味が無いのでしょうね…アクション監督に任せっぱなし。でも、「新解釈・三國志」でも素晴らしいアクションシーンが作品の中に馴染んでいる。「餅は餅屋」という言葉はありますが、福田監督は、餅屋が作った餅を素晴らしい料理に仕立て上げる力が“神”だと思います。

福田組が俳優に愛されるワケ

「新解釈・三國志」

撮影現場にライブ感があるからでしょうか。福田監督は、何度も芝居を繰り返させる、という事はしません。

1発目の“芝居”に重きを置いて演出されているな、と。“緩い現場”と評される事もありますが、実際には、程よい緊張感があり、役者だけではなく、スタッフも含めて、本気で福田監督を笑わせようとするプロの技が飛び交っています。そのライブ感が、楽しいのではないでしょうか。

そして、監督のジャッジがぶれない、というのも役者は安心するのではないでしょうか。福田さんが笑えば多少噛んでもOK、という明確な指針がある。これは他の現場ではあまりない指針ですね。

常連俳優たちの忘れられない“あの瞬間”

「斉木楠雄のΨ難」の山﨑賢人さんとムロツヨシさんのイリュージョンのクダリ、ここは爆笑しましたね。胡散臭さの極みのようなイリュージョニスト役のムロさんに、ひたすら冷静にツッコミ続ける山﨑さんのやり取りは凄かったですね。佐藤二朗さんは、いつも福田監督からプレッシャーを掛けられているな…と。監督が書く二朗さんのセリフは、いつも隙があって。「その隙をどう埋めるんだ?」という監督からの無言のメッセージを汲み取り、戦う二朗さんの姿が僕は好きです。

「新解釈・三國志」一番笑った瞬間

渡辺直美演じる貂蝉(右)が舞を披露するシーンより。

大泉さんにボヤキツッコミをさせる為に、どんどん仕掛ける福田監督演出は全て面白かったですね。特に、渡辺直美さん演じる貂蝉のダンスシーン。笑わせようとする直美さんと、ひたすら耐える大泉さん、橋本さとしさん、高橋努さん、岩田剛典さん。この攻防戦は本当に面白かったです。

松橋真三
映画プロデューサー。制作会社クレデウス代表取締役。これまでに映画「るろうに剣心」「オオカミ少女と黒王子」「ママレード・ボーイ」「キングダム」などを手がける。福田とは「女子ーズ」「銀魂」シリーズ、「斉木楠雄のΨ難」「50回目のファーストキス」に続くタッグとなる。待機作に「夏への扉-キミのいる未来へ-」がある。

ここがすごいぞ!福田雄一

「新解釈・三國志」

いろいろありますが、今回は脚本のお話。お付き合いも大分長くなりまして、ここ数年はついに脚本の締切を守っていただいたことがありません(笑)。5年ほど前に「いやあ、締切の話をされると書く気がなくなっちゃうんですよ!」とわけのわからないことを言われ(笑)、私は催促するすべを失ってしまいました。ただ、締切をとうに過ぎたある日、いきなり神が降りてきたような面白い脚本が送られてくるので、修正をお願いする必要もないし、結局なんとかなってしまうわけです。脚本が相当面白いわけでして、こちらも急いでいるので移動の電車の中で読んだりすることもあるのですが、笑いをこらえないといけないし顔を真っ赤にしながらこらえてたまに吹き出してしまう、というほんとやばい人になってしまいます。最近では、この待つストレスに耐えられる鉄の心臓のプロデューサーだけが、福田神の恩恵を受けられるのだと考えるようにしています。

福田組が俳優に愛されるワケ

「新解釈・三國志」

スタッフ・キャストともに撮影中は、福田監督を笑わせるということに集中しまして、それが達成されれば、多少噛んでも失敗してもOKだと、そういうことは最近よく言われます。ただ、思うのですが、実は役者さんたちも笑わせることに集中することで、余計なことを考えたり肩肘張ったりすることがなくなり自然な演技をしていたりして、実はそれなりに自分の演技を再発見しているのではないかと思います。思ってもみなかった達成感があるのでは?と思うのです。役者さん同士の間で福田さんの作品やるといいよ、という話はよく出回りますが、それはむしろそういうことを体で感じているからではないかと思うのです。頭で考えるだけではなく、体や感覚やリズムで感じること、とでも言いましょうか。トップの役者さんほどそういうことに敏感なはずだと思うのです。そして、そんなことを学びながら、撮影も早いんで夕方には早々に終わってしまいますし。

常連俳優たちの忘れられない“あの瞬間”

福田さんの撮影現場は本当にだいたい楽しいですし面白いんですが、その中でも、奇跡が重なり笑いの神が降りてくるくらい面白い場面というのがいくつかあります。要は、自分の予想を超えてはるかに面白くなった!という場面です。私の中のベストは、「銀魂2」の勝地涼さん扮する将軍が、小栗旬さん、菅田将暉さん、橋本環奈さんら万事屋の皆さんがバイトしている床屋にくるシーンです。小栗さん、橋本さんのボケに、菅田さんのツッコミが神のごとく決まり、死ぬほど笑いました。現場で観ているときは笑っちゃいけないので、こらえるのがつらくてこめかみが痛くなるほどでした。その奇跡がずっと続きまして、笑いをこらえすぎて頭痛が激しくなり、終わったあと頭痛薬を飲みました。笑い過ぎて頭痛薬を飲んだのはその時が初めてです。

「新解釈・三國志」一番笑った瞬間

「新解釈・三國志」

まず、福田さんが大泉さんの大ファンなわけです。「新解釈・三國志」をやりたいんだが、大泉さんが出てくれないならやりたくない、というのが福田さんからの最初の無茶な相談ですから。脚本もすべて大泉さんへの当て書きです。脚本読むときは、大泉さん言いそう~!と思いながら読むことになります。今回は、やっぱりあの腹痛の仮病で戦に行かないというシーンですね。現場で福田さんが、こんな感じでって演出するんですが、それは福田さんが大泉さんの真似をやってるんだと思うんですが、大泉さんは自分の真似してる福田さんを見て自分がそれをやらなければいけないという摩訶不思議なことを演じないといけないわけで、それはそれは大変だったと思います。で、福田さんの腹痛の仮病がまあ面白いのでそれも超えなきゃいけないし。観てる我々は大爆笑でしたが、大泉さんは大変だったでしょうね。それを倍返しする大泉さんは、お見事としか言えません。