太宰治の未完小説を、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)が舞台化したKERA・MAP#006「グッドバイ」。同作を「八日目の蟬」「ソロモンの偽証」の成島出が映画化した「グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~」が、2月14日に全国で公開される。
大泉洋演じるダメ男・田島が、小池栄子扮するガサツで大食いの美女・キヌ子を妻と偽り、愛人たちとの関係を清算しようとするさまをコミカルに描く本作。映画ナタリーでは、田島の愛人を演じた水川あさみと緒川たまき、そして田島の妻を演じた木村多江の鼎談をセッティングし、作品や登場人物の魅力について語ってもらった。なおステージナタリーでは、KERAと成島の対談が公開中だ。
取材 / 熊井玲 文 / 平野彰 撮影 / 入江達也
どんなふうにもアレンジできる面白さを秘めた作品(水川)
──「グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~」は太宰治、KERAさん、成島監督という3人のクリエイターの力が合わさった映画だと思いました。緒川さんは舞台版では医師の大櫛加代を演じていましたが、映画版では戦争未亡人の青木保子を演じましたね。
緒川たまき 舞台とは作品のストーリー展開も違いますし、映画はまったく別物ですよね。ところで、水川さんはドラマでキヌ子を演じられていましたが(※編集部注:水川は2010年製作のドラマ「BUNGO -日本文学シネマ- グッド・バイ」でキヌ子を演じた)、私はあの作品がすごく好きだったんです。
水川あさみ 本当ですか? うれしい!(笑) 私がキヌ子を演じたのは20代前半ぐらいのときだったので、ちょっと未熟なキヌ子だったなって思うんですけど。
緒川 舞台と映画で小池栄子さんが演じられたキヌ子は、水川さんが演じられたのとはまた別もののキヌ子で、これがまたすごくよかったんですけど、“キヌ子経験者”はどういうふうにこの「グッド・バイ」という作品を見ていらっしゃるんでしょう?
水川 未完で終わっているからということもありますが、どんなふうにもアレンジできる面白さを秘めた作品なんだと思います。だから皆さんが、こうやって新しい作品にしたがるんだろうなと。
緒川 ベースにあるのは太宰の小説ですけど、ドラマ、舞台、映画で、核となるものがまったく違う作品がそれぞれ生まれたんだなと感じます。
木村多江 同じキャラクターでも、演じる人によって全然違いますよね。私は舞台を拝見したんですけど、そのときは大櫛先生を緒川さんが演じていて、今回はあさみちゃんが演じて。演じる方がもともと魅力的ということもありますけど、キャラクターそのものに魅力があるから、みんながそれぞれの形で輝けるんだと思います。
母性と強さがそれぞれのキャラクターにある(木村)
緒川 木村さんが演じた静江さんは、だいぶ破綻している人ですよね。
水川 破綻(笑)。
木村 舞台で水野美紀ちゃんが演じているのを観たときに「なんて破綻した人だろう」と思いましたけど、自分が演じてもやっぱり破綻するんです(笑)。
緒川 田島さんの一段上を行く、劇的な恋愛観を持った人。
木村 でも女性たちはみんな、基本的には田島さんを受け入れていて。女性の本質のような、母性と強さがそれぞれのキャラクターにあります。
緒川 そうですね。静江さんは一見被害者のように見えるけど、よく考えたら、人のことを言えない人が勢ぞろいしている中でもリーダー格みたいな存在ですし(笑)。
水川・木村 (笑)
緒川 まあ大櫛先生も、不倫しておきながら澄ましているぐらいだから……。
水川 みんな、ちょっとおかしな人ではありますよね。
緒川 (橋本愛演じる)水原ケイ子ちゃんも相当怖い人だし(笑)。
木村 うん、危ない。
水川 危ないですよ。田島さんのもとにはそういう人が集まってくるんですね。
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大泉さんの女性的なところが田島像に生かされている(緒川)