クロエ・グレース・モレッツが主演するサスペンスアクション「シャドウ・イン・クラウド」が、4月1日に公開される。
本作の主人公は空軍大尉モード・ギャレット。最高機密を収納したかばんをサモアまで運ぶという密命を帯びた彼女が、乗り込んだ大型爆撃機でさまざまな試練に見舞われるさまが描かれる。
この特集では「ベイビーわるきゅーれ」で知られるスタントパフォーマーの伊澤彩織に本作を鑑賞してもらい、モレッツの“本能的なアクション”についてたっぷりと話を聞いた。なお4月3日には東京・新宿ピカデリーで、伊澤が登壇する「シャドウ・イン・クラウド」のトークイベントを開催。詳細は映画の公式サイトで確認を。
取材・文 / 小澤康平撮影 / 清水純一
「キック・アス」にトキメキまくった人間
──第2次世界大戦下を舞台にした「シャドウ・イン・クラウド」では、高度2500mを飛行する爆撃機の機内で次々と試練に見舞われる空軍大尉モード・ギャレットの姿が描かれます。モードと“大空の魔物”グレムリンのバトルなど、アクション要素が多く含まれているので、「ベイビーわるきゅーれ」で卓越したアクションを見せてくれた伊澤さんに今回お声掛けしました。
ありがとうございます。実はお話をいただく前からこの映画のことが気になっていたんです。
──クロエ・グレース・モレッツのファンであるとか?
そうなんです。クロエの出演している映画は数多く観ています。ヒットガールを演じていた「キック・アス」にトキメキまくった人間なので。
──ちなみにアクション映画は普段からよくご覧になりますか?
ジャンルは問わず映画全般が好きですが、アクション映画でバイブルにしている作品があって。1993年に公開されたアーノルド・シュワルツェネッガー主演作「ラスト・アクション・ヒーロー」です。アクション映画に出演したり、観たりするとき、どこかしらでこの映画のことを考えています。
──伊澤さんが生まれるよりも前の映画ですね。
子供の頃に「ターミネーター」や「マトリックス」をテレビで観ていたこともあって、昔の映画も好きなんです。それで言うと、「シャドウ・イン・クラウド」を観ながら「エイリアン」のことを思い出しました。主人公が女性、未知の生物との遭遇、閉鎖的な空間で悪戦苦闘する要素があるので。あとは1人でなんとかしないといけないという意味で、ダニー・ボイル監督の「127時間」も浮かびましたね。もちろんグレムリンつながりでジョー・ダンテ監督の「グレムリン」も観たくなりました(笑)。
クロエは痛みの演技が抜群
──「シャドウ・イン・クラウド」でのクロエのアクションはいかがでしたか?
今までで一番成熟した女性役のような気がします。少女や女の子ではなく、女性としてのアクションを見せてもらいました。
──「ベイビーわるきゅーれ」の人間VS人間のアクションとは質が異なるように感じましたが、どのような違いがありましたか?
「ベイビー」はすべて立ち回りで見せるアクションなんです。「シャドウ・イン・クラウド」は逆で、爆破などもありますし、人間同士の戦い以外の要素が絡んでくる。あとは最近感じているのが、キャラクターに武術の経験があるのか、本能で戦っているのかでアクションのジャンルが変わってくるということです。「ベイビー」で言うと、殺しの技術に長けている人間がアクションをしているので説得力があって、「この人なんで戦ってるの?」という疑問を感じさせない。でも「シャドウ・イン・クラウド」の主人公モードは本能で戦っているので、いきなりキレキレの足刀とかしたら視聴者は「?」となるじゃないですか。
──そうですね(笑)。
「ベイビー」との一番の違いはそこだと思います。モードは無抵抗でいたら絶対に死んでしまう状況下に身を置いているので、本能的に戦うしかないというのがアクションの根拠になっている。もっと言うと、彼女は最高機密を収納したかばんをサモアまで運ぶという任務を負っているので、そのかばんをグレムリンから守り抜くためにも戦わないといけない。
──さまざまなアクションがある中で、説得力の持たせ方も違ってくると。
はい。ほかの映画を観ていても感じますが、キャラクターが戦っている理由はアクションにとって重要だと思います。ただカンフー映画のように、動きを観ているだけで面白い作品もたくさんあって。「なんでこの人たち戦っているんだろう?(笑)」と思うんですが、そんな感情がどうでもよくなるくらい立ち回りが素晴らしいので。
──なるほど。プロの目から見て、クロエのアクションはどこが優れていますか?
