偽ルパン役が決まったときは、「夢みたいだ！」と思った（堀内）

──本作は2021年にアフレコが行われ、完成からしばらくの間、公開待機状態だったそうですが。

栗田貫一　まだコロナ禍で、（声優は）1人ずつしかスタジオに入れなくてね。ほとんど自分の家での練習と変わらなくて、最初は、「うーん」という感じだったね。もっとも、コロナ禍じゃなくても割とそうなんだけど。

山寺宏一　栗田さんはアフレコのトップバッターでしたからね。

──近年のルパン作品のアフレコは、最初に栗田さんのルパンの演技を収録し、それを柱に進行していくというパターンが比較的多いそうですね。

栗田　だから、僕以外のセリフは無音。たまに山ちゃんが一緒だったり、後から忙しい大ちゃん（浪川大輔）が来たり。沢城（みゆき）はだいたい年中一番忙しいし（笑）。つまり、僕と山ちゃんは忙しすぎる浪川と沢城の間を縫ってアフレコをしているんですよ（笑）。

山寺　栗田さん？ 作品のプロモーショントークですよ？（笑）

──（笑）。堀内さんは今回の偽ルパン役については？

堀内賢雄　知らされたときは、「夢みたいだ！」と思いましたよ。こんなメインの役で憧れだったルパン作品に出られるなんて。

山寺　タイトルからして、「銭形と2人のルパン」ですからね。

堀内　今でも、「僕でよかったのかな？」って。本当は偽ルパン用にオーディションでも開いたほうがよかったんじゃないの？って思うぐらいで。

栗田　なんでよ!? 賢雄さんだからよかったんじゃない！（笑）

堀内　だって、いざ台本を読むと、あるシーンで、峰不二子が「その声は……」と、偽ルパンの声を聞いて本物のルパンだと思っているようなセリフがあって。「これ、どう演じりゃいいんだよ」と、すごく不安になりましたね。山ちゃんは僕が不器用な男だとよく知っていると思うんだけど……。

山寺　知りませんよ！ 嘘ばかり言って（笑）。僕も台本を読んで、「この偽ルパン、いったい誰がどう演じるんだ？ もし自分だったら、こんなの大変でやれないよ」と思っていたら賢雄さんで。僕は賢雄さんにはデビュー当時から本当にお世話になっていて。数々の作品で共演をさせていただき、一時は“ホッちゃんヤマちゃん”というコンビでイベントにも一緒に出ていたくらいなので、もう、うれしくてね。賢雄さんは業界で一番面白い人なんです。特に飲み会のとき……。

堀内　そんなことない！（笑）

栗田　僕も賢雄さんとは前にもお仕事をご一緒していたんで、偽ルパンが賢雄さんだと知って、どう偽ルパンを演じられるのかが楽しみでね。でも、僕がアフレコを終えてスタジオから出たら、賢雄さんがロビーにいて、「どうやろうかな」みたいなことを言うから、（ルパンの声で）「そう言われてもねえ……俺の真似でもする？」って（笑）。

