さとうほなみが語る「プロミシング・ヤング・ウーマン」|ゲスの極み乙女。のドラマー、ほな・いこかとしても活動する彼女が衝撃を受けた、甘く危険な復讐エンタテインメント

第93回アカデミー賞で脚本賞を受賞し、大きな話題を呼んだ「プロミシング・ヤング・ウーマン」が7月16日に全国で公開される。本作は、ある事件によって医大を中退した女性キャシーの姿を描く復讐エンタテインメント。「17歳の肖像」「ドライヴ」などで知られるキャリー・マリガンが主演を務め、「キャリア最高の演技」と絶賛された。

映画ナタリーでは、Netflix映画「彼女」で鮮烈な映画初主演を飾ったさとうほなみに、本作の感想をインタビュー。「鳥肌が立った」というラストに至るまでの緻密なストーリー展開や、「彼女」で演じた役柄との共通点について話を聞いた。

取材・文 / 山里夏生

最初と最後が1つの円になる映画

──まずは本作をご覧になった率直な感想をお聞かせください。

観終わって鳥肌が立ちました! アカデミー賞の脚本賞というのも納得だなと。最初は謎が多い始まり方だったので、キャシーがどうして男性に制裁を加えるのか、なぜそれを始めたのか、そもそも彼女の目的はなんなのかということがわからなかったんです。でも映画を観ていくうちにどんどん事情が明らかになっていって、最後まで観ると「あれはそういうことだったんだ!」と全部の行動がつながっていく。分単位で伏線を回収していくのが気持ちよくて、最初と最後がぐるっと1つの円になっている映画だなと思いました。

──最後まで観るともう1回観たくなりますね。本作ではキャシーのスリリングな復讐劇が進んでいく一方で、彼女のラブストーリーも並行して描かれます。そういったバランス感覚も新鮮な映画でした。

そうですね。ストーリーに関しては一番最初に素晴らしいと感じた部分なんですが、ポップな照明や音楽、衣装やメイクなどの色の使い方も効果的に魅力を放っているなと思いました。ラブストーリーが展開されるのかと思いきや、ガラッとイメージが変わるシーンがいくつもあって。例えばパリス・ヒルトンの曲が流れるハッピーな場面がある一方で、復讐相手の名前が出るとバッとダークな色に変わる。そういったイメージの切り替えがすごかったです。

──特に印象的なシーンはありますか?

今言った復讐相手の名前が初めて出るシーンです。それまでは大学時代の同級生ライアンと再会していい雰囲気になっていたのに、ある名前を聞いた途端にキャシーの表情がゆっくりと憎しみに変わっていくところが観ていてすごく怖くて。言葉で説明するのではなく、表情で「何かあるんだ」と思わせるキャリー・マリガンの演技も素晴らしかったです。

キャシーの目的は「確かめたい」という気持ちなのかも

──監督と脚本を担当したエメラルド・フェネルは「主人公は悪を退治するヒーローなんかじゃない」とキャシーが等身大の女性であることを語っています。キャシーはどのような女性に映りましたか?

キャシーは医大に通っていて夢もある優秀な女性だったじゃないですか。そこから過去の事件がきっかけで壊れてしまった人なんだなと。ライアンと出会って幸せを取り戻していきながらも、ずっとモヤモヤを抱え込んでいるという、その両方があるのがすごく人間らしいと思いました。ただ、ラストまで観たらどこからが計算でどこまでが本当の感情だったのかわからなくなったので、最後に混乱しましたね(笑)。

──Netflix映画「彼女」では、さとうさんは夫からDVを受けていた七恵という役を演じられていました。つらい過去によって壊れてしまった女性という点は、キャシーと共通するかもしれません。

はい。私が演じさせていただいた七恵も、幼少期からつらい経験をしてきた女性で。生きなきゃいけないけど、生きていたくないという葛藤をずっと抱えながら、自分を愛してくれる人がいたことでやっと薄い光が見えたような精神状態の人だったんです。人間ってつらいときでも、どうしても笑っちゃうようなことがあるじゃないですか。だから、暗い過去を持っていながらも、その中でいろんな感情が渦巻いている部分はキャシーと共通すると感じました。

──なるほど。

「プロミシング・ヤング・ウーマン」 ©2020 Focus Features, LLC.

あと、外から見ると何を考えているのかあまりわからないところは似ているかもしれないです。七恵には信頼できる人がいなかったので、甘え方がわからないんですね。だから人を試したり、だましてしまったりする。そう考えると本作でも、キャシーのミッションの目的は「確かめたい」という気持ちを原動力にしているのかもしれないと思いました。「お持ち帰りする男性はどうしてそうなってしまうのか?」「なぜ親友が死んでしまったのか?」ということを知りたいから行動しているのかなって。

──確かにそうかもしれません。キャシーを演じたキャリー・マリガンは「自分以外には演じられたくなかった」と発言するくらいこの役に思い入れがあったそうですが、彼女の演技についてはいかがでしたか?

今、自分以外には演じられたくなかったと聞いて、素晴らしいなと思いました。確かにキャシーを演じるのはキャリーしかいないと思わせる映画でしたよね……。演技で一番驚いたのは、親友のニーナが写真の中でしか登場しないところです。普通はこんなに仲がよかったという回想シーンがあると思うんですけど、2人が一緒にいるところは一度も出てこない。それなのに、キャシーの心の中にニーナがいるから、私たちにもいないはずのニーナがキャシーの近くに見えるんですよね。そのことに気付いたときは鳥肌が立ちましたし、キャシーのような魅力的な役は演じてみたいです!