「金子差入店」で“張り詰めた”丸山隆平を目の当たりにした(古川)
──古川さんはこれまでいろんなジャンル・規模の作品に関わってきて、今年「金子差入店」で映画の長編監督デビューを果たします。キャリアを振り返っていかがですか?
古川 “満を持して”ではあるんですが、だからこそ、このバジェット感や出演者も含めて「長編デビュー」という言葉がにわかに信じてもらえないような作品になったと思います。実際、オリジナル脚本での長編デビューで、全国ロードショーになること自体が相当稀有らしいので、そこに関しては自分が長年やってきたからかなと。今まで深夜の連ドラを何本も撮ってきていますが、テレビドラマと映画では立ち上げ方から違う。テレビは放送枠があるけど、映画はない。つまり僕の映画は別になくてもいいけれど、それを劇場の枠をこじあけて公開するわけです。今宣伝などで皆さんが一生懸命動いてくれているのを考えると、奇跡の連続だなと思います。
──丸山隆平(SUPER EIGHT)さんが主演を務めた「金子差入店」は、刑務所や拘置所に収容された人への差し入れを代行する差入屋・金子真司が主人公の物語です。古川さんが差入屋という仕事を知ったのは、過去に別作品の現場で実際にお店を見かけたからだとお聞きしました。
古川 あまり知られていなかった納棺師という職業をテーマにした「おくりびと」の着想はやっぱりすごいし、自分でも何か映画にできるような興味深い職業を見つけたいと思っていました。ある作品で拘置所の実景を撮りに行ったとき、近くに差入店があり、セッティング中に調べてすごく気になっていたんです。ただ、そこのお店は取材できなかったので、いろんなツテを使って弁護士や刑事の方にたくさん話を聞き、東京拘置所の刑務官の人には一般の人が入れないところも見せてもらいました。そういうことも含めれば何百人にも関わっていただいたので、感謝しかないですね。家の近所の喫茶店で、定年退職したおじいちゃん・おばあちゃんたちが世間話をしている横でせこせこ書き続けた作品が、250館を超える劇場で公開されるのは、連ドラを初めて監督したときともまた違う喜びがあります。
──差入屋の存在を知ってから映画が完成するまで11年とのことで、この作品には並々ならぬ思いを感じます。
古川 映画業界には“カリスマ助監督”と呼ばれる方が何人かいらっしゃるんですが、自分も10年ぐらい続けていると「このままそこに上り詰めていきたいのか?」と自問自答が始まるんです。考えた末に、誰に言われたわけでもないけれど“書くしかない”と思い、毎年長編の脚本を書いてきました。脚本は知っているプロデューサー全員に送り続けていたんですけど、最後と思って書いた「金子差入店」でやっと引っかかった。キャストに関しては、日曜劇場の「仰げば尊し」でご一緒した寺尾聰さんと北村匠海くんは最初から当て書きしていて、丸山さんはプライベートで出会っていたのがきっかけです。丸山さんは、20年以上アイドルとして活躍されていますけど、その前に1人の人間。今回の映画では、その40年分の年輪が出ていると思います。俳優としてというより“人間として”現場にいてくれましたし、カットがかかっても全然役が抜けないですからね。“金子真司”として24時間緊迫感がピンピンに張り詰めている方でした。
──本作は職業ものでありながら、中心となるのは家族の物語です。
古川 それは自分自身が家族を持ったことも影響しています。最終的にこの構成にしようと決めたのは、病院で長男を取り上げた瞬間。そこで完全にカチッと固まったんです。この子が大人になる前にもし僕が死んでしまったとしても、どういう人間だったのかがわかるよう自分の思想を盛り込んで作りました。正義や悪ってなんなのか、自分が正しいと思っている価値観がどれほど不安定なものなのか、そういった自分自身の揺らぎを反映させたすごく私的な話なんですけど、観る方によっていろんな感じ方をしていただけるかなと思います。
これ以上刺激のある仕事はないんじゃないか(花園)
古川 次の世代につなぐという意味では、Production Campもそうですよね。今回の「金子差入店」には映適(日本映画制作適正化機構)が入り、撮影は1日に休憩を入れて12時間まで、超えたら12時間以上空けるというルールのもと行っていました。僕が助監督3、4年目ぐらいのときは1週間まともに寝られなかったこともあるんですけど、それが正しかったとは思っていないです。これからの世代はそんなことがないようにちゃんと守られてほしいし、若い世代はその権利を適切に使って、みんながフィフティフィフティの業界になってほしいなと思っています。
──古川さんのキャリアや思いも踏まえて、花園さんと浅葱さんの今後の目標などあれば教えてください。
花園 私はもともと監督をやりたくて助監督になったわけではなく、助監督という仕事が面白いなと思って入りました。やっぱり私は、大変ですけど撮影現場が一番好きなので、どんどん自分のキャリアが上がっていくにつれて「この人がいればこの現場は安心だよね」と言ってもらえるような助監督に成長したいなと思っています。どんな作品も面白いですが、せっかくなら自分が普段率先して観ないような時代劇や医療ものなどにも挑戦したいです。
──短編制作研修のときも「大変そうだから」と助監督を選んでいましたが、自ら難しそうな道に進むのがかっこいいですよね。
花園 刺激が欲しいんですよ(笑)。これ以上刺激のある仕事はないんじゃないかと今は思っています。もちろんいい刺激も悪い刺激もありますけど、だからこそ成長できると思うし、新しい自分に出会えるのかなと。
──浅葱さんは大学に在学中ですが、助監督の仕事についてどう考えていますか?
