映画ナタリー Power Push - 「MAX THE MOVIE」

大の大人が真面目に作り上げたギャグ満載のアクション映画

むらいさんのシャウトは、ジェームズ・ブラウンを凌駕している(中野)

──むらいさんは初めての映画出演になるわけですが、演技や役作りはすんなりできましたか?

左から中野裕之、マックスむらい、山口雄大、鹿角剛。

むらい 雄大監督は映画をガンガン撮られているわけじゃないですか。それに比べたら、当然ですけど私を筆頭にAppBankの社員なんて演技や映画に関しては素人ばかりなわけです。YouTube動画でカメラ慣れはしているけど、役者じゃない。だからなのか、準備された台本はセリフを極力しゃべらなくてもいいものになっていました(笑)。

山口 中野監督にそうしろって言われたんですよ。全編にわたって、怒鳴っているか、無口でいるかにしてくれって。

中野 言いました(笑)。

山口 確かに、撮影に入る前はセリフの少ない台本を作っていたんです。でもみんなでリハーサルを始めたら、意外とできるんですよ。やっぱりカメラ慣れしているのもあるし、YouTubeの動画は当然だけどアドリブなわけじゃないですか。与えたセリフをどういうふうにしゃべるのかなと心配していたところもあったけど、意外とイケる。これなら現場でむらいさんに預けられるなと思いましたね。

──アクションやスタントの数々も、むらいさん自身が体を張っていますよね。

山口 けっこうできるんですよ。アクション監督をやった匠馬敏郎も「意外とできますよね」と驚いてた。アクションの立ち回りの覚えが早くて感心しました。

むらい ありがとうございます! 現場でも、1シーンを撮り終えるたびにこうやって褒めて伸ばしてくれました(笑)。

──むらいさんと匠馬さんが屋上と校舎の壁面を超スローモーションで走りながら戦うところも、ギャグたっぷりだけど迫力満点でした。

鹿角 あれは180コマで撮った本気のハイスピード撮影なんです。校舎の壁を垂直に下りながら戦うところは、実際に1カットで撮っています。

山口 ここも手数と立ち回りをむらいさんが完璧に憶えているんですよ。これまでにも同じような場面を撮ってきましたけど、そこまでできる人ってなかなかいない。

──むらいさんの発声も渋くていいんですよね。

中野 むらいさんが4秒半くらい「ワッチャー」と絶叫するシーンがあるんですけど、そこのシャウトは、ジェームズ・ブラウンを凌駕しているなと思いました。

むらい 4秒半も絶叫している場面なんてありましたっけ?

中野裕之

中野 あるんですよ、ファンキーに吠えているところが。僕はとにかくファンキーなものが観たかったんですよ。それがもっともよく出ているのが、そこなんです。

山口 普通の役者さんはなかなかしないですよ。シャウトに関しては、撮影前にむらいさんにブルース・リーの作品を観てもらいました。彼の怪鳥音をやってほしかったから。だけど、むらいさんはブルース・リーを知らなくって「怪鳥音って、なんですか?」って(笑)。さらに言うと、シャウトして倒れ込むのは「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のフュリオサが泣き崩れるシーンのパロディなんですけど、それもむらいさんは知らなかったというね。

むらい あそこ、なんかのパロディなの?

3部作にして劇場公開したいし、カンヌにも行きたい(むらい)

──お話を聞いていると、むらいさんは俳優業を満喫されたようですね。

むらい 面白かったっす。撮影の6日間は本当に楽しかった。普段、こういうふうに映像を撮ることがないですから。

山口 むらいさんに、主役は出ずっぱりで1日中休む暇なんてないし、本当に大変だから準備してきてくださいねって、口酸っぱく言っていたんです。そうしたら、ちゃんとトレーニングしてくれていて。

むらい 自主的に5kg痩せました。

山口 撮影現場でAppBankのメンバーがメイキングを撮っていて、むらいさんがいつもの調子で歯切れよくしゃべっていたんですよ。でも、4日目くらいから口数が減ってきて、ぱっと見るとグタ~となっていた(笑)。

むらい しんどかったですね。2日目の昼間に外で撮影していたときが、一番しんどかった。暑かったんですよ。途中で意識を失う感じで寝ちゃって、学校に置いてあったマットでそのままバタンって。あのときはもうだめでしたね。

山口雄大

山口 だけど、撮影後半に進むにつれて精かんに、役者っぽくなっていった。やっぱりなるものなんだなって思いましたよ。役者意識が芽生えてきたんじゃないですか。実際、編集をしていて芝居が駄目だからここを切ろうみたいなことも一切なかったです。スタッフも撮影が進むごとにみんな感動していたんですよ。最終的には誰もが「むらいさん、カッコいいね」とか言い出して毒に冒されたみたいになっちゃって(笑)。今後もまったく関係ない映画に普通にキャスティングしたいですもん。

