中国ドラマ史上最高となる総製作費100億円を掛けた超大作「神龍<シェンロン>-Martial Universe-」(原題:武動乾坤)のDVDセットが9月3日より順次発売される。原作であるWeb小説の閲覧総数3200万回、セットの広さ6万平米、スタッフ1060人、CGシーン2000分と破格のスケールを誇るファンタジースペクタクル時代劇を、映画ナタリーでは複数回にわたって特集する。
第1弾では、チャン・イーモウの「HERO」「LOVERS」、ジョン・ウーの「レッドクリフ」2部作、ドラマ「三国志 Three Kingdoms」など中国の現場を取材してきた映画ナタリー編集長・岡大が中国の製作事情を解説。いかにして「神龍<シェンロン>-Martial Universe-」という大作が誕生したか、その謎を解き明かす。さらに、アジアの俳優事情に精通する映画ライター・よしひろまさみちが、主演を務めたヤン・ヤンと、初の悪役に挑んだウーズンの魅力に迫った。
文 / 岡大(解説)、よしひろまさみち(コラム)
文 / 岡大
- Q.製作費100億円はどれぐらいすごい?
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映画とドラマの違いはあるが、日本映画で製作費10億円といえば超大作と呼ばれる。「神龍<シェンロン>-Martial Universe-」(原題:武動乾坤)は実にその10倍もの予算が掛けられた。
日本でも放送された全95話の中国ドラマ「三国志 Three Kingdoms」は製作費25億円、同じく歴史大作である全86話の「水滸伝」は55億円だったことからも、全60話の「神龍」に掛けられた100億円がどれほどビッグバジェットであるかがわかる。
- Q.なぜそんなにお金が集まる?
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日本との人口、市場規模の差はもちろんあるが、製作に至るまでの過程にも大きな違いがある。
テレビ局がドラマを作る日本と異なり、中国では制作会社が作って複数のテレビ局や配信会社に作品を売る仕組み。厳密には、2つの放送局と1つの配信会社が最初の放送・配信権を取得し、購入争いに敗れたところは時期を置いて放送・配信する形となる。原作が3200万回閲覧された人気Web小説である「神龍」のようなケースだと、企画段階でお金が集まりやすく、価格も高騰。それを製作費に充てることができるのだ。近年はアイチーイー(愛奇芸)、テンセント(騰訊視頻)、Youku(優酷)など動画・配信サイトの参入によって、ますます放送・配信権を巡る競争は激化している。
- Q.「神龍」は中国でどれぐらい観られた?
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2018年8月7日に放送と配信が開始となった「神龍」。Youkuでの配信では初日1.2億、3日で5億再生を記録した。視聴数の出ていないテレビ抜きでもこの数字!
- Q.100億円の製作費はどう使われた?
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山﨑賢人主演の映画「キングダム」の撮影にも使われた中国・浙江省にある象山影視城に6万平米のセットを制作。500本の樹木を植え、滝や湖も作った。象山影視城以外にも新疆ウイグル自治区、内モンゴル自治区、雲南などでロケ撮影を敢行。さらに、ヤン・ヤンをはじめとした人気俳優たちを起用しながら、撮影期間は258日! スタッフの数は1060人に上り、莫大な人件費が掛かっている。そして、「神龍」には約2000分に及ぶCGシーンがあり、ポストプロダクションにも予算がつぎ込まれた。
- Q.中国には「神龍」のような時代劇ドラマが多い?
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2018年に大ヒットした「如懿伝(にょいでん)~紫禁城に散る宿命の王妃~」「瓔珞(エイラク)~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~」のような宮廷を舞台とした時代劇が近年盛り上がっているほか、「三国志」などをモチーフした武侠ドラマも根強い人気を誇っている。
中国では脚本段階で検閲があるため、現代劇で銃撃戦をやろうとすると「中国の市街地では銃撃戦は起きない」、兄弟のドラマを描こうとすると「一人っ子政策だから兄弟はいない」と却下されることが多いのも、時代劇が多くなる理由の1つだ。
一方で、史実を脚色しすぎて荒唐無稽になってきていると問題視されるケースもあり、時代劇にも規制の動きが出てきている。今後は「神龍」のような、史実をもとにしないファンタジーがトレンドとなっていく可能性は大いにあるだろう。
文 / よしひろまさみち
中国のエンタメ業界は、現在花盛りと言っていい時代を迎えている。ちょっと前までの中国エンタメ業界は、台湾や香港など、メインランド中国ではない中国語圏から出たスターや監督、物語などを中心に流行が築き上げられてきた。だが、2010年代、著しく経済成長した中国では、エンタメ業界もともに大きな成長を遂げている。中国本土出身のスターの誕生、うなるほどの予算をつぎ込んだ大作の製作など、経済成長のスピードに比例して、エンタメ界も急成長をしている。そんな中、製作費100億円、全60話という鳴り物入りのファンタジー時代劇「神龍<シェンロン>-Martial Universe-」が、ヤン・ヤンとウーズンという当代きってのスターを携えてリリースされた。
ヤン・ヤンは人民解放軍芸術学院で舞踊を学び、在学中に出演したドラマ「紅楼夢~愛の宴~」でデビュー。その後、人気小説を原作にしたドラマ「盗墓筆記(原題)」の出演や、スターを輩出することでも知られるリアリティ番組「花児与少年(原題)」第2シーズンの出演を経て、若者を中心に人気が沸騰。2016年のラブコメ「シンデレラはオンライン中!」で、彼の人気は不動のものとなり、同年の微博(Weibo)フォロワーランキングで若手男性タレント1位に(2019年現在フォロワーは4800万人超)。小鮮肉(若いイケメン)ブームの中心的存在として君臨している。彼の芝居の持ち味は、凛とした容姿とはギャップのある天真爛漫さ、そして舞踊で鍛えたキレのある殺陣だ。本作ではそのどちらも発揮できる、英雄・林動(りんどう)役で魅力を爆発させている。
ウーズンは、2000年代台湾の大人気ユニット飛輪海のメンバーとして活躍ののちに俳優に転身したスター。オーストラリアの大学を卒業、ブルネイの富豪出身ということもあり、結婚後の今もなおファンの間では「ブルネイの王子」と呼ばれることもしばしば。甘いルックスと育ちのよさから、ラブロマンスものでの活躍が目覚ましかったが、そんな彼も2人の子を持つアラフォー。本作での彼は、円熟味を増して、ますますふくらむ知的な存在感を生かして、初めての悪役・林琅天(りんろうてん)に挑戦している。
かつてはともにアイドル的存在だったヤン・ヤンとウーズンだが、自由な表現を許される歴史ファンタジーである本作での伸び伸びとした演技は、ファンからしてもこれまでに見たことがない顔。本作を機に、本物の明星となった、といっていいだろう。
2019年9月26日更新