「愛しのアイリーン」特集 安田顕×吉田恵輔 対談 / 木野花 インタビュー|不器用な愛が過激にスパーク!ノンストップで疾走するラブ&バイオレンス

新井英樹による同名マンガを安田顕主演で吉田恵輔が映画化した「愛しのアイリーン」が9月14日に封切られる。本作は、42歳まで恋愛を知らずに生きてきた主人公・岩男が、フィリピン人の女性アイリーンと国際結婚したことから始まる物語だ。

本作の公開を記念し、ナタリーではジャンルを横断して特集を展開。映画ナタリーでは映画監督6名からの熱い感想コメントと著名人コメントを掲載。そして、 “もっとも影響を受けたマンガ”を実写化した吉田と、覚悟を持って撮影に挑んだという安田にインタビューを実施し、撮影の裏話などを語ってもらった。さらに後半には、岩男の母・ツルを演じた木野花のインタビューも。コミックナタリーでは、新井のインタビューを読むことができる。

取材・文 / イソガイマサト 撮影 / 佐藤類

壮絶なラブストーリーに6人の映画監督が熱いコメント!!

入江悠(映画監督)

入江悠

大好きな新井英樹さんの「愛しのアイリーン」を吉田恵輔監督が映画化する。
その報だけでもう胸が高鳴りました。どんな映画ができあがり僕らの実存を揺らしに襲いかかってくるんだろう、とワクワクしながら待っていました。
拝見したら、俳優の魅力を全開に引き出す吉田監督のもとでの、安田顕さん、木野花さん、河井青葉さんのこれまで観たことない狂気(いや正気!)、そしてなによりヒロインのアイリーン役を演じられたナッツ・シトイさんにやられました。
シトイさんの笑顔、泣き顔、仕草、立ち振る舞い、ひとりごと、その一挙手一投足のすべてが魅力的で、この人を永遠に観ていたいと心の底から思いました。いや、凄いっす。今年の女優賞総なめしないとウソです。

高杉真宙、加藤諒、渡辺大知をキャストに迎えた「ギャングース」が11月23日より全国で公開。

沖田修一(映画監督)

沖田修一

俳優たちの熱量と覚悟みたいなものと、あと楽しさが画面から溢れている気がした。みんな動物みたいだった。愛に飢えたような登場人物たちの姿が、涙ぐましくもあり、また滑稽にも見えたり。岩男さんの叫び声に心が震えます。

画家・熊谷守一と妻・秀子の夏の一日を描いた監督最新作「モリのいる場所」のBlu-ray / DVDが11月22日に発売。

小林勇貴(映画監督)

小林勇貴

新井先生作品、史上初の映画化! 非常に羨ましいです! 悔しい! ずるい!
国境というキッカケから人境という恐怖へ!
観たことないほど人間の見たくない部分が怒涛! 絶対、観て欲しいです!

メイン監督を務めるドラマ「GIVER 復讐の贈与者」はテレビ東京系にて毎週金曜24時12分から放送中。

白石和彌(映画監督)

白石和彌

素晴らしいとか傑作とか安易に口に出来ないエネルギーの塊を見た。
もうこの説明出来ない何かが人間で、きっと愛のほんの少し先のモノをずっと求めている。
アイリーンよ、俺の中でも生き続けろ!

門脇麦と井浦新が共演する監督最新作「止められるか、俺たちを」が10月13日より東京・テアトル新宿ほか全国で順次公開。

松江哲明(ドキュメンタリー監督)

松江哲明

吉田監督の「俺はこう読んだ」に呼応するスタッフと役者たちの凄まじさ。ナッツ・シトイというアイリーンの生き写しが現れたのも、映画の神がその熱量に反応したからだろうか。

監督を担当するドキュメンタリードラマ「このマンガがすごい!」は、10月よりテレビ東京、テレビ大阪ほかにて放送。

山下敦弘(映画監督)

山下敦弘©Hako Hosokawa

愛し方がわからない人たちを観ていると泣きそうになる。
泣きそうになるけど泣けない。それはたぶん他人事じゃなく自分自身にも当てはまるからだと思う。
世間では“愛”が一番大切みたいに思われてるけど、自分にとってこの“愛”ってのが一番難しい。
主人公岩男にとっての愛はキスでも無ければセックスでも無く、ひたすら木に彫っていたあの瞬間なんだと思う。
本当に愛がヘタクソな人たち。涙は出ないけどしっかりと泣きました。
とにかく吉田監督! よくぞこの原作と向き合い映画化してくれました!
とりあえず今は吉田監督に一杯奢りたい気分です。

