「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」「シンデレラ・プロセス~私を輝かせる恋と夢~」コラム&ライタートークで紐解く中国恋愛ドラマの魅力 (2/2)

ライタートークで紐解く作品の魅力

ディン・ユーシーがラブリーなエプロンを付けて家事に奮闘(島田)

──中国では近年、現代劇にかなり力を入れていると聞きました。

小酒真由子 2010年代の時代劇ブームが落ち着いて、変わり目は「Go!Go!シンデレラは片想い」がヒットした2019年ぐらいのイメージ。現代劇の制作本数が増え、ドラマランキングに入ってくる現代劇も増えた印象があります。例えば中国の情報サービス企業の芸恩が発表した中国ドラマ市場リサーチでは、2015年ドラマランキングトップ3はすべて時代劇でしたが、2019年には1位2位を現代劇が独占しました。こうした影響もあって、2020年から日本で紹介される現代劇が増えたという感覚はありますね。

島田亜希子 ここ2年ぐらいで現代劇のお仕事はすごく増えましたよね。日本国内の需要を考えると時代劇が強いのは間違いないんですが、今はお仕事の内訳的には6対4で時代劇と現代劇ですね。

小酒 2019年より前は、9割方時代劇のお仕事でしたよね。それまでも中国でヒットした現代劇は入ってきていたと思うんですが、最近では日本でまだ知名度のないスターが出ているライトなラブコメも数多く入ってきている。以前はソフトリリースが基本でしたけれど、今は動画配信のみのタイトルもありますし、コロナ禍でドラマの需要が高まったこともあって、現代劇のお仕事が増えた実感があります。

──日本では中国ドラマと言えば時代劇のイメージが強いので、6対4という内訳を聞いて驚く人もいると思います。

小酒 本数はここ数年で増えていても、どうしてもプッシュされるのは時代劇なので、現代劇は日本に入ってきていることすらほとんど気付かれていない作品もある(苦笑)。まだまだ多くの人に認知される段階には至っていないのかもしれないですね。

──今後日本で中国の現代劇が存在感を増していくことが考えられますが、そんな中「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」「シンデレラ・プロセス~私を輝かせる恋と夢~」という注目作を観ていただきました。

島田 「月光変奏曲」は1話目からテンポがよくて、36話最後までダレることなくずっと面白いドラマなのがすごい! ジョウ・チュワンとチュー・リーが実はSNSですでにつながっている友達で、チュー・リーがいつ正体に気付くんだろうというドキドキな展開があったり、サブカップルの恋も物語に深みを与えていて。さらに思わず泣いちゃうような物語も用意されている。仕掛けが盛りだくさんですぐ続きが観たくなってしまいました。

「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」

「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」

──動画サイトiQIYIで9.3という高評価を獲得している(2022年5月19日時点)のも納得の面白さでした。

島田 ラブコメとしての楽しさもありつつ職業ドラマとしてしっかり描かれているのが中国では好意的に評価されたようなんです。チュー・リーが上司と衝突しながらも奮闘する姿、仕事でピンチを切り抜ける姿に共感したという声が多かった。よくある俺様主人公と甘えん坊ヒロインという組み合わせじゃなく、チュー・リーがプロ意識が高くて有能な編集者というのも高評価のポイントでした。

──ディン・ユーシーとユー・シューシンがタッグを組んでいるということで、日本上陸前から気になっていたユーザーも多かったと思います。

島田 「花の都に虎(とら)われて~The Romance of Tiger and Rose~」でディン・ユーシーを好きになった人はこの作品は必見です! 彼の魅力が全開! びしっと決めたスーツスタイル、寝起きのパジャマ、さらにラブリーなエプロンを付けて家事に奮闘したり(笑)。七変化を観ているだけでも楽しい。個人的には作家モードに入ったときの眼鏡姿が好きでした。