──今回の作品は、企画の発端から発表の仕方まで新しい映画のあり方を示したような部分もありますね。

山口 僕らが映像を作っても、テレビで放送したり、映画館で上映したり、DVDで売ったりというパターンしかなかった。そうなると、おのずとヒットするかしないかが重要になる。でも作り手からすると、多くの人に観てもらうのが一番いいわけですよ。そう考えると今回のやり方って、YouTubeで人気のむらいチャンネルで配信するということもあるけど、50万人とか100万人は観てくれる可能性が出てくる。映画館やテレビでそれだけの人に観てもらうのは大変なことですから。むらいさんがいたからやれたことですけど、僕らみたいな人間にとっては新しい試みだし、今後こういう映像の魅せ方もあるっていう流れに世間がなっていくと面白くなると思います。

むらい 海外でもYouTuberが映像を撮ったり、Netflixのようなプラットフォームでオリジナル作品を制作するのが当たり前になってきたけど、法人でやっているとはいえ、YouTubeの1チャンネルの運営者が何千万円もかけて数十分の映像を撮る意味がわからないという声も実際にありました。でも、これはインターネット動画に対して、私たちがどれだけできるかという挑戦なんです。冗談抜きで3部作にして劇場公開したいし、こんなこと言うと怒られるかもしれないけどカンヌにも行きたい。

山口 カンヌに行きたいなら、別のものを撮りましょうよ。これじゃ絶対に行けないんで(笑)。

左から中野裕之、マックスむらい、山口雄大、鹿角剛。

「MAX THE MOVIE」現在YouTubeにて配信中

YouTube マックスむらいチャンネル

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016 2⽉25⽇(⽊)23:00より上映

「MAX THE MOVIE」

舞台は20XX年。村井トモタケはある探しものを求めて、新宿区立最高(もりたか)高等学校を訪れる。そこで彼はタブレットの中で伝説の救世主の出現を待ち続けていたというAIマミルトンと出会う。マミルトン曰く、校庭の地中深くには、世界征服を狙う電脳の神“エニアック”とその腹心に戦いを挑み、破れ散っていった勇者たちの亡骸が眠っているという。そこに姿を現したエニアック。村井は運命に導かれるようにエニアックとの戦いに身を投じていく。

スタッフ

監督・脚本:山口雄大

脚本:小林弘利、おおかわら

VFXスーパーバイザー:鹿角剛

製作総指揮:中野裕之

キャスト

村井トモタケ:マックスむらい

AIマミルトン:マミルトン

歌う生徒会長・まお:スプリングまお

優等生・高橋くん:あいたかはしくん

舎弟・バイヤー:楯雅平

坂口:匠馬敏郎

スケバン:坂口茉琴

ツッコミ:おおかわら(鬼ヶ島)

クソムシ:アイアム野田(鬼ヶ島)

フランケン:川井洋平(あっぱれ!)

君沢:君沢ユウキ

近未来の青年:新里宏太

神宿:一ノ瀬みか・羽島めい・羽島みき・関口なほ・小山ひな(神宿)

エニアック:GACKT

ナレーション:ゴー☆ジャス

マックスむらい

1984年生まれ、石川県出身。Apple社製品を主とするレビュー総合サイト「AppBank.net」を運営するAppBankの取締役にして、歌手や動画配信番組のメインパーソナリティ、自伝本の執筆など幅広く活動している実業家。動画共有サイトYouTube上でゲーム実況を配信する“YouTuber”として高い人気を誇る。2016年2月22日現在、YouTube公式チャンネルの登録者数は145万人を超えている。

山口雄大(ヤマグチユウダイ)

1971年生まれ、東京都出身。旧・日本映画学校を卒業後、2003年に「地獄甲子園」にて長編映画デビュー。同作でゆうばり国際ファンタスティック映画祭2003のヤングコンペ部門グランプリを獲得する。その後も「魁!!クロマティ高校 THE★MOVIE」「漫☆画太郎SHOW ババアゾーン(他)」を手がけ、「アブダクティ」では第31回ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭 SILVER RAVEN(準グランプリ)を受賞した。2月27日には漫☆画太郎原作の「珍遊記」の公開を控えている。

鹿角剛(カヅノツヨシ)

1966年生まれ、秋田県出身。VFX制作会社スタジオ・バックホーンの代表取締役。東京デザイナー学院卒業後、オプチカル合成会社デン・フィルム・エフェクトに入社。その後、ゲームのCGディレクターなどを経て、2004年にスタジオ・バックホーンを設立する。ドラマやCM、映画など数多くの作品に携わる。2月27日公開の「珍遊記」にもVFXスーパーバイザーとして参加。

中野裕之(ナカノヒロユキ)

1958年生まれ、広島県出身。テレビ局勤務を経て、ミュージックビデオ制作会社を設立。国内外のアーティストのミュージックビデオ制作に従事する。1998年には「SF サムライ・フィクション」で劇場用映画デビュー。同作で第2回プチョン国際ファンタスティック映画祭グランプリを獲得する。さらに2006年には短編映画「アイロン」でカンヌ国際映画祭の批評家週間部門/ヤング批評家賞を受賞するなど、映画、ミュージッククリップ、CMなど多岐にわたる映像作品の制作に携わっている。