身体能力も長けている方だと思いますが、痛みの演技が抜群だなと感じました。人間が動いている映画は全部アクション映画と言えると思っていて、動きや速さだけが優れたアクションではないです。モードは前半から爆撃機の銃座に閉じ込められてしまい、あの空間しか切り取られないワンシチュエーションだからこそ、動きではなく痛みなどの感情表現が大事になってくるのかなと。クロエはそれがずば抜けてうまいので、大きなアクションがなくとも緊張感を保ったまま観ることができました。
──表情もすごく豊かでした。
アクション中も表情に目が行きましたね。シャーリーズ・セロン、ミシェル・ロドリゲスのようにアクションに長けた女優さんはたくさんいますが、クロエはかっこいいだけじゃない色気を持っている気がします。顔付きなど外見的な要因もあるとは思いつつ、それだけじゃなくて演技の仕方も関係しているんだと思います。シャーリーズ・セロンがモードを演じていたら「きっとなんとかなるでしょ」と思ってしまいそうですし(笑)、クロエだからこそ感情移入ができるのかもしれないですね。
──もし伊澤さんが今回のクロエのような本能的なアクションをやるとしたら、どんなところに気を付けて臨みますか?
あえてちょっと失敗しつつ、そのアクションに演じるキャラクターのアドレナリンを含ませると、本能で戦っているように見えるのかなと思います。失敗というのは、殴ったあとに体勢を崩してしまうとか、慣れていないから拳の痛みを表情に出すとか、ちょっとした表現のことです。立ち回りで見せるアクションシーンも、最初はダンスのように決まっている動きを打ち合わせていくんですが、結局アドレナリンが放出されて、それにより生っぽさが出てくる。なので、いかにアドレナリンを出せるようにするかを考えて、そこに素人っぽさを出すか、プロっぽさを出すかの違いかもしれないですね。
──これまでにどんな本能的なアクションを経験してきましたか?
ホラー映画の現場ではそういうアクションをすることが多いです。怪奇現象の中で行うスタントは、感情むき出しで思い切りやるのが大事なので。
無茶なアクションがギリギリ成立する世界観
──1本の映画としては「シャドウ・イン・クラウド」にどんな印象を持ちましたか?
アクション以外の見どころで言うと、笑えるシーンが多かったです。第2次世界大戦中の物語なので背景はシリアスなんですが、エンタメとして楽しませてくれる場面がちゃんと用意されている。これってB級映画と言っていいんでしょうか?
──いいと思います。かなり無茶なアクションをギリギリの説得力で見せる場面がいくつもありますし。
爆破のシーンはめちゃめちゃ笑いました。爆撃機から落下してしまったモードが、低空で爆発した戦闘機の爆風によって浮上し、もともといた爆撃機に無事戻るという(笑)。「え、すごいスピードで動いている中で!?」と思いましたが、ハラハラしつつ笑ってしまうすごく魅力的な場面ですよね。
──観たことがないシーンでした(笑)。
「あり得ないでしょ(笑)」と心の中でツッコみながら観るのも楽しいですし、一定数の観客が観たいものをしっかりやってくれていると感じました。私がアクション映画の現場でまず考えるのって、誰も観たことがないものを作ろうということなんです。なので視聴者に「こんなアクション初めて観た」と思ってもらえたら、それは1つの成功なのかなって。映画の内容によってはそういうシーンが成立しないこともありますが、「シャドウ・イン・クラウド」には未知の生物であるグレムリンも出てきますし、無茶なアクションがギリギリ成立する世界観。あまりにあり得ないと冷めてしまうと思うので、制作陣のバランス感覚も優れているように感じました。
──クロエとグレムリンの肉弾戦も今作の見どころです。
クロエがフルボッコにするので爽快感がありましたね。対比として、周囲の男性が動かないのも1人の女性の強さを際立たせていました。そういえば、前半で嫌なやつだなあと感じたキャラクターは後々ちゃんと痛い目に遭っていて、そこもエンタメ映画としていいなと思った部分です。
──すっきりしますよね。監督のロザンヌ・リャンは「私たち皆が持っている驚くほどの度胸と強靭さ、そして内に秘めた力を解き放つきっかけを描いている」と映画について語っているのですが、そういったメッセージは感じましたか?
厳しい状況下に1人置かれたモードが力を解き放っていく姿を見て、私もがんばらないとという気持ちになりました(笑)。私はオンライン試写で観たのですが、映画館という閉鎖的な空間だとハラハラドキドキが増すと思うので、劇場でもう1回観たいと思います。
プロフィール
伊澤彩織(イザワサオリ)
1994年2月16日生まれ、埼玉県出身。スタントパフォーマーとして「キングダム」「るろうに剣心 最終章 The Final / The Beginning」「G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ」に参加し、女優としては「ある用務員」「ベイビーわるきゅーれ」に出演した。ロングラン上映となった「ベイビーわるきゅーれ」は続編の製作が決定している。