ディン・ユーシー演じるジョウ・チュワン。

ディン・ユーシー演じるジョウ・チュワン。

島田 ジョウ・チュワンは表向きは優しい貴公子だけど素顔はナルシストな困ったちゃんで、イケてる作家先生と子供のようなギャップがとってもかわいいですよね。彼のもう1つの顔であるSNS上のキツネは青臭かったり、ピュアだったりする彼の本質の部分が垣間見えるキャラクター。いろんな面を持った主人公をディン・ユーシーがころころ表情を変えて演じていてすごくチャーミングでした。シリアスなシーンももちろんうまいんですが、ディン・ユーシーってジム・キャリーを彷彿とさせるというか、ぶち抜けたコメディセンスがありませんか?

小酒 目の表現が豊かなんですよね。目力がある。彼は上海戯劇学院の出身なんですが、監督科を出ている。趣味も陶芸だったり芸術家っぽいところがあって、我が道を行く個性派なところもいいなあと。

──一方のチュー・リーをガールズユニットTHE9(すでに活動期間は終了)のメンバーとしても知られるユー・シューシンが演じています。

島田 チュー・リーは一見かわいらしいほんわか女子なんですけど、実は誰よりも機転が利いて大人でプロフェッショナルな精神の持ち主ですよね。最初はジョウ・チュワンと契約したいから媚び売ったりもするんですけど(笑)、いつしか母親みたいな頼もしさも持つようになってしっかり彼を支える存在になっていく。愛らしさと強さ、情熱を持ち合わせた魅力的なヒロインでした。

ユー・シューシン演じるチュー・リー。

ユー・シューシン演じるチュー・リー。

小酒 小説の編集者だと作家と会社の板挟みになることがあると思うんですが、そういうときに編集者の鏡!という対応をしてくれるんですよね。仕事ができるヒロインってクールで愛想が振りまけないタイプに描かれがちですけど、チュー・リーはすごく甘え上手というのが新鮮。あざとかわいいキャラって視聴者に嫌われてしまう危険もあると思うんですが、そこをちゃんと愛されヒロインにしてしまうユー・シューシンはやっぱりすごい!

──キャラクターの魅力はもちろんですが、本作には胸キュンポイントも満載でした。

島田 ジョウ・チュワンとチュー・リーの初恋モードカップルもジアン・ユーチョンとグー・バイジーの大人なカップルもどっちもくっつきそうでくっつかずじれキュンですよね。キスしそうでなかなかしない……という(笑)。

「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」

「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」

小酒 同居もののラブコメって中国にもたくさんあるんですけど、この作品は特に、ソファで何気なく仕事についてしゃべっているシーンでも、キッチンで一緒に料理したりするシーンでも、2人の関係性が密接な印象でした。社長とアシスタントとか、何らかの上下関係があって契約結婚した2人といった設定と比べると、作家と編集者という組み合わせは1つの作品を作るために二人三脚で前に進んでいる感じがあって、精神的にとても近い。

「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」

「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」

「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」

「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」

島田 今までなかった新たな“成長型カップル”ですよね。恋も仕事もうまく両立させる方法を2人で模索していく。そういうところが視聴者の心をつかんだ理由の1つかなと。

──よくあるラブコメだと思っていたらいい意味で期待を裏切られるかもしれないですよね。

島田 編集長のユー・ヤオもバイジーも今までだったら、ヒロインに意地悪したりマウント取ったり、嫌な女として描かれる立ち位置ですけど、それぞれ悩みを抱えていて、不器用で、魅力的に描かれていたのも新鮮でしたよね。バイジーとユーチョンというかつての恋人のファッションがさりげなくリンクしている演出も憎かったり。

──この作品はどんな方にお薦めしたいですか?

