映画「愛しのアイリーン」 PR

「愛しのアイリーン」特集 安田顕×吉田恵輔 対談 / 木野花 インタビュー|不器用な愛が過激にスパーク!ノンストップで疾走するラブ&バイオレンス

木野花インタビュー

限界を超えて自分を追い込んでみようと思った

──木野さんが演じられたツルはすごくインパクトのある役でしたけど、最初にお話を聞いたときはどう思われましたか。

お話をいただいてから原作を読んだんですけど、まずはそのあまりの過激さにびっくりして。吹っ飛ばされたり、感情をぶつけ合ったり、ここまで激しい役をやるのは初めてだったので、爆弾のように動き回って息子の岩男を溺愛するツルを私はちゃんと演じきることができるのだろうか?という不安がありました。

──その一方で、この役をやってみたいという思いもあったんですよね。

木野花

そうですね。これまで私は優しいお母さんやおばあちゃん、看護師や校長先生の役などでオファーされることが多くて。まあ、コミカルで面白い役もやりましたけど、限界を超えるような激しい役はやったことがなかったので、せっかくだから1回、自分を追い込んでみようと思ったんです。

──逆に、製作陣はなぜツル役に木野さんを選んだのでしょう?

キャスティングのスタッフの方が、劇団☆新感線の舞台「犬顔家の一族の陰謀~金田真一耕助之介の事件です。ノート」で勝地涼さんを包丁を持って追いかけまわす私を見ていて。それ自体はコメディで面白い役だったんですけど、そのときに、そういう無茶なことがやれちゃう役者なんだと思われたんじゃないですかね(笑)。

監督から「般若のような顔をしてください」と言われた

──実際には、あの強烈なツルにどうやってなっていったんですか。

「愛しのアイリーン」メイキングカット

監督もキャストもみんな、「原作が持っているパワーに追いつけるのだろうか?」という不安を抱えていたと思います。それこそ私は、姿、形からツルとまったく違いますから。原作をまねるのではなく、役者としてツルの存在感をどう出せるかが勝負どころだと思ったので、四の五の考えないで、本当に体当たりで行くしかないなと覚悟しました。ツルというおばあちゃん自体が、息子を体当たりで追いかけているような印象ですから。考えすぎてやると、その生き様がストレートに伝わらなくなると思ったので、とにかく振り切ってみることにしたんです。

──映画のトーンが一変するのは葬儀のシーンです。

そうですね。あのシーンはけっこう早い時期に撮影をしたんですけど、あの猟銃を持ったときに、ああ、こういうおばあさんなんだなあということが実感できたし、私自身、1つ腹が据わった気がします。

──あの葬儀のシーンでは、アイリーンとの最初のバトルがありますね。

「愛しのアイリーン」

最初は原作を読んだりして、いろいろ考えたんですけど、でも途中で、そんなに難しいことを考えるばあさんじゃないなということに気付いて。とにかく息子の岩男を溺愛している、息子ありきで彼女の人生がスタートしているんだということだけを頭に入れて、ただぶつかっていきました。でも、あの夏のシーンは本当に大変でした。ものすごく暑いのに、撮影中はクーラーをかけられないし、私は葬式の着物で猟銃を持って外でアイリーンと取っ組み合いをしなければいけなかったし、ヘトヘトになって、熱中症になるんじゃないかという危機感を抱えながら、動き回ってましたね。でも、映画としてはそれがよかったような気もします。猛暑の中、ツルがヘトヘトになりながらも無我夢中で前へ前へ行こうとする執念が、噴き出ている気がします。

──その後の畑のシーンのツルとアイリーンのいがみ合いはまだ笑えるものでしたけど、落書きを消しながらののしり合うところではそれが過激になって、不穏な空気に支配されます。

木野花

そうですね。でも、あそこは半分、即興芝居みたいなものでした。「疫病神」とか、口から出た罵倒する言葉を夢中でしゃべっていた感じで、何を言ったのかも覚えていないぐらい本当に怒っていました(笑)。

──終盤では、献身的なアイリーンに物を投げたり、殴ったりする半狂乱のツルが壮絶すぎて怖かったです。

お膳をひっくり返したりしながら、アイリーンを追い詰めていくあのシーンでは、吉田監督から「般若のような顔をしてください」と言われたんです。それで、般若の顔ってどんなものなんだろう?と思って、前の晩に鏡を見ながら研究して臨んだら、監督に「本当に怖い」って言われたんですよ(笑)。でも、あのシーンは、私よりアイリーンを演じたナッツさんのほうが大変でしたね。私が物を投げたり、ほうきでたたいたりして虐待をしていたから、本当に痛かったと思います。しかも後半のほっぺたを思いっきりたたくところは、私が寝ている状態だったのでうまくできなくて、何度もたたくことになったから申し訳なくなりました。