堀内　しかも、1人ぼっちでアフレコでしょ。OKが出て、あんなに喜んだのも久々でしたよ。（本編の）冒頭のほうなんて、テイク50はやったと思います。

山寺　それも絶対に嘘！

堀内　いや、本当に50（テイク）くらいはやったと思う。

栗田　まあ、清水さん（※）なら、あり得るな。

※音響監督の清水洋史。「LUPIN THE IIIRD」シリーズのアフレコ全体を監修している。

山寺　確かに。清水さんは毎回銭形と同等の執念で僕らを追い詰めますからね。

堀内　本当に追い詰められましたよ（笑）。

カッコいいセリフはカッコよくしゃべろうとするとカッコよくならない（栗田）

──最終的な編集段階での微調整を差し引いても、セリフの迫力や説得力といい、掛け合いの緊張感といい、とても別録りとは思えない会話劇ですね。

栗田　まさに清水マジックだよ。みんな好き勝手にやってるのにね（笑）。

──しかも抑制の効いたセリフも含め、実写の海外作品の日本語吹替のような醍醐味があって。

栗田　本当に洋画みたいだよね。自分でもときどきアニメとは思えなくなるくらい。たくさんのカッコいいセリフもこのシリーズの大きな特徴だけど、そういうセリフって、カッコよくしゃべろうとするとカッコよくならないんですよ。特報や予告編で過去の本編からセリフを切り取って使っているのは本当に正解だと思う。会話の流れの中でしゃべるほうが、そのセリフだけを改めてしゃべるよりも全然いい出来になるんですよ。

山寺　そう思いますね。銭形って、実は物語のラストでいいセリフをいただくことが多いんです。例えば「ルパン三世 カリオストロの城」（1979年）での有名なセリフ（「奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です」）もそうですよね。今回のラストでも、実は映画「LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族」のラストでも、銭形は見せ場とも言えるようないいセリフをいただいていて。そういうときは、気合いを入れすぎて空回りしないように気を付けています。

栗田　それにしても、相手がどう出るかわからない状態でしゃべるのって嫌なもんだよ？ それでも、山ちゃん、大ちゃん、沢城はまだ想像でなんとかなるけど、賢雄さんがどういう芝居をするのかわからないまま先に録るのはきつかったなあ。

山寺　僕、賢雄さんに聞きたかったんですけど、偽ルパン、めちゃめちゃ気味が悪いじゃないですか？ これまでもルパンの敵にはヤバいやつがたくさんいたけど、この偽ルパンは相当イカれた爆弾魔で、かなりヤバい場面でもヘラヘラ笑っている。あれ、どうやって役作りをしたんですか？

堀内　……何か、僕の心の中にもあるんじゃない？ 狂気が（笑）。

山寺　やっぱり！ 朗らかなのに本当は何を考えているかわからない感じが!?（笑）

栗田　そのへんは役に合っていたのかな？（笑）

堀内　真面目な話、栗田さんがさっきおっしゃった通りですよ。やっぱり偽ルパンだから、はじめは本物に似させるほうがいいのかな？と考えて余計な力が入っちゃった。そうすると、セリフが嘘っぽくなっちゃう。でも、テイクを重ねていくうちに、キャラクターをしっかりと掴んで、ニュアンスを丁寧に拾って、本気で偽ルパンに入り込んでいければ、自然とルパンに似ていくというか、偽ルパンになっていくんだな、と思えるようになった。

栗田　本物の偽と、似せようとする偽の違いだね。

堀内　まさにそう。偽ルパンの頭の中では、自分のほうが本物なわけですから。

栗田　やっぱり賢雄さんの内面にあるものが出てきたのかもね（笑）。清水さんの執念と、賢雄さんの努力で。だって、できあがりを観たら、賢雄さんに聞こえなかったもん。爆弾魔という偽ルパンの奇妙な怖さが際立っていて、「あれ？ 賢雄さんって、こういう声だっけ？」って。がんばって作ったんだなって。すごすぎちゃって、かなり驚かされましたよ。

堀内　うれしい。いや、そりゃがんばりますよ。

山寺　そもそも賢雄さんは業界屈指の美声の持ち主なんですが、仕上がりを観て、僕も栗田さんと同じように、一瞬、賢雄さんだとわからなかったぐらい。「ああ、賢雄さん、差し替えられちゃったのかあ」って（笑）。

栗田・堀内　あはははは（笑）。

山寺　こんなに長いお付き合いなのに、今までこんな賢雄さんを知らなかった。いや、本当に怖くて痺れました。若い頃、相当ワルだったんだろうなって（笑）。

堀内　よかった。栗田さんも山ちゃんも出来がよくなかったら平気で「よくないじゃん？」と言ってきそうでしょ？ ようやくほっとしましたよ。

山寺　言うわけないじゃないですか！ ……本当は思っていても（笑）。

一同　（笑）。