島田 何よりディン・ユーシー、ユー・シューシンの魅力があふれているので、2人のファンには観てほしい! ひたすらディン・ユーシーを愛でたい!という方は必見です。過去に挫折したり、信念を貫けなかったことに後悔しているというキャラクターがそれぞれのやり方で新たに進む道を見つけていく様子が丁寧に描かれてるので、何か人生の突破口を見つけたいと思っている人にもよい刺激になると思います。

「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」

「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」

小説を読むように楽しめるドラマ(小酒)

──小酒さんには「シンデレラ・プロセス~私を輝かせる恋と夢~」を観ていただきました。

小酒 日本のトレンディドラマを彷彿とさせるドラマですよね。都会に生きる男女の群像劇というところは「男女7人夏物語」みたいですし。物語は親が決めた結婚から逃れるためヒロインのリウ・ウェンジンが農村から上海にやってくるところから始まるんですが、正直彼女がスマホも使えない設定に最初はびっくりして。しかもそんなウェンジンをチャン・ティエンアイが演じているって、どういうスタンスで観ればいいの!?って(笑)。

「シンデレラ・プロセス~私を輝かせる恋と夢~」

「シンデレラ・プロセス~私を輝かせる恋と夢~」

島田 あははは。私はテンセントの配信で観ていたんですけど、「農村出身ですけど、こんな人いません!」「いつの時代の話!?」っていう弾幕が流れていて、中国の視聴者もツッコみながら楽しんでいましたよね(笑)。

小酒 そう、確かにツッコミどころはあるんですけど、でもじっくり観ているうちにハマっていきましたね。1話だけ観て挫折しないでほしい!

一同 あはははは(笑)。

小酒 このドラマはセリフに頼るシーンが少なくて、行間を読ませる作品。登場人物の表情を観ながら視聴者がその心理を考えるような演出になっていると思うんです。例えば冒頭ではウェンジンはジアオショウが好きなことを自分でも気付いていないんですが、彼女の表情を追っているとほかの男性に向ける笑顔とジアオショウに向ける笑顔が最初からまったく違う。そんなさりげない演出の積み重ねで進んでいくので、小説を読むように楽しめるドラマなんです。

──確かに! 自分の心理を説明するようなモノローグは使われていない印象です。

小酒 友達に心の内をなんでも話したりというようなよくある手法も使われていないんですよね。惹かれ合っているのに不器用すぎてうまくいかないウェンジンとジアオショウの10年にわたる恋模様を、作り手が真摯に描いた究極のじれキュンドラマ。ヒロインの前にいろんな男性が現れて、彼女の恋の経験値も上がっていくんですが、でも運命の相手は誰?というのが見どころで。コーティングはロマンティックなラブストーリーではあるんですけど、甘いだけじゃなくて、ビターで切なくて、リアルに心に刺さる群像劇でした。中国での評価を見ると「自分にもこんな友達がいたな」「都会で働くって大変だよね」というように、自分の経験と重ねて共感する同世代の視聴者がけっこういたみたいなんです。

「シンデレラ・プロセス~私を輝かせる恋と夢~」

「シンデレラ・プロセス~私を輝かせる恋と夢~」

──このドラマの注目ポイントの1つは、ヒロインを10年間一途に思い続けるジアオショウを「旦那様はドナー」「鳳舞伝 Dance of the Phoenix」などで日本でも人気が上昇しているシュー・カイチョンが演じていることです。

小酒 時代劇だと御付きの人がいますが、これは現代劇なので1人部屋の中でお酒を飲みながら悶々としているシュー・カイチョンが堪能できます(笑)。

「シンデレラ・プロセス~私を輝かせる恋と夢~」

「シンデレラ・プロセス~私を輝かせる恋と夢~」

一同 (笑)

小酒  ジアオショウは“中国ドラマあるある”で、優秀なのに大物の父親との不和でコンプレックスがあるという役ですよね。正直、素直じゃないし面倒くさいタイプなんですが(笑)、ほかの男性キャラにはない彼の魅力ってなんだろう?って考えたときに、本当の意味での優しさを持っているところだと思ったんです。ウェンジンは世間知らずで、不適切な行動をしたりするんですが、周りは見て見ぬ振りをしたり、かばったりする。でもジアオショウだけは彼女のために厳しいこともはっきり言うんです。

