深川麻衣が語る「映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!」|小さな頃から親しんできた“ショーン世代”を代表し、感想をイラストで表現! アードマンのスタジオレポートも

アードマン・アニメーションズ スタジオレポート&作品解説

1秒25コマ…途方もなく細かい作業の積み重ね

ストップモーションアニメーションの世界の中でも、最高峰の技術とスタッフを抱えるイギリスのアードマン・アニメーションズ。本社と撮影スタジオのあるイギリス西部の都市、ブリストルを訪れた。ちょうど「映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!」が完成したばかりのタイミングでお邪魔した撮影スタジオには、まだ「UFOフィーバー!」のセットが残っており、スタッフは現在製作中の「ひつじのショーン」テレビシリーズ第6シーズンの撮影準備に入っていた。

ご存じの通り、ストップモーションアニメーションは、キャラクターのモデルをちょっとずつ動かして1コマ1コマ撮影したものをつなぎあわせた、アニメーションの技法でもっとも伝統的手法で作られたもの。1秒25コマ、1日に撮れる尺は6秒。気の遠くなるような作業を繰り返し、一編の作品ができあがる。しかも、「ひつじのショーン」シリーズはセリフがないだけに、キャラクターの動きや表情だけで表現しなければならない、という制約が。テレビシリーズは1エピソード7分だが、劇場用長編となると90分弱という長尺。キャラクターの表情1つとっても、どれだけの数を用意すればいいのか、ショーンを劇場で見せるためには途方もないマンパワーが必要となる。

ルーラの“口”は約3000種類!

本作でもっとも表情が豊かなのは、新キャラクターである宇宙人のルーラ。牧羊犬のビッツァーの口のパターンは15種であることに対し、ルーラの口のパターンはなんと約3000種も作られている。実は各キャラクターとも、擬音の発声に合わせた口を作っているのだが、そのシーンの発音ごとに口の部分をすげ替えているため、一度使ったマウスシェイプは二度と使えない。そのため、よく宇宙語(?)をしゃべるルーラは、口のモデルが他のキャラクターに比べて大量に必要となる。

また、ルーラは体自体も柔らかい設定。他のキャラクターが硬い素材で作られたモデルに金属製の骨組みを入れて動かしているのに対して、ルーラはそれ自体が柔軟性を持つプラスチックで作られている。他の主要キャラクターはテレビシリーズでのノウハウがあるものの、新キャラクターでありストーリーのメインとなるルーラには、ショーンとともに愛されるキャラクターにするため、多くのアイデアとテクニックが注ぎ込まれたと言えるだろう。

ショーンを宇宙へ送り出す準備が整った

本作にはもう1つ、見逃せない挑戦がある。それはSF映画への挑戦。監督、プロデューサーともに「ショーンの続編映画を作るならば、SFにして、彼らを宇宙に連れ出そうというところから企画が始まった」と語っているが、このようなストップモーションアニメーションで宇宙や宇宙生物を描き出すのは想像できないこと。実写のSF映画でもVFXがなければ描き出すことは不可能な舞台設定だ。

実は近年のアードマン作品は、キャラクターモデルやセットなどの手作りパートはそのままに、積極的にVFXを取り入れている。背景はもちろん、エフェクトなど、これまで以上に広い世界観を作り出すためには必要不可欠な技術導入だ。とき熟して、ショーンを宇宙へ送り出す準備が整ったと言える。ただ宇宙に連れ出すだけでは、アードマンは終わらない。ありとあらゆるSFの名作へのオマージュを盛り込む遊び心は、制作スタッフ全員が楽しんでいた部分の1つだ。「E.T.」や「2001年宇宙の旅」はもちろん、「ゼロ・グラビティ」など近年の傑作なども盛り込まれているので、本編でチェックしてもらいたい。

よりシネマティックな体験を提供するために

そして、その広大な世界観を実現するために、本作ではアードマン史上初めての取り組みもなされている。それは画面アスペクト比。これまでの作品はすべてアメリカンビスタ(1.85:1)で撮影されてきたが、今回初めてシネマスコープ(2.35:1)で撮影された。これは監督曰く「よりシネマティックな体験をしてもらうための試み」とか。ファミリー向けの映画だけに、そこまで気にかけて観る人は多くないのかもしれない。だが、これは大きな変革。今後、劇場用長編すべてに採用するかどうかの言及はされなかったものの、アードマンがシネスコを採用したことが、他のアニメーションスタジオに与える影響は少なからずあると予想する。そんなターニングポイントともなる「UFOフィーバー!」は、老若男女に支持されるのはもちろん、コアな映画ファンにとっても忘れられない映画体験になるだろう。