山田孝之が主演、山下が監督を務める「ハード・コア」が11月23日より全国で公開。

各界の著名人からのコメントも紹介

大森靖子(超歌手)

幸せという幻想を描くという行為こそが、一等の理性なのかもしれない。目の前の愛で錯乱してしまう前に。その幸せのイメージがまるで周囲と一致しないのもまた愛の暴走の引金になるんだもんな。それでも愛に生きたい。

奥浩哉(マンガ家)

終始、画面に釘付けでした! ひたすらアイリーンが可愛くてかわいそうで、力強い愛の映画でした! 感動して泣きました! 吉田恵輔監督の最高傑作だと思いました!

ジョージ朝倉(マンガ家)

岩男が「お゛ま゛ん゛ご~!」って叫び、ツルさんが怒鳴って、監督の原作への愛が全編ほとばしっている……!! 新井英樹先生の原作ファンなので、うれしい反面あの原作の世界を創りあげられるその才能にジェラシー☆ そしてナッツ・シトイさんのアイリーンの尊さよ……! お見事でしたーーーッ!!!

鳥飼茜(マンガ家)

滅茶クソおもしろかった。物語、登場する人間すべてが最高。目的の明らかな愛が打算なら、目的の見えない愛は自由自在に形を変えて誰かを傷つけ自分を傷つけまくる暴力。その純度の高さに釘付けられっぱなし。

西村賢太(小説家)

痛くて沁みて掻きむしられる。膿むかもしれない不安と不穏。だが、癒してはならぬ傷だ。なぁ、岩男さんよ。

花沢健吾(マンガ家)

1995年21歳童貞の時に漫然と読んだ漫画「愛しのアイリーン」、23年後岩男より年上の44歳になって、母の介護が現実になって、自分の人生がだいたい見えてきて、この作品にようやくピントが合いました。僕にとって今観るべき映画「愛しのアイリーン」でした。

裕木奈江(女優)

お金と性、エゴと暴力が縺れて汚れた毛玉のように存在している。未成年の嫁を海外から買い付けた不器用な中年男、岩男。処女崇拝的な理想を息子の嫁に持つ岩男の母。しかしそこに嫁いできたクリスチャンの処女、アイリーンは岩男の母から銃を向けられるほどの拒絶を受けてしまう。「そんなまさか」と思うような設定が、話が進むにつれ「いやもしかして日本の何処かの田舎町で現実に起こっているのでは?」と思えてくるのは私が日本の、日本社会の和の圧力に圧縮された怒りと狂気を知っているからなのかもしれない。夫は妻を、女衒は母を、息子は買った妻を、母は息子を、死の前にそれぞれの愛を思い浮かべる。プリミティブな熱を瞳にねじ込まれる叫びの映画。

呂布カルマ(ラッパー)

世代をまたいだ歪んだ愛の連鎖。全てが間違いで、どこまで遡ればこの物語の登場人物達は幸せになれたのだろうか。そして、ついに最終兵器新井英樹に手をかけた映画界にドキドキした。

安田顕×吉田恵輔

これは、付け焼き刃でやっちゃいけない仕事だな(安田)

左から吉田恵輔、安田顕。

──原作は、吉田監督が“もっとも影響を受けたマンガ”なんですよね。

吉田恵輔 そうなんです。でも、なぜ好きなのかがわかったのはこの映画を撮る少し前なんですよ。

安田顕 そうなんですか。

吉田 はい。たぶんこの映画を観たお客さんも同じ感覚になると思うけど、なぜか号泣しちゃった。それで企画が実際に動き出してから、ちゃんと自分の感情を分析して、俺は何に感動したのかを紐解いていった結果、その答えがこの原作が描く“愛”ということがわかったんです。でもそれは、普通の直接的な“愛”ではなく、求めていたものとは違う、全然違うところから舞い込んできた“愛”なんですよね。ツルは息子の岩男のことを、アイリーンはフィリピンで暮らしている自分の母親のことを思っている。それぞれの思いが、岩男が欲しかった“愛”を補完しているところにグッときていたんです。そのことを、自分の言葉で話せるようになるまでには相当時間がかかりました。