浅葱 演出部の仕事はどこも人手が足りてないので、今もひっきりなしに連絡をいただくのですが、一度俯瞰して今の映画業界全体や、映画制作における問題、日本の映画業界の発展の歴史などに目を向けたく、勉強しているところです。でもお二人のお話を聞いたら、「やっぱ現場楽しいよな」とやりたくなりました……!
花園 とはいえ、現場で起こることの9割ぐらいはしんどいですが(笑)、1割ぐらいに出会ったときの高揚感ですよね。つらいことも多いからこその喜びや、いろんな人が関わって1つの作品ができていることを実感したときに「この仕事、面白いな」と思います。
対象となる人
これから映像業界を目指したい人、現場で活躍しながらほかの職種にも興味がある人
受講から現場デビューまでの流れ
これまでに映画プロデュース、美術、演出、衣装、制作などで映像作品に幅広く携わってきた会社dexiが、知識の習得だけでなく現場での動き方やルール、立ち振る舞いを身に付けることに主眼を置いたカリキュラムを監修。現役で活躍するプロフェッショナルが講師を務め、それぞれの経験をもとにオンライン講義を行う。
講師陣
- 映画プロデューサー
古賀俊輔
- セットデコレーター・プロダクションデザイナー
赤塚佳仁
- 撮影監督
ふじもと光明
- 映画監督
草場尚也
- ヘアメイク
高橋亮
- スタイリスト
森本裕治
ほか
基礎講座
映像制作プロセス基礎講座
現役の映画監督が映画業界や自身のキャリア、業界で求められる人物像などについて語る特別インタビューが視聴できる。講師を務めるのは、監督・脚本を担った「君の忘れ方」の公開を2025年1月に控え、マンガ「孤島の鬼(1)令和地獄編」の原作を手がけるなど活躍の場を広げる作道雄、齊藤なぎさ・鈴木伸之・飯豊まりえ・市原隼人が主演したオムニバス映画「夏の夜空と秋の夕日と冬の朝と春の風」や、2024年秋に公開予定の萩原聖人主演作「Cross my mind」の監督・向井宗敏ら。また、Instagramで人気の映像クリエイター・Kaito Iwashitaが映画監督に初挑戦する様子を、企画から撮影、編集までインタビュー、ドキュメンタリー形式で収録しており、映画制作の進め方や重要なポイントを学べる。
業界・職種基礎講座
映像制作の大まかな流れや、現場での役割とその仕事内容を学び、どの職種に合うのか・挑戦したいのかを理解する講座。
学べる内容
- 映像制作の流れと役割分担
- プロデューサーの仕事
- 演出部の仕事(監督・助監督・その他の役割)
- 制作部の仕事(仕事の概要と役割)
- 撮影部 / 録音部 / 照明部 / 美術部 / 持ち道具 / 衣装(スタイリスト) / メイク / 劇伴制作の仕事について
専門講座(演出 / 美術 / 制作)
演出コース
映像業界の中でも、特に助監督を目指す人に向けた専門講座
学べる内容
助監督目線での台本の読み方 / 撮影前日までにやっておくべきこと / 撮影当日の動き / 現場での段取り / サード助監督の立ち回り ほか
美術コース
美術・装飾を目指す人に向けた専門講座
学べる内容
持ち道具という仕事 / 台本の読み込み方 / 美術打ち合わせでの立ち振る舞い / クランクイン前・撮影時・撮影終了後の動き ほか
共通講座・制作コース
映像制作に関わるすべての人が“知っておかなければならないこと”を学べる講座
学べる内容
- 共通講座…制作進行の業務 / 基本的な業界用語の解説 / 台本の基本的な読み方 / 香盤表などの書類の読み方 / 衣装・美術打ち合わせについて / 現場でのNG行動 ほか
- 制作コース…制作進行の携行品とその使い方 / ロケ地の確保とやり方 / 配車の方法と基礎知識 ほか
※制作コースのみの受講は不可。専門講座(演出コース・美術コース)を受講することで、共通講座・制作コースの講座を視聴できる。
短編映画制作研修
約2週間の実地研修で、オンライン講座で学んだ知識をおさらいしながら、プロとともに短編映画の制作を経験できる“現場デビューの予行練習”。希望するセクションで、制作現場での実際の動き方を学ぶことができる。
※年4回の実施
受講料
- 制作プロセス基礎講座
税込3,000円→期間限定 無料トライアル実施中
- 業界・職種基礎講座
税込54,000円→期間限定特価 税込 9,500円
- 専門講座 演出コース
税込120,000円→期間限定特価 税込 19,500円
- 専門講座 美術コース
税込120,000円→オープン記念価格 税込19,500円
- 全62講座全てが受講できるフルセットプラン
税込237,000円→オープン記念価格 税込33,000円
- 短編映画制作研修(プリプロ・講座+撮影・講習費)
税込70,000円
※各講座・コースには制作プロセス基礎講座も付属。詳細は公式サイトへ
卒業後のサポート
・現場デビューを完全サポート
マナー講習と面談を経て、dexiが映像制作案件の紹介・人材マッチングまで行う。
・「Campers Caravan」
現場デビュー後も卒業生とプロのクリエイターたちがつながるコミュニティ。入会すると、案件の誘いや最新技術の情報交換、毎月開催される勉強会・ワークショップなどに参加できる。
「Production Camp」特集
- 映像制作者を養成する教育サービス「Production Camp」でできること
- 映像制作者の養成スクール「Production Camp」で“現場の即戦力”を育てる、映画プロデューサー・古賀俊輔×代表・伊藤正美インタビュー
※記事初出時より情報を追加しました