ポール・トーマス・アンダーソンの監督最新作「リコリス・ピザ」が、7月1日に全国公開される。
1970年代のハリウッド近郊サンフェルナンド・バレーを舞台にした本作。子役として活躍していた高校生ゲイリーと、将来が見えないままカメラマンアシスタントとして働く女性アラナの恋模様が描かれる。姉妹バンドであるハイムの三女アラナ・ハイム、そしてフィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマンが映画デビュー作にして主演を務め、ショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパー、ベニー・サフディが脇を固めた。
映画ナタリーでは、映画好きで知られる芸人・こがけんに本作をひと足早く鑑賞してもらった。こがけんが思う「リコリス・ピザ」の魅力や、劇中に見出した“あるある”とは?
取材・文 / 村尾泰郎撮影 / 梁瀬玉実
スタイリング / 神山トモヒロヘアメイク / 小林潤子(AVGVST)
若さに対する肯定的なスタンスが感じられた
──まず、映画の感想からお願いします。
めちゃくちゃ面白くて全編にわたって笑ってました。若さをテーマにした作品というのは、“若さ=愚かさ”みたいな若さへの否定的なニュアンスから完全に逃れることができないと思っていて。でも、この映画に関しては、ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)監督の若さに対する肯定的なスタンスが随所に感じられるのがすごくよかった。監督に子供が4人いて、若い世代を身近に感じていることも関係しているのかもしれませんね。
──主人公の1人、ゲイリーは15歳。これまでのPTA作品の主人公としては、最年少くらいの若さですが彼についてはどう思われました?
まず最初に思うのは、このタイプってモテないでしょうね(笑)。すごく口が達者だけど目に力がないんですよ。でも、なぜか目が離せない。学生時代、僕はゲイリー側の人間だったんですけど、彼ほどの社交性はなかったですね。
──ゲイリーには謎の自信がありますね。
そうなんですよ。僕は全然自信がなかったのに。ウェス・アンダーソンの「天才マックスの世界」のマックスみたいでしたね。でも、マックスはかなりフィクション性が強いキャラだったけど、ゲイリーは絶対こういうやついる!と思わせるリアルさがある。そこがポール・トーマス・アンダーソンのすごいところで。ゲイリーは自分がスクールカーストの下にいるのに、そのことに気付いていない。アメフト部の選手にハイタッチしようとして無視されても、「なんでしてくれなかったんだろう?」と思うタイプ。だから無敵なんですよ。
2人を見た段階で「この映画、勝ったな!」
──ゲイリーを演じたクーパー・ホフマンは、PTA作品の常連だった名優フィリップ・シーモア・ホフマンの息子で、本作が映画初出演でした。彼の演技はどうでした?
とんでもなく演技力があると思いました。ゲイリーって一歩間違えればヤバいやつじゃないですか。自信満々で10歳上のアラナに声を掛けて、どんどん迫っていく。最初のデートで「君の夢は何?」って聞きます?(笑) ありえないですよね。でも、物語が進んでいく中で、本気でアラナのことを好きなんだ、とわかると応援したくなってくる。そして、最終的に彼のことを好きになってしまうんですよね。それはクーパー・ホフマンの演技力があればこそ。お父さんみたいな雰囲気にポール・ダノ要素も加わっていて、最強のやられ役ですよ(笑)。
──ゲイリーが恋するもう1人の主人公、アラナというキャラクターはどう思われました?
20代後半に差し掛かっていて、自分が何をやりたいかわからないし彼氏もいない。そんな状況で15歳の子供に声を掛けられて、すごく居心地が悪いわけですよ。そんないら立ちや焦燥感を、内なるマグマみたいに持っている。その一方で、ウォーターベッドのセールスのときとか、ところどころで秘められた才能を見せるじゃないですか。それってゲイリーからしたら、好きになった相手のいいところがどんどん見えてくる恋の過程でもあるんですよね。そういうキャラクターをアラナ・ハイムが好演していました。僕は彼女のバンド、ハイムが昔から好きだったんですよ。
──そうだったんですか。ハイムは三姉妹のバンドでアラナは末っ子。映画には姉たちや両親も出演していました。
子供の頃の先生が姉妹のお母さんだった縁で、監督はずっとハイムのミュージックビデオを撮っていたんですよ。長女と次女はキャラクターが固まっているんですけど、アラナはまだ揺らいでいるようなところがあって、だからこそ彼女を起用したのかもしれないですね。アラナとクーパーが共通しているのは、地味なんですけど、ときどき、すごくきれいに見えたりかっこよく見えたりするところ。そういう部分もリアルで絶妙なキャスティングでしたね。映画を観る前、2人の写真を見た段階で「この映画、勝ったな!」と思いました。
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