大泉さんの女性的なところが田島像に生かされている(緒川)
──この作品に登場する女性たちは、社会的に見てちゃんと自立した人たちで、自分の意見も持っているのに、なぜダメな田島に惹かれていくのでしょう。
木村 静江さんはもともと肝が据わっているからというのもあると思いますけど、精神的に自立している女性は、ダメな人を見ると助けてあげたくなるんじゃないでしょうか。母性で許してしまう、みたいな。
緒川 田島さんはその母性を嗅ぎ取る能力に長けていますね。
木村 いがちじゃないですか、そういう人。ダメなんだけど甘え上手、みたいな。
緒川 (松重豊演じる漆山)連行さんは全然違うんですかね。
木村 うん、連行さんはちょっと違うんです。
緒川 連行さんが純情か気が多いかは別として、彼は女性がほっとかないってタイプの男性じゃない感じがします。もちろん魅力的なんですけど。
水川 違う魅力ですよね。
緒川 パパ的なのかな。
木村 頼れる感じが連行さんにはあるかな。田島さんの場合は逆で、女性が「あなたには頼れないから私に頼って」となる。
緒川 でも1人では荷が重いから、何人か女の人がいるぐらいが田島さんにはちょうどいい(笑)。
──大泉さんが演じているから母性が湧くというところもあるのでしょうか。
水川 大泉さんは、すごく頼りない感じを前面に出しながらお芝居をされていました。そばにキヌ子がいるから、余計ダメに見えるし。素敵なダメっぷりでした。
木村 大泉さんだから魅力的なダメ男になっている感じはしましたね。
緒川 私は非常にエレガントなものを感じました。
水川 素敵な言い方。
緒川 女性的なところがあるんでしょうかね。栄子さんが「臭い、汚い、暑いとかをこの人はすごく嫌がる。女優か!」とからかってましたけど(笑)、そういう女性的なところが、田島像に生かされているのかもしれません。
木村 大泉さん自身がダダ漏れになっている感じ。
水川 いい意味でぴったりハマってたんでしょうね、田島さんと(笑)。
大櫛先生は陰で泣くタイプ(水川)
──舞台で仲村トオルさんが演じた田島とは、また違ったよさがありますよね。もうちょっとかわいらしいというか、人間味があふれていて。ただ、映画を何度か観て思ったのは、女性たちが本当に田島のことを好きなのかという点なんです。実はそれほど愛してはいなかった可能性があるのでは、と私は感じたのですが。
緒川 大泉さんが撮影中におっしゃっていたのが、「青木さんみたいな女の人と関わるべきじゃない。これはダメだよ」ということ(笑)。青木さんは田島さんに執着して溺れて、“死に至る病”にかかっていますからね。でも田島さんではなく別の男性が相手でも、同じことになっていた可能性はある。彼女は戦争未亡人なんですけど、亡くなった旦那さんは、青木さんから逃げるために一番危険な戦地に行ったのかもしれない(笑)。関わる相手が疲れてしまうぐらい、どよーっとしたものを出している人だと思います。そういう意味では、田島さんを愛していたと思います(笑)。
──大櫛先生はどうでしょう?
水川 好きだったんじゃないかなって思います。大櫛先生は「あなたに奥さんがいることはわかっているし、別れを言いに来たんでしょう? あなたがそう言うなら、まあいいわ」と言いながらも、本当はちょっと悲しくて、陰で泣くタイプの女性。好きの表現が素直じゃなくて、ちょっとブスな心があるなって思いますけど(笑)、そこが人間っぽくていいなと感じます。
──静江さんはいかがでしょうか。
木村 静江さんはこの時代を生きている女性ですから、愛するということよりも、「夫を支えていく」「妻とはこういうもの」「家を守る」という、当時の“女道”みたいなものを歩くことを選んだのだと思います。それでいてポジティブというか楽天的で、悩んだかもしれないけど、気持ちの切り替えは早い。最終的にはいろんなことを受け入れていく人です。もちろん田島さんのことが好きだとは思うんですけど、夫への愛だけでなく、家族愛も持っていますからね。そういう意味では、彼女の愛情は、ほかの女性たちとはちょっと違う種類のものかもしれません。
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男前の栄子さんと、ちょっと女々しい大泉さん(笑)(緒川)