「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」樋口真嗣が観た最新作、迫力満点のシーンに「もう永遠に続いてくれ!」 (2/2)

“シザーハンズ恐竜”のキャラが立っていた

──恐竜はいかがでしたか? 初登場の恐竜もいましたが。

爪が異常に長い恐竜……テリジノサウルスという名前の“シザーハンズ恐竜”はキャラが立っていましたね。作品を代表する恐竜であるティラノサウルスよりも大きい、ギガノトサウルスとの対決も見どころ! 見るからに凶悪っぽいのに草食っていうんだから二度びっくりした。テリジノサウルスのデビュー戦としては最高の試合だったと思います。そういうギャップがかっこいい! しかも驚いたのは、意外なほどアニマトロニクス(※編集部注:生物を模したロボットを使う撮影技術)の恐竜が多いこと。スタン・ウィンストン(※編集部注:実物大の恐竜造形スーパーバイザーで「ジュラシック・パーク」シリーズにも参加)の意志を継いでいる感じでとてもいいですよ。

「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」より、ギガノトサウルスのメイキング写真。

「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」より、ギガノトサウルスのメイキング写真。

──完結編なので、オマージュのつもりもあったかもしれませんね。

もしかしたら今回、フィルムで撮影したのもそういう狙いなんですかね? スピルバーグの1作目を意識しているというか。「ジュラシック」シリーズはデジタルの進化とともにあるんだから、フィルムの必要性は感じないけど。デジタル時代の監督としては、フィルムで撮るというぜいたくが許されるならやってみたい。そういう気持ちはわかります!

──フィルム撮影は今や、クリストファー・ノーラン級の監督じゃないと許されないぜいたくですからね。

あと今回、印象的だったのはライド感。より強くなったように感じたので4DXが楽しみですよ。おそらく、恐竜にくわえられて引きちぎられるくらいのシェイク感が味わえるのでは? 2時間27分、振り回されまくるのが楽しみでしょうがない。恐竜に食べられる!?という臨場感がありますよ、きっと。肉体の限界に挑戦するつもりで挑みますから!

「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」

「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」

「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」

「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」

鳴き声は自分の作品にも影響

──今回で完結編ということなのですが、樋口さんが初めてスピルバーグの「ジュラシック・パーク」を観たときはいかがでしたか? やはり衝撃だった?

臨場感が半端なかったですよね。それまでのデジタル技術は、きれいな動きは表現できていたんですが、雑な動きは不可能だった。あたかも計算されていないような雑な動きこそが生々しさを表現できるんですが、「ジュラシック・パーク」はできていたんです。それは技術さえあればどんな監督でもできることじゃない。最終的にものを言うのは、監督の演出力でありセンス。スピルバーグは「ジョーズ」のときから、そういう演出力がずば抜けていました。そこに存在しないものを見せるとき、撮影にさまざまな制約が生まれるんですが、演出でクリアしていくんです。「ジュラシック・パーク」で言うと、車中に置かれたカップの中の水が、T-レックスが近付くにつれ激しく揺れるとか。そういう間接的な手法を積み重ねて緊張感を高める。それこそスピルバーグ演出の真骨頂なんです。

樋口真嗣

樋口真嗣

──同じクリエイターとして「ジュラシック・パーク」シリーズから影響を受けたことはありますか?

鳴き声かなあ。誰も恐竜の声って聞いたことないじゃないですか? 吠えるだけでなく、アイドリングしているときののどが鳴るような感じ。音のいい劇場で観ると、そういう鳴き声に対するこだわりもちゃんと伝わってきますよ。

──鳴き声はどうやって創造するんですか?

実際の動物の声をいくつか組み合わせて作るようですね。自分たちの作品でも、獣っぽいのどの唸りの成分を入れてみたりしました。そうするとキャラクターがちゃんと膨らむんです。3DCGや、アニマトロニクスだけだと、生命体としての説得力が生まれない。姿は見えないのに、声だけでよく見えない物陰から忍び寄るという演出もできるし、実際にやりました。とてもスピルバーグっぽいし「ジュラシック・パーク」っぽいですよ。

スピルバーグはスペシャルな存在

──ところで、樋口さんがスピルバーグで一番好きな作品は?

やっぱり、俺たちの世代の映画ファンにとってスピルバーグはスペシャル。小学校の頃に「ジョーズ」、中学生頃に「未知との遭遇」を観て。自分の映画ファン史はスピルバーグとともにあると言っても過言ではないくらい。そういう中で一番好きなのは「宇宙戦争」になるかな。VFXやアクションもいいんだけど、もっとも心に刺さったのは家族のドラマですね。トム・クルーズ扮する駄目な父親が、宇宙人の攻撃で滅亡しかかったアメリカの街を逃げ回りながら、自分のことを父親と認めていない子供2人を再婚した母親のもとに届けるまでの物語。子供を届けるというミッションに成功したら最後は自分が独りになるという残酷さに驚いたんです。あたかも(スピルバーグが)自分の父親はこういう存在だったんだと言わんばかりに。そうやって“罰”をトム・クルーズの役に負わせたようにも見えたんです。表向きは侵略SFの古典のリメイクだけど、そういうストーリーを忍ばせるって、スピルバーグはやっぱりすごい。最近では「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」を撮りながら「レディ・プレイヤー1」を作る振り幅が大好きです。

樋口真嗣

樋口真嗣

──なるほど! いろいろとお聞きしましたが、改めて「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」の魅力をまとめていただけますか?

やっぱり「勢ぞろい」ですよ。新旧レギュラーが一体になって、大所帯にもかかわらず、最後までしっかり突っ走る。「ジュラシック」シリーズにおけるオールスター映画。そういうお祭り感が楽しいですよね。あとはやっぱり「007」感。それもダニエル・クレイグじゃなくてロジャー・ムーアの「007」。バイオシン社の研究室や、そこから脱出するときに使うトンネルが秘密基地っぽくて、ムーア時代のボンド映画のノリだった。今の時代、みんなノーランの“悪い影響”でシリアス路線に行きがちなのに、「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」は映画が娯楽であることを忘れていない。だからこそ人気も衰えず、さらには次の可能性まで感じさせてくれる作品になったんじゃないかな。そういう意味では最適解の映画だと思いますよ!

プロフィール

樋口真嗣(ヒグチシンジ)

1965年9月22日、東京都生まれ。1984年「ゴジラ」に造形助手として参加し、映画界入り。「平成ガメラ」3部作などで特撮監督を担当したあと、「ローレライ」「のぼうの城」(犬童一心と共同監督)、「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」2部作などで監督を務める。2017年には「シン・ゴジラ」で総監督の庵野秀明とともに日本アカデミー賞最優秀監督賞に輝いた。2022年5月に監督作「シン・ウルトラマン」が公開され、6月末時点で興行収入40億円を突破。