ライムスター宇多丸が語る「LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族」「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」|感じた“総決算の気合い”、興奮したファイトシーン (2/2)

「銭形と2人のルパン」は列車でのルパンと銭形のファイトシーンがカッコいい

──「LUPIN THE IIIRD」シリーズ4作の中で、特にお好きだった作品は?

一番グッときたのは、「銭形と2人のルパン」。特に列車でのルパンと銭形のファイトシーンは「007/ロシアより愛をこめて」(監督 テレンス・ヤング / 1963年)のオマージュでしょうし、ルパンがフットワークをキメるときのぬるっとした画の動かし方がめちゃめちゃカッコよくて、「これだよこれ!」という感じ。冷戦下のソビエトを思わせる背景も、リアルと荒唐無稽のすり合わせがちょうどいいバランスだし、何より、地味でシブい話なのがいい。そこはもちろん、派手な「不死身の血族」がその次に控えていたからでしょうけど、僕は以前から「ルパンは地味な話ももっとやればいいのに」と思っていたので。偽ルパンも、本物のルパンと紙一重の存在というか、もう1つの可能性としてのルパンとして、ちゃんと不愉快なキャラクターとして描かれていた。ルパンと言えば変装のマスクをベロンと剥がすのがお約束だけど、偽ルパンの顔は“剥がそうとしても剥げない”という描写があったのも興味深かった。小池監督は、ためるだけためてバシッとキメる、みたいなのが巧い。ちゃんと今のエンタメになっているし、「ジョン・ウィック」なんかを見慣れた若い映画ファンにも新鮮に映るんじゃないでしょうか。

「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」より、列車で格闘を繰り広げる銭形警部(左)とルパン三世(右)

「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」より、列車で格闘を繰り広げる銭形警部(左)とルパン三世(右)

「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」より、ルパン三世(左)、偽ルパン(下)、銭形警部(右)

「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」より、ルパン三世(左)、偽ルパン(下)、銭形警部(右)

ルパンが今までにないぐらい本気でおびえる、悪夢的な物語

──「不死身の血族」は、どうご覧になりましたか?

「不死身の血族」には「ルパンVS複製人間」の敵、マモーが登場します。その存在は「次元大介の墓標」のラストから振られていたわけですが、小池監督が「カリオストロの城」ではなく、「ルパンVS複製人間」につなげるあたりも、「俺のルパンの王道はこっちなんだ」という思いが伝わってきましたね。実際「ルパンVS複製人間」につなげるって、かなりハードルが高い話なんだけど、映画の冒頭でちゃんと説明を付けてくれていたし、シリーズの総決算みたいな気合いも感じられて。物語としてはちょっと悪夢的というか、集団で島に落っこちてサバイバルしていくという「プレデター」(監督 ジョン・マクティアナン / 1987年)みたいな話なんだけど、抽象空間みたいな描写もあって、ちょっと不思議な話ですね。

「LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族」より。右からルパン三世、島の支配者・ムオム、ムオムに仕える少女・サリファ

「LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族」より。右からルパン三世、島の支配者・ムオム、ムオムに仕える少女・サリファ

──島の設定は、「ドクター・モローの島」(監督 ドン・テイラー / 1977年)から着想を得ているそうです。

確かに! 過去作のヴィランの再登板もありますし、すべて引っくるめるためには、これくらいブッ飛んだ設定が必要だったのかも。島全体が毒素で覆われているという設定然り、マモーの巨大化版みたいなムオムという宿敵然り、もう、この物語そのものが一服盛られて見たマインドコントロール的な夢だったのでは?というくらい、全体が悪夢っぽくて。

──ああ、なるほど。

しかも、小池ルパンの傾向かもしれないけど、最後のほうに進むにつれて、ちょっと内省的な話になるじゃないですか。普段のルパンは人前で絶対にあんな顔を見せないのに、今までにないぐらい本気でおびえているのも印象的で。「ルパンVS複製人間」のルパンが、「マモーは本当に神なのか?」と一瞬おびえてしまった描写に近い。それこそ「ルパンVS複製人間」の劇中、マモーがルパンの深層心理をのぞいて「無意識がない」と驚きますが、ルパンはもしかするとこの「不死身の血族」での恐怖を克服して、ルパンなりの精神的なガードを習得したことによって、「ルパンVS複製人間」の境地までたどり着いたのかもしれない。ひょっとしたら、小池監督もそこまでの理屈を考えてこういう話にしたのかもしれないなって。どれだけ荒唐無稽でも、物語の中での合理的説明があって、謎を暴いていく痛快さもルパンシリーズの特長。今回も終盤に「最初から変だと思ってたぜ」みたいな説明で島の謎を解明していくのも、すごくルパンらしかった。

「LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族」より、“ゴミ人間“のルウオ(左)とルパン三世(右)

「LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族」より、“ゴミ人間“のルウオ(左)とルパン三世(右)

──そうですね。

かなり不思議な物語だけど、「ルパンVS複製人間」への振りと考えればアリだなと思いました。まあ、正直、「ルパンVS複製人間」より、「不死身の血族」に出てくるテクノロジーのほうがすごいような気もするけど(笑)。あと、銭形が思いっきり“キャラ変”しちゃってますけど(笑)。

──確かに(笑)。「LUPIN THE IIIRD」シリーズの銭形はあんなにハードボイルドなのに。

「ルパンVS複製人間」の銭形は、ラストシーンで三波春夫の「ルパン音頭」をバックにルパンとお手々つないで走っちゃいますからね(笑)。神をかたるマモーをルパンの合理主義が上回ったうえで迎えたあのエンディングは本当に完璧だったけど、いったい、「不死身の血族」と「ルパンVS複製人間」の間で銭形に何があったんだ!?っていうね(笑)。まあ、小池監督としては、「そういうのはファンの中で補正して観てくれよ」ということだと思いますけど。そういう整合性を確認して楽しむ観点からも、「不死身の血族」を観たら「ルパンVS複製人間」も改めて観たくなりますね。

小池監督、「ルパンVS複製人間」のリメイクはいかがでしょうか!?

──小池監督は、「LUPIN THE IIIRD」シリーズは今回の映画で完結と公言されています。

あ、でもこれ、今話しながら思い付いたけど、いっそ小池ルパンで「ルパンVS複製人間」をリメイクすれば完璧なんじゃないですか?

──おお! それは大胆な提言ですね。

映画の興収如何(いかん)では可能性もゼロではないんじゃないかな。もちろんオリジナルにはオリジナルのよさがあるから、「スター・ウォーズ」のジョージ・ルーカスみたいに元をいじっちゃうのはどうかと思うけど、リメイクならアリじゃないかな。「不死身の血族」はドカーンとしたカタルシスで終わる話じゃないし、ラスボス(マモー)はまだ生きてるじゃないですか。「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」(監督 クリストファー・マッカリー / 2025年)じゃないけど、今日的な陰謀論の中でマモーのポリティカルな位置付けももっと面白くできるかもしれないし、史実の陰でこういうやつがうごめいていた、みたいな設定も、実際に起こった大事件に引っ掛けたりしながら、オリジナルよりもさらにピリっとしたものにできるかもしれないし。「LUPIN THE IIIRD」シリーズの世界線のままでまるっと作り直すんなら、「ルパンVS複製人間」の信者的なルパンファンにとっても、決してナシではないんじゃないかな?

リメイクの企画案を即興で次々と語っていく宇多丸

リメイクの企画案を即興で次々と語っていく宇多丸

──なるほど。

ちなみにその場合のオープニングは、「スーパーマン II 冒険篇」(監督 リチャード・レスター / 1980年)みたいに、テーマ曲に乗せて前作までのダイジェストで構成されているようなアガるやつでお願いします! エンディングは「アベンジャーズ/エンドゲーム」(監督 アンソニールッソ、ジョー・ルッソ / 2019年)よろしく、キャラが1人ひとり出てきて、最後にバキュンバキュンバキュン!でタイトルがドーンと出て、エンドロール……って、俺が勝手に作ってどうすんだ!?っていうね。

──(笑)

もしくは、「トップガン マーヴェリック」(監督 ジョセフ・コシンスキー / 2022年)のように劇中でキャラクターの加齢も描かれて、「不死身の血族」から歳を取ったルパンたちの戦い、という話もアリかも。古い武器とかを持ち出して、「バトルシップ」(監督 ピーター・バーグ / 2012年)みたいに、「これが俺たちの最後の戦いだ!」みたいな話もいけるんじゃないかな。「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」(監督 キャリー・ジョージ・フクナガ / 2021年)みたいな掟破りの完結さえ、小池ルパンの流れなら、ナシじゃないんじゃないですかね。小池監督、いかがでしょうか!?

プロフィール

ライムスター宇多丸(ウタマル)

1969年生まれ、東京都出身。1989年結成のヒップホップグループ・RHYMESTERのラッパーで、ラジオパーソナリティとしても活躍。2007年にTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」が始まると、映画評コーナーで映画ファンにもその名を広く知られるようになる。現在は月曜日から木曜日の20時から生放送されているTBSラジオ「アフター6ジャンクション2」でメインパーソナリティを務める。近作にRHYMESTERのアルバム「Open The Window」(2023)ほか。映画関連の著作も多い。2025年、日本における外国映画文化、芸術の振興に寄与した人物を表彰する淀川長治賞を受賞した。