「愛しのアイリーン」より、安田顕演じる宍戸岩男(左)。

安田 僕は今回のお話をいただいてから原作を読んで、最後の雪山のシーンのところでグッときました。と同時に、マンガの岩男と自分が全然似ていなかったから、「なぜ僕なんだ?」という疑問も湧きましたね。でも、監督から「だって、安田さんて気持ち悪いじゃないですか。そこがいいところなんです」という褒め言葉をいただいたり、吉田監督が20年間も映画化を温めてきた本作に対する思いをまっすぐぶつけてくださる中で、僕もだんだん「これは、付け焼き刃でやっちゃいけない仕事だな」と思うようになったんです。

──監督はプロデューサーから安田さんの名前が挙がったときに、似てないけれど、岩男役にハマると思われたんですよね。

吉田 そうですね。僕も原作ものの映画化はけっこうやっているけれど、見た目には別にそんなにこだわってなくて。今回も、岩男というキャラクターが持っている根っこの暗い部分や鬱屈した感情をあざとくなく、にじみ出るように表現できる人を探していて。安田さんはそれができる人だと以前から思っていたので、岩男役をお願いしたんです。

「愛しのアイリーン」

安田 僕が最初に思ったのは、監督の思いを届ける立場にいる自分はとにかくさらけ出さなきゃいけないということでした。だから、「メイクをしたくない。服は任せますけど」って言ったんです。それがさらけ出すことなのかどうかはわからないけれど、「僕をそのまま見てください」という覚悟を持ちたかったんです。それだけに、スチールカメラマンの方の一言は本当にありがたかった。アイリーンと撮影の初日に写真を撮ることになったときに、その方が「もっと岩男っぽくしてください」って言ってくださったんです。そのときに別にムカッとすることもなく、自然にスッと「僕が岩男です」と言えて、岩男というキャラクターにパチっとハマったんです。

「愛しのアイリーン」
2018年9月14日(金)公開
「愛しのアイリーン」
ストーリー

年老いた母と認知症の父と地方の山村で暮らす、42歳まで恋愛を知らずに生きてきた男・宍戸岩男は、コツコツ貯めた300万円を手にフィリピンへ花嫁探しに旅立つ。現地で半ばヤケ気味に決めた相手は、貧しい漁村生まれの少女・アイリーン。岩男は彼女を連れて久方ぶりに帰省するが、岩男の母・ツルは、息子が見ず知らずのフィリピーナと結婚したという事実に激昂する。

スタッフ / キャスト

監督・脚本:吉田恵輔

原作:新井英樹「愛しのアイリーン」(太田出版刊)

主題歌:奇妙礼太郎「水面の輪舞曲」(ワーナーミュージック・ジャパン / HIP LAND MUSIC CORPORATION)

出演:安田顕、ナッツ・シトイ、木野花、伊勢谷友介、河井青葉、ディオンヌ・モンサント、福士誠治、品川徹、田中要次ほか

※吉田恵輔の吉はつちよしが正式表記
※R15+指定作品

安田顕(ヤスダケン)
1973年12月8日生まれ、北海道出身。演劇ユニット・TEAM NACSに所属し、舞台、映画、ドラマなどを中心に全国的に活動。主演作「俳優 亀岡拓次」のほか、「龍三と七人の子分たち」「映画 みんな!エスパーだよ!」「銀魂」「聖の青春」などに出演し、2018年には「不能犯」「北の桜守」「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」が公開。出演作「ザ・ファブル」が2019年に公開予定。
吉田恵輔(ヨシダケイスケ)
1975年5月5日生まれ、埼玉県出身。東京ビジュアルアーツ在学中から自主映画制作を開始し、塚本晋也の作品では照明を担当。2006年に「なま夏」を自主制作、本作で同年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門でグランプリを獲得。監督作に「純喫茶磯辺」「ばしゃ馬さんとビッグマウス」「麦子さんと」「銀の匙 Silver Spoon」「ヒメアノ~ル」などがある。2018年には「犬猿」が公開された。

2018年9月13日更新