映画ナタリー Power Push - 「何者」

就活は静かな戦争!? 6人の俳優が語る若者たちの“リアル”

山田孝之
山田孝之 @サワ先輩

オーディションでは自分も何十回も落とされた

──まず、脚本を読んだ際の感想を教えていただけますか?

今の世相をすごく反映した話だなと思いましたね。登場人物が実際の人付き合いでは表に出さない感情をSNSにバーッと書くところとか、若い人たちがどんな思いで就活に臨んでいるのかということが描かれていて。あと、拓人はいろんなことを冷静に分析できるのに、就活も恋もうまくいかないところが皮肉で面白いなと思いました。

──山田さんは十代から俳優として活動されていますが、就活についてはどんな印象を持たれましたか?

就活の経験はないですけど、僕らの場合、オーディションってものがあって、自分も過去に何十回も落とされたりしてます。そういうときって、「何がいけなかったんだろう」とかすごく考えるんですよ。「自分のよさを出したほうがいいんだろうな」「どうアピールしたらいいんだろうか」「自分はいいと思うけどこれって本当にいいところなんだろうか」とか……。でも、何十回と落とされるうちに、徐々に徐々にそういうことを考えなくなって。ありのままの自分でいて、相手の求めているものとピタッと合ったときはうまくいくし、ダメだったときは「今回は合わなかったんだ」と思えるようになりました。

──就活とオーディションには重なるところもあるんですね。

そうですね。全然違うもののように思えるけど、実は似ている部分があるんじゃないかと思いましたね。

自分で気付かないと人間は変われない

──山田さんから見て、サワ先輩という人はどういうキャラクターに見えましたか?

「何者」より。

サワ先輩は、拓人がどういう人間かということをよく知ってるんですよ。拓人が内心でどんなことを考えているのか、ほかのどの登場人物よりもわかってる。でも、拓人にあまりツッコんだりはしない。人から言われるんじゃなくて、自分で気付かないと人間は変われないということを知ってる。

──どのように役を作り上げていったんでしょう?

リハーサルのときに、(三浦大輔)監督が「説教臭い感じにはしたくない」とおっしゃっていたので、現場に入った当初はさらさらとセリフを言っていました。でも結局どんどん修正が入って、相手の目をしっかりと見て話したり、間もすごく取ったりするようになって。「結果的に説教臭くなっちゃってないかな」と思ったんですけど、できた作品を観てみたらそんなことはなかった。それは、僕と(佐藤)健の関係性のおかげかもしれないし、監督が何度もテイクを重ねて、いいさじ加減を作ってくれたからかな。

──三浦監督がかなりテイクを重ねることについては、以前からご存知だったそうですね。

聞いてはいましたけど、想像をはるかに超えてました。しかも、細かく刻んでテイクを重ねていくんだったらともかく、シーン丸ごとだったりするんですよ。特に光太郎は動きも多くてよくしゃべる役だから、菅田(将暉)くんは大変そうでしたね。

「みんなも不安なんだ」と気付いたことが団結につながった

──リハーサルはどのような雰囲気だったんでしょうか?

山田孝之

監督は「リハーサルなんで、今日は軽い感じで」って言うんですけど、実際に始まると何回も何回もやり直すんですよ(笑)。で、「いやここはもうちょっとこういう感じで、あそこはこういう感じで」と細かく指示が入る。「全然軽くねえじゃん」みたいな(笑)。でもそのおかげで、「これは相当時間がかかるな」っていう心構えがみんなの中にできたと思います。あと、現場に入って、メイクをしたり衣装を着たりすると少しずつ自分が役に入っていくし、自信も持てるんですけど、今回やったようなリハーサルではそういうお膳立てがまったくないわけです。ノーメイクで、私服で、ただの会議室のような場所で演じるとなると、自分を助けてくれるものが何もない。でもそんな状況に置かれてみると、お互いの不安がよく見えたりもする。「あ、みんなも不安なんだな」と気付くことが、団結につながったんじゃないかな。

──キャリアのある山田さんでも不安になることがあるんですね。ちなみに、佐藤さんは山田さんについて「達観している、“仙人”みたいな人」とおっしゃっているんですけど。

(笑)

──山田さんが演じたサワ先輩も「達観系先輩男子」という役柄ですよね。映画を観ていると、サワ先輩と山田さんご本人のイメージが重なったんです。ご自分ではどう思われますか?

