映画「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」 PR

「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」特集|エミール・クストリッツァ新作は真の豊かさ問うドキュメンタリー 志磨遼平レビュー&監督インタビューも

南米ウルグアイの第40代大統領ホセ・ムヒカをご存知だろうか。収入の大半を貧しい人々のために寄付し、職務の合間にトラクターで農業に勤しむ。自己犠牲をいとわず、質素な暮らしぶりから“世界で一番貧しい大統領”と称された政治家だ。

「アンダーグラウンド」「オン・ザ・ミルキー・ロード」などで知られる鬼才エミール・クストリッツァが、そんな彼に感銘を受け制作したドキュメンタリー「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」が3月27日より全国で順次公開される。

ドキュメンタリーではあるが、“愛と闘争”を背景とした本作は紛れもない“クストリッツァ映画”と言える。本特集ではイラストを交えてムヒカを紹介するほか、監督の大ファンである志磨遼平(ドレスコーズ)の寄稿を掲載。さらにクストリッツァ本人へのインタビューも実施した。

イラスト / 高橋将貴(P1) レビュー / 志磨遼平(P1) 文 / 金須晶子

ホセ・ムヒカ

壮絶な半生…ホセ・ムヒカってこんな人!

1935年、ウルグアイの首都モンテビデオ郊外に生まれたムヒカ。25歳のときにキューバでチェ・ゲバラの演説に感銘を受けた彼は、ウルグアイに戻ると左翼ゲリラ活動に身を投じる。逮捕の末、1971年には仲間100人との脱獄を成功させ、ギネスに記録されたことも……!

その後1972年に逮捕されると、翌年に軍部クーデターが勃発。ムヒカは人質となり49歳までの13年間を獄中で過ごした。解放後は議員となり、2010年にウルグアイ第40代大統領に就任。2012年に「国連持続可能な開発会議」でのスピーチをきっかけに全世界から注目を集め、ノーベル平和賞に2回ノミネートされる。大麻の売買と栽培を世界で初めて合法化するなど、画期的な政策にも取り組んだ。

世界のおじさん三番勝負!~VS世界でいちばんかわいい大統領~

まん丸なシルエットと優しい瞳。ムヒカはおそらく“世界でいちばんかわいい大統領”でもあったに違いない。そんな彼と同じく国際的に名を馳せる“おじさん”をここに並べてみたい。かわいいだけではない、彼の真髄が見えてくるかも?

イラスト / 高橋将貴

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ドナルド・トランプのイラスト。

世界でいちばん裕福な大統領 ドナルド・トランプ

ホセ・ムヒカのイラスト。

世界でいちばん貧しい大統領 ホセ・ムヒカ

国のリーダーは今よりよい暮らしを目指し政策を打ち出すものだが、“心の豊かさ”こそ国民から求められているのでは。経済的な事情だけで裕福さを測るのが困難であることを、ムヒカは身をもって全世界に証明した。
VS
ディエゴ・マラドーナのイラスト。

“南米の王者 ディエゴ・マラドーナ

ホセ・ムヒカのイラスト。

南米のボス ホセ・ムヒカ

サッカー元アルゼンチン代表のマラドーナは、南米ひいては世界の国々を圧倒してきたスター選手だ。かつてクストリッツァを魅了し、ドキュメンタリーを作るに至らせた彼の不屈の精神は、ムヒカにも確実に通じている。
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エミール・クストリッツァのイラスト。

世界中の映画好きから愛される監督 エミール・クストリッツァ

ホセ・ムヒカのイラスト。

国民から愛される本作の主役 ホセ・ムヒカ

ドキュメンタリーではあるが、クストリッツァ作品のファンなら本作を観てこう思うはず。「まさしくクストリッツァが撮った映画だ」と。それだけムヒカの精神性には、過去作の登場人物に連なるものがある。2人が肩を丸めてマテ茶を飲む光景は、まるで平和の象徴!
REVIEW

人生は哀しく、だからこそ美しい──
クストリッツァ作品に根差す哲学

文 / 志磨遼平(ドレスコーズ)

「黒猫・白猫」(1998年)を観て以来すっかりフアンとなり、ついにはロマ(ジプシー)音楽のアルバムまで作ってしまった。そんな僕が待ちに待ったクストリッツァの新作は、なんと「大統領」のドキュメンタリーである。いつもの彼の作品に登場する人々からは、最も離れた存在ではないか。

ところが現れたのは、野良仕事を終えたばかりのような風体の、どこにでもいる好々爺である。お世辞にも上品とは言えず、向かい合うクストリッツァの方がよっぽど貫禄がある。

「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」より、ホセ・ムヒカ。

この人が南米ウルグアイの第40代大統領ホセ・ムヒカで、70年代の軍事独裁政権の下、独房に13年近く収監されていた経歴を持つ。大きなお腹をゆらして笑う姿からはまるで想像できないが、かつては若きゲリラ戦士として工場や銀行を襲い、奪ったものは同志たちに分け与えていた。大統領となった現在も変わらず、月1000ドル強(約11万円)で生活し、残る収入は全て貧困層に寄付しているという。

「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」より、若き日のホセ・ムヒカ。

クストリッツァいわく、「世界でただ一人腐敗していない政治家」。朗々とタンゴを歌い、政治や闘争と同じまなざしで音楽を、詩を、花を、恋愛を語る。町に出れば人々から親しげに声をかけられ、時に額を突き合わせて熱く意見をぶつけ合う。

苦痛と逆境を味わったからこうなった、と彼は言う。失ったものがある人間にだけタンゴが愛せるようにだ、と。思わずため息がもれる台詞である。自分が暮らす国のエリート主義、縁故主義を恥じずにはいられない(同時に、僕を含む国民の政治的な未成熟さも)。

「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」より、妻のルシア・トポランスキー(左)とホセ・ムヒカ(右)。

《世界でいちばん貧しい大統領》ことホセ・ムヒカは、まさしくクストリッツァ映画にふさわしい主役である。ドキュメンタリーではあるものの、今作もやはり日々の祝福を映した美しい映画であることに変わりはない。作中に流れる音楽もいつもと同様、路上の歌声である。僕がクストリッツァ作品を愛してやまない理由もここにある。人生は哀しく、だからこそ美しい。カメラの前をたびたび横切る愛らしい家畜たち、それに比べて人間が与えられた生の、なんと可笑しなことよ!

どうかこの映画の熱狂的な民衆のように、この国土を愛せる未来が僕らにも訪れますよう。贅沢でなくとも、誇りをもってこのささやかな日々を生きてゆけますよう。

志磨遼平(シマリョウヘイ)
志磨遼平
1982年3月6日生まれ、和歌山県出身。音楽家・文筆家・俳優。2006年にバンド・毛皮のマリーズとしてデビューし、6枚のオリジナルアルバムを残して2011年に日本武道館公演をもって解散する。翌年に新たなバンド・ドレスコーズを結成し、映画「苦役列車」の主題歌になったシングル「Trash」でデビュー。現在はライブやレコーディングのたびにメンバーを入れ替える形で活動を続けている。俳優として映画「溺れるナイフ」「ホットギミック ガールミーツボーイ」、WOWOW「連続ドラマW グーグーだって猫である2」に出演。2018年に音楽監督を務めた舞台「三文オペラ」が上演された。2020年1月公開のアニメーション映画「音楽」の主題歌「ピーター・アイヴァース」が配信中。4月15日に自身初となるオールタイムベスト盤「ID10+(イディオット)」がリリースされる。同作のビジュアルは鋤田正義が撮影した。