「マーメイド・イン・パリ」マリリン・リマ インタビュー|恋を知らない人魚と恋心を捨てた男が惹かれ合う──ビターな大人のおとぎ話

「マーメイド・イン・パリ」の魅力を紐解く3つのポイント

Point.1

キュートでビターな大人のおとぎ話

恋を知らない人魚と恋心を捨てた男が惹かれ合う──。たった1行のあらすじで何やら素敵な恋愛映画の予感がする……と思った方は、その予感にしたがってみてはいかがだろうか?

物語の誕生地は「美女と野獣」「アメリ」など忘れがたい恋物語を生み出してきたフランス。「恋する気持ちに免疫がついてしまった登場人物が頭にあった」と語る監督のマチアス・マルジウは、2016年にパリで起こった洪水をきっかけにただ1人生き残った人魚の恋を着想する。

ヒロインはその美しい歌声で男性を虜にし、心臓を破裂させることで命を奪ってきたルラ。彼女と恋に落ちるのは、失恋で恋心を捨て去り“死の歌”がまったく効かないガスパールだ。

ともに歌うことで次第に距離を縮める2人。恋する楽しさがまるで絵本のような映像とともに切り取られていく。しかし、ガスパールの心臓が次第に痛み始めることで命がけの恋に。描かれるのは、恋の楽しさと激痛──大人が浸ることのできるおとぎ話になっている。2人の恋の行方に注目を。

「マーメイド・イン・パリ」
「マーメイド・イン・パリ」

Point.2

幻想的な物語を作り上げた才能

ストップモーションアニメ映画「ジャック&クロックハート 鳩時計の心臓をもつ少年」を手がけたことで知られる監督のマルジウ。フランスのティム・バートンとも称される彼は、映画制作だけでなく、小説家、音楽家としても活躍するマルチな才能の持ち主だ。そんな彼が手がけた本作は愛らしいストップモーションアニメで幕開け。そこからローラースケートで駆け抜ける生身のガスパールが飛び出し、冒頭から彼の世界観を存分に堪能できる。

老舗のバーで“サプライザー”として働くガスパールに扮したのは第64回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した「パリ警視庁:未成年保護特別部隊」や「ダリダ~あまい囁き~」に出演し、「Je Ne Suis Pas Un Salaud(原題)」でセザール賞の主演男優賞にノミネートされたニコラ・デュヴォシェル。大人の色気漂う彼がアヒル人形に囲まれたバスタブで絵本を読む様子や、傷付いたルラに献身的に尽くす姿にクラッとくる人も少なくないだろう。デュヴォシェルは「役作りのためにマチアスとはたくさん話をした。2カ月間24時間一緒にいて、彼を観察したんだ。ガスパールに投影されている部分がたくさんあるからね」と振り返る。

対するルラをチャーミングに演じたのは「青い欲動」でスクリーンデビューを果たしたマリリン・リマ。初めての恋に飛び込み変化していくルラの姿は本作の見どころの1つ。フランスの才能が織りなす恋物語をぜひ見届けてほしい。

Point.3

詩的な物語を彩る音楽と美術

飛び出す絵本、パリの夜を駆け抜けるトゥクトゥク、キスしたくなるハンバーガー、誰もいない深夜の水族館──。至るところにちりばめられたマルジウのこだわりが、詩的な物語を彩る本作。特に注目してほしいのは音楽と美術だ。

ガスパールのバスルームは緑を、2人の恋の手助けをするロッシ(ロッシ・デ・パルマ)のバスルームはピンクを基調に作られた。部屋の隅に置かれたおもちゃや小物など遊び心は随所に。マルジウは「ガスパールとサプライザーの精神を映し出す魔法世界に浸りたかった。多くのシーンが浴室のシーンなので、アパートの真ん中に浴室を置くことにしたんだ」と狙いを明かす。

また本作のサウンドトラックを手がけたのはマルジウ率いるバンド・ディオニソス。劇中ではデュヴォシェルとリマが、ガスパールとルラの心情を歌に乗せ表現している。リマは「監督の夢と幻想、そして人生が溶け合う世界に完全に身を委ねたわ。彼は繊細さに愛とヒューマン、音楽を混ぜたの」とコメント。“目でも耳でも楽しい”詩的な世界に浸っていただきたい。

「マーメイド・イン・パリ」