──あの一連のシーンでは、ツルが自分の過去や岩男のことをどれだけ愛しているのかを怒りと一緒に一気にさらけ出します。

「愛しのアイリーン」より、木野花演じるツル。

あの時点でのツルは気が狂いそうになっているわけですよ。彼女の人生にとって、もっとも衝撃的なことが起こったわけですから。だからそこは、それまでの感情の流れの中で、果たして自分がどんな口調と声の大きさで言葉を発するのか予想できない、出たとこ勝負のような感覚でやってました。セリフだけは徹底的に入れて、怒りの強さなども計算しないで、けっこうぶっつけ本番で挑みました。

──そこは、監督とのズレもなかったわけですね。

そうですね。原作がありますから。なので、私は普通のおばあさんの行動は度外視して、愛情の強さと言うか、どれぐらい度を超えた溺愛なのかだけは見失わないようにして、自分なりに度を超える感じでやってみて、そのレベルが足りなかったり、強すぎたりしたら、監督が修正されるという感じでした。

安田さんも腹を括っているなと思いました

──ナッツさんとのお芝居はいかがでしたか。

「愛しのアイリーン」

彼女は本当にうまい役者さんです。ピュアな、素朴な感じも出せて、ちゃんと計算もできる。英語もペラペラだし、頭がいいんですよ。貧しいアイリーンとは違っていいとこのお嬢さんで、インテリなんですけど、あんな無邪気で狂おしい感情がちゃんと出せて、気持ちも出し惜しみせずに体当たりでぶつかってきてくれたから、ありがたかったですね。本当に腹が立ったし(笑)。

──どこのシーンで腹が立ちました?

もう最初から(笑)。葬式であんなにはしゃぐんですからね。でも、それを見て、この女優さんはいいなと思いましたよ。ただ仕事で来ましたというスタンスではなく、私たちと同じようにこの作品をいいものにしたいという熱意が感じられたし、大事に思ってくれていたので、みんながひとつになれたような気がします。

──安田さんはとてもよかったと思います。

私はただただ岩男のことを思い続けていただけで、安田さんとの絡みはほとんどなかったんですけど、完成した映画を観て、安田さんも腹を括っているなと思いました。

──どのあたりで、それを感じました?

ある出来事をきっかけに岩男がどんどん荒れていくさまを見たときですね。みんながみんな、お互いにそれぞれ片思いをしているわけですけど、終盤の岩男の姿を見て、これも愛なんだよなあと思いましたし、すごく切ないやりきれない気持ちになりました。安田さんの新境地じゃないでしょうか。

「愛しのアイリーン」
2018年9月14日(金)公開
「愛しのアイリーン」
ストーリー

年老いた母と認知症の父と地方の山村で暮らす、42歳まで恋愛を知らずに生きてきた男・宍戸岩男は、コツコツ貯めた300万円を手にフィリピンへ花嫁探しに旅立つ。現地で半ばヤケ気味に決めた相手は、貧しい漁村生まれの少女・アイリーン。岩男は彼女を連れて久方ぶりに帰省するが、岩男の母・ツルは、息子が見ず知らずのフィリピーナと結婚したという事実に激昂する。

スタッフ / キャスト

監督・脚本:吉田恵輔

原作:新井英樹「愛しのアイリーン」(太田出版刊)

主題歌:奇妙礼太郎「水面の輪舞曲」(ワーナーミュージック・ジャパン / HIP LAND MUSIC CORPORATION)

出演:安田顕、ナッツ・シトイ、木野花、伊勢谷友介、河井青葉、ディオンヌ・モンサント、福士誠治、品川徹、田中要次ほか

※吉田恵輔の吉はつちよしが正式表記
※R15+指定作品

木野花(キノハナ)
1948年1月8日生まれ、青森県出身。弘前大学教育学部美術学科を卒業後、中学校の美術教師となるが、1年で退職、上京して演劇の世界に入る。1974年に東京演劇アンサンブル養成所時代の仲間5人と、女性だけの劇団「青い鳥」を結成。翌年に旗揚げ公演を行い、1980年代の小劇場ブームの旗手的な存在になる。1986年、同劇団を退団。現在は、女優としてテレビ、映画、舞台で活躍中のほか、演出家としても活動を再開。現在、ドラマ「この世界の片隅に」が放送中。「十年 Ten Years Japan」「母さんがどんなに僕を嫌いでも」の公開を控える。