近いと思いますよ。でも僕は、サワ先輩よりもうちょっとしゃべると思いますね。あそこまで相手に考えさせてあげたりするほど優しくないかも。僕ならもっと、思っていることをハッキリ言っちゃいます(笑)。

僕は「外回り行く」とか言って遊んでそう

──この作品の中には“想像力”という重要なキーワードが出てきますが、山田さんはこの言葉をどう捉えましたか?

相手の立場に立って自分を見てみるっていうことですかね。それは自分が人からどう見られてるかを気にするという意味ではなくて。拓人は「どうせお前らは……」って、自分の主観だけで考えてるじゃないですか。そうじゃなくて、例えば就活なら「この企業はどういう人材が欲しいんだろう」と具体的に分析して、相手が何を求めているか知ろうとしなきゃいけない。そのためには、相手の立場に立ってみないと。それが想像力ってことなんじゃないですかね。

──拓人がなかなか採用されない原因も、そのあたりにあるのかもしれませんね。

山田孝之

拓人って、見てると「この人、本当に就職したいのかな」って思っちゃうんですよ。変な余裕とかあきらめが透けて見えるから、面接官の心にも響かないんじゃないですか? あれは採用されないですよ(笑)。光太郎みたいなタイプは、入ったときはそんなに使えないだろうけど人脈作りはうまそうだし、「1年か2年やればこいつは使えるかもな」って思われるんじゃないですかね。でも拓人はいつ辞めるかもわからないような感じだし、そもそも「こいつ言うこと聞くかな?」っていう。「いや、それはわかるんですけど」とか、何かと反論してきたりして扱いづらそうですね。

──よく分析されていますね。そんな山田さんから見て、キャスト6人の中で一番就活が得意そうな方ってどなただと思いますか?

うーん、僕も普通の企業に就職したことないからなあ……しかも今から就活するとしたら、ですよね? 僕と健はまず無理だと思うんですよ(笑)。

──(笑)。なぜですか?

健はやっぱ扱いづらい空気がすごく出てるから(笑)。こいつ絶対言うこと聞かねえだろうな、みたいな。僕の場合は、「外回り行く」とか言ってどっかで遊んでそうだし(笑)。

「何者」2016年10月15日より公開

「何者」2016年10月15日より公開

かつて演劇サークルに所属し、脚本の執筆や芝居に熱中していた大学生・拓人。今ではリクルートスーツに身を包み、ルームメイトの光太郎とともに就職活動に本腰を入れようとしている。拓人は光太郎の恋人だった瑞月に思いを寄せているが、彼女はいまだ光太郎に未練があるようだ。ある日、自分たちが暮らす部屋の上階に瑞月の友人・理香が住んでいることを知った拓人と光太郎。彼らは理香の提案で、就活の情報交換のため彼女の部屋に集まるようになる。理香の就活のやり方や、彼女と同棲中の恋人・隆良の就活生を見下すような態度に違和感を覚えつつ、拓人はままならない現実に次第に焦りを感じるように。そんな日々の中で、ついに仲間内から1人目の内定者が現れて……。

スタッフ

監督・脚本:三浦大輔
原作:朝井リョウ「何者」(新潮文庫刊)
音楽:中田ヤスタカ
主題歌:中田ヤスタカ「NANIMONO(feat.米津玄師)」

キャスト

二宮拓人:佐藤健
田名部瑞月:有村架純
小早川理香:二階堂ふみ
神谷光太郎:菅田将暉
宮本隆良:岡田将生
サワ先輩:山田孝之

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山田孝之(ヤマダタカユキ)

1983年10月20日生まれ、鹿児島県出身。1999年放送のドラマ「サイコメトラーEIJI2」で俳優デビュー。「電車男」「鴨川ホルモー」「凶悪」など幅広いジャンルの映画で主演を務める。2016年には「信長協奏曲」「テラフォーマーズ」「闇金ウシジマくん Part3」が公開。10月22日に「闇金ウシジマくん ザ・ファイナル」が封切られる。