「怪盗クイーンはサーカスがお好き」作者・はやみねかおる × QuizKnock山本祥彰インタビュー | “憧れ”のミステリー作家とクイズプレイヤーが対談

「名探偵夢水清志郎事件ノート」「都会のトム&ソーヤ」シリーズで知られる児童文学作家・はやみねかおる著作の長編アニメーション「怪盗クイーンはサーカスがお好き」が、6月17日に全国で公開される。性別・年齢・国籍不明の大怪盗クイーン。はやみねが2002年に発表した「怪盗クイーンはサーカスがお好き」以降、15巻を数える人気シリーズとなり、累計発行部数は120万部を突破している。記念すべき20周年を迎えた今年、劇場作品としてアニメ化された。

映画ナタリーは、はやみね作品のファンであるQuizKnock・山本祥彰に本人との対談をオファー。憧れのはやみねに対して当初は緊張気味だった山本だが、「ミステリー」と「クイズ・謎解き」というジャンルでそれぞれ活動する2人は徐々に共通点を見出していく。終盤には山本からはやみねへ、ファンならではの質問もぶつけた。

取材・文 / 金須晶子

最初に読んだのは「そして五人がいなくなる」(山本)

──「怪盗クイーンはサーカスがお好き」の公開にあたり、山本さんがはやみねさんのファンということでお声掛けさせていただきました!

山本祥彰 本当にずっと大ファンです。小学生の頃ははやみねさんの作品をよく読んで、小説家にも憧れていました。本日は光栄です。

はやみねかおる ありがとうございます。よろしくお願いします。

はやみねかおる

はやみねかおる

山本祥彰

山本祥彰

──最初にはやみねさんの本を手に取ったきっかけは?

山本 はっきり覚えていないんですけど、最初に読んだのは「そして五人がいなくなる」でした。青い鳥文庫のコーナーでタイトルに心惹かれたんだと思います。

──“自称・名探偵”の男と三つ子の姉妹が活躍する「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズの1作目ですね。

山本 「夢水清志郎」シリーズは当時出ていた作品を全部読んだくらいに好きで。そんなに本を読むタイプの子供じゃなかったんですけどハマりました。ミステリーもそれまでほぼ読んだことなかったから、初めての出会いにワクワクしたのを覚えています。

「そして五人がいなくなる」書影

「そして五人がいなくなる」書影

──特にお気に入りだった作品はありますか?

山本 「機巧館(からくりやかた)のかぞえ唄(名探偵夢水清志郎事件ノート)」ですね。難解と言われていますけど、読み終わったあともまだ小説の中にいるんじゃないかみたいな、幻想的でふわふわ漂うような余韻がありました。キャラクターだと印象的なのは三つ子の長女、亜衣ちゃん。夢水に振り回されるのが面白くて。「夢水清志郎」シリーズはセリフの掛け合いも好きでした。

はやみね うれしいですね、こんなに話していただけて。

──今回の「怪盗クイーン」には、ほかのシリーズのファンも注目してほしい要素があるのですが……お気付きになりましたか?

山本 はい。いろいろな思い出深いキャラクターが「あ、いる!」と思いながら観ていました(笑)。はやみね先生の作品はセルフパロディがあったりしますが、映画でもその雰囲気を感じられてよかったです。

──はやみねさんの作品を読んでミステリーにハマったり、小説家に憧れたりした子供は数知れないと思いますが、やはり山本さんも思い入れが深いようですね。

はやみね そう言ってもらえるのは本当にうれしいですよ。たまにファンの方が自分で書いた原稿を送ってくださるんやけど、みんな僕が昔書いたものよりレベルが高い(笑)。だから安心して書き続けてほしいなと思いますね。

こんなにかっこようしてもろて、すみません!(はやみね)

──ここからは映画「怪盗クイーンはサーカスがお好き」の話をお伺いしていきます。作品をご覧になっていかがでしたか?

はやみね まず、今までもアニメ化の企画はあることにはあったんです。やけど途中でなくなっていくことの繰り返しで。今回も「アニメ化します」と聞いて、はいそうですかと返事しつつ、またなくなるかもしれないと。「夢水清志郎」もこれまでアニメ化の話が2回あったんですけど結局なくなったので、期待してもがっかりするだけと常に思うとったんです。そうするうちに脚本ができた、アフレコが始まったと進んで、ほんまに……?と思い始めて。この間の試写会(参照:「怪盗クイーン」大和悠河“性別・年齢不明”の役で初声優に手応え、原作者も太鼓判)で完成した作品を観て、ようやく実感が湧きました(笑)。やったー!ですよ。

「怪盗クイーンはサーカスがお好き」より、怪盗クイーン(手前)と相棒ジョーカー(奥)。

「怪盗クイーンはサーカスがお好き」より、怪盗クイーン(手前)と相棒ジョーカー(奥)。

──原作者として映像化には前向きなんですね。

はやみね なんせ自分が観たいですから。全部にOK出してます。と言っても映像にするのが難しい作品ばかりだと思うので、こんなに素晴らしい作品にしていただけてほんまにありがたいです。たったの1時間(の尺)でよくこれだけ濃密に物語をまとめてくださったと──。

山本 僕も本当にあっという間の1時間でした。こちらに絶妙な違和感を抱かせながら、謎が解ける瞬間までハラハラとワクワクがずっと続いていました。

はやみね あと僕は「すみません!」って気持ちも大きかった。「こんなにかっこようしてもろて、すみません!」っていう。アニメをきっかけに原作も読んでみようと思う子供らがおったら「ごめんな、かっこよさはアニメのほうで存分に味わってな」と言いたいです。

山本 そんなことないです!(笑)

「怪盗クイーンはサーカスがお好き」

「怪盗クイーンはサーカスがお好き」

──(笑)。確かにオープニングの演出なんかは音楽やナレーションも相まって、“怪盗もの”としての風格が漂っていてかっこよかったです。そのようなアニメーションならではのよさを感じられたシーンはありますか?

山本 それこそクイーンたちが怪盗として現れるシーンは、セリフがなくても音楽や映像でかっこよさが表現されていてワクワクしました。

はやみね そういう動きのあるシーンは特に見応えありましたよね。自分はいつも頭の中に文字が浮かんでくるけど、自分の文章力じゃ表現しきれない、本来はこういう場面だったんやというのを映像で見せてもらえました。試写会のあと、サーカスのシーンどんなふうに書いとったっけと思って原作を読み返したんです。そうしたら、たった1、2行しか書いてないのに素敵な映像にしてくれたんや!とうれしさが増しました。ちなみにアニメのノベライズを浜崎達也さんが書いてくださってて、そっちのほうが原作よりサーカスの描写がはるかに上手です(笑)。