あるある満載!こがけんも夢中!温かなラブストーリー「リコリス・ピザ」を語る (2/2)

映画を観ているあなたたちの物語でもある

──2人以外でお気に入りのキャラクターはいましたか?

もう、いすぎますね(笑)。例えばショーン・ペンが演じたレジェンド俳優、ジャック・ホールデン。自意識を満たしてくれそうな女の子(アラナ)に声を掛けてレストランで食事をして、そこで仲間の監督と会ったら女の子をほったらかして内輪で盛り上がる。ダメでしょ、絶対!(笑) ショーン・ペンの発声から笑っちゃいましたね。彼の声の音域は高いほうだけど、役に合わせて低くしている。手を抜かずにきっちり演じて、あの時代の俳優特有のオンオフがない感じを出していました。

「リコリス・ピザ」より、ショーン・ペン演じるジャック・ホールデン(左)とアラナ・ハイム演じるアラナ(右)。

「リコリス・ピザ」より、ショーン・ペン演じるジャック・ホールデン(左)とアラナ・ハイム演じるアラナ(右)。

──いかにもいそうな感じでしたね。

レジェンド俳優あるあるが満載ですよ。ブラッドリー・クーパーが演じたジョン・ピーターズもヤバいやつで、ずっと目がキマってて、精神的に不安定で、いつも女の子のことしか考えてない。そんなひどい大人ばかり出てくるんですけど、そういう人たちが許されていた時代だったんでしょうね、1970年代は。あの時代に絶対いたと思わされる個性的なキャラクターを登場させて、さらに細かいディテールを積み重ねることで、時代の雰囲気が映画の中で見事に再現されていたと思います。

「リコリス・ピザ」より、ブラッドリー・クーパー演じるジョン・ピーターズ。

「リコリス・ピザ」より、ブラッドリー・クーパー演じるジョン・ピーターズ。

──ディテールといえば、デヴィッド・ボウイやポール・マッカートニーなどいろんな音楽が使われていましたね。PTAの音楽に対する愛が伝わってきました。

曲数がすごかったですよね。専用のジュークボックスを鳴らしているみたいに次々と音楽がかかっていた。(PTA作品の中で)こんなにたくさんの曲が使われるのは珍しいんじゃないですか? シーンを盛り上げるときに曲を使う、そういうベタな演出をあえてしていた気がします。いかにも1970年代の青春映画みたいに作っていた。映画マニアだったらいろんなネタを見つけることができると思うし、初めて監督の作品を観る人にとってもすごくわかりやすい作品だと思います。

「リコリス・ピザ」

「リコリス・ピザ」

──ラブストーリーというのも親しみやすいですよね。

恋愛ってお互いに相手の世界に干渉しなきゃいけないじゃないですか。だから心の平穏を乱されるし、パニックを起こすことだってある。そのパニック状態がこの映画では面白く描かれている。アラナは大パニックですよ。これまでも歳の差ラブストーリーってあったけど、普通、歳上のほうはどっしりと構えているじゃないですか。この映画は逆で自信家のゲイリーのほうが落ち着いている。アラナはゲイリーに次第に惹かれながらも、ときどき、はっと我に返って「こいつ15歳のガキじゃない!」と思い直して大人の男性のもとへ行ったりする。そんなふうにアラナがジタバタしている姿がエンタメとして描かれているし、観ていて共感できるんですよね。

──そういう人間的な弱さを魅力的に描くのもPTAの語り口のうまさかもしれません。

監督の作品に出てくる人物は、みんな魅力的。キャスティングも見事ですよね。自分の世界観がきっちり決まっていて、どこを細かく描いていくべきかはっきりわかっている。だから役者さんはすごくやりやすいだろうなと思いますね。今回も1970年代あるあるをしっかり把握したうえで時代やそこで暮らしている人たちを描くから、どのキャラクターも人間味がある。

──PTAはあるあるの巨匠なんですね。

そうですね。引き出しの数がハンパじゃないし、常に半開きの状態(笑)。この映画は、まだ何者にもなれていない人たちの話なんですよ。映画を観ているあなたたちの物語でもある。50年前のアメリカでも、あなたたちと同じように恋をしてパニックになっていた。それが人生じゃんっていうね。そして、みんな大きな世界の脇役に過ぎないけど、それぞれにドラマチックな出来事がある、そういう話なんですよ。アラナがトラックを運転するエピソードなんかもそう。まさかこんなクライマックスを用意していたとは!と驚きましたよ。

「リコリス・ピザ」

「リコリス・ピザ」

──あれはハラハラさせられましたよね。

もし、彼女が結婚して子供ができたら、その子に絶対トラックの話をするはず。誰にでもそういう、日常の中で遭遇したドラマチックな話があるじゃないですか。ポール・トーマス・アンダーソンは絶妙なリアリティでそういうエピソードを入れてくる。若い頃って愚かだけど、素晴らしいことや楽しいことがいっぱいある。それは今も昔も変わらないんだよと監督が言っているような気がしました。そういう温かい視線が大好きなんです。だから、この映画は今の若い人にこそ観てほしいし、大人が観たら若かった頃のことを思い出すはず。監督には、こういう作品をこれからも作り続けてほしいですね。

こがけん

こがけん

プロフィール

こがけん

1979年2月14日生まれ、福岡県出身。コンビでの活動を経てピン芸人となり、バラエティ番組で披露した“細かすぎて伝わらないモノマネ”で注目を浴びた。2019年には「R-1ぐらんぷり」の決勝に進出した。同年、おいでやす小田とのピン芸人ユニット・おいでやすこがを結成し「M-1グランプリ」に出場。2020年に決勝進出を果たし、準優勝を飾った。近年の映画出演作に「イソップの思うツボ」「劇場版ほんとうにあった怖い話~事故物件芸人2~」がある。