「レ・ミゼラブル」特集|レミゼじゃないレミゼが描く貧困、分断、格差……フランスで生まれた“みじめな人々”の怒り

コラム

モンフェルメイユは今も燃えている

「レ・ミゼラブル」
「レ・ミゼラブル」

モンフェルメイユは、パリからおよそ東へ17kmの地点に位置するセーヌ=サン=ドニ県のコミューン。“バンリュー”と呼ばれるパリ郊外の中でも工業地帯として発展したセーヌ=サン=ドニ県だが、モンフェルメイユは小説「レ・ミゼラブル」に登場した街として知られている。幼い少女コゼットが宿屋の女中として働かされ、虐待を受けていた場所だ。そこには安宿に集う“みじめな人々”の悲惨な暮らしのイメージが付きまとう。映画のコピー「悲劇は終わらない。この街は今も燃えている。」が示す通り、それは現在のモンフェルメイユでもあまり変わらない。

1950年代から旧植民地や保護領であったイスラム教圏からの移民労働者が増大したフランス。「自由、平等、友愛」という建国理念のもと、彼らとその子孫にはフランス人としての国籍が与えられるが、社会的不平等は根強く残っている。2005年に全国規模に発展した暴動も、最初はモンフェルメイユと隣接するクリシー=ス=ボワにおける移民の若者2人の死から始まった。劇中の主な舞台となる団地ボスケには、ラジ・リ曰く30カ国に及ぶさまざまな出自を持つ住民が時に助け合い、時に反発しながら暮らしているという。

「レ・ミゼラブル」

ドキュメンタリー出身監督が少年に託したまなざし

ラジ・リ

1978年にアフリカのマリ共和国で生まれ、モンフェルメイユで育ったラジ・リ。彼はもともと1990年代にKourtrajméというアーティスト集団のメンバーとして役者、脚本家のキャリアをスタートさせている。大きな転機となったのが、先にも触れた2005年のパリ郊外暴動だ。「私の撮った映像が唯一、暴動を内部の視点から捉えたものでした」と語るラジ・リは、怒りを爆発させる若者や抑圧的な警察官の姿をカメラに収めた。そして1本のドキュメンタリー「365 Days in Clichy-Montfermeil(原題)」を完成させ、本格的にドキュメンタリストの道を歩み始める。

「レ・ミゼラブル」
ラジ・リの息子アル=ハサン・リがドローンを持つ少年役に起用された。

そんな監督のキャリアが反映されている「レ・ミゼラブル」の登場人物が、ドローンを使って団地の日常を捉える少年だ。映画にはドローンで映した俯瞰の映像がたびたび挿入され、子供や女性たちの生き生きとした生活が映し出される。そしてまた、少年のドローンは警察官の引き起こしたある決定的瞬間までも捉えてしまう。「5年間、近所で起きたことのすべてを撮影しました。特に警察官たちを」と述べている、かつてのラジ・リと同じように。少年役に実の息子アル=ハサン・リを起用している点も見逃せない。ラジ・リはすべてを白日のもとにさらすドローンと、それを大事に抱える少年にドキュメンタリー監督としての矜持を込めている。

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