──そんな彼だからこそウェンジンにとってずっと特別であるという説得力がありましたよね。

小酒 そうなんです。仕事を一生懸命がんばって自立した女性になりたいというウェンジンをジアオショウだけが理解している。彼女が出会うほかの男性はただ彼女を守ってあげたいとか、彼女にはいつまでも自分を癒やす存在でいてほしいといった気持ちが強いんですが、ジアオショウは彼女の夢をサポートしてくれて、一緒に歩んでくれる人。そこが魅力的でした。

──「月光変奏曲」と「シンデレラ・プロセス」はそれぞれ毛色の違う作品ですが、ヒロインが上海で夢を叶える姿を描くというのは共通点でした。

小酒 「シンデレラ・プロセス」のウェンジンは素直でまっさらでまっすぐ。中国ドラマには珍しく、勝気なキャラじゃないので、変なエロオヤジにも言い寄られがちで……。

「シンデレラ・プロセス~私を輝かせる恋と夢~」

「シンデレラ・プロセス~私を輝かせる恋と夢~」

島田 悪の道に行っちゃったらどうしよう?と心配でした(笑)。

小酒 そうなんですよね。いつの間にか社長とかの愛人になって、豪華マンションに住まわせてもらって……という展開もありそうなものですが(笑)、彼女はずっと自分を見失わずにピュアなままなのがすごい。大学受験して、地道にがんばりますし、御曹司と付き合ってもセレブ妻に落ち着こうとせずに自分自身の道を見つけようとする。そんな姿も応援したくなりました。

──この作品はどんな方にお薦めしたいですか?

小酒 現実逃避できるうきうきのラブコメもいいけど、ちょっとリアル路線でじっくり男女のラブストーリーを楽しみたいという人にはお薦めですね。

「シンデレラ・プロセス~私を輝かせる恋と夢~」

「シンデレラ・プロセス~私を輝かせる恋と夢~」

島田 ヒロインが上海でのし上がっていくサクセスストーリーですが、だからといってガツガツしている女性じゃないので、ほっこりしたい人にはいいかもしれないですね。

中国の恋愛ドラマは付き合ってから巻き起こる諸事情を細かく描いている(島田)

──お二人は長年中国現代劇を観てきたと思いますが、日本の恋愛ドラマとの違いはどんなところにあると思いますか?

島田 日本の恋愛ドラマは2人が結ばれるまでの過程をメインに描くことが多いと思うんですが、それに比べると中国の恋愛ドラマは付き合ってから巻き起こる諸事情、例えば両親への紹介とか、周囲に認められるまでの奮闘とか、そういう描写を細かく描いているなと思います。付き合うまでも大事だけれど、その後の2人が人生をどう完成させていくかというところを重要視しているイメージですね。

小酒 日本の地上波のドラマはだいたい10話前後。付き合うまでの過程を丁寧に描いた場合、付き合ったあとまでじっくり描けないですけど、中国のドラマは24話から40話ぐらいあるので脇役のエピソードも含めて、詳しく描けるのかもしれないですね。そういう意味で見応えがあります。

島田 付き合ったあとの描写も多いからか、最近はやたらキスシーンが多いなと(笑)。

小酒 イチャイチャとキスシーンはなぜこんなに多いんだろう?と思いますよね。

島田 付き合ったら堰を切ったようにキスしますもんね(笑)。

一同 あははははは(笑)。

小酒 中国ドラマでは「さあ! キスシーンですよ。ご覧ください!」というものだけじゃなく、日常のさりげないスキンシップとしてのキスもたくさん描かれますよね。最近、シャオ・ジャン主演の「余生、請多指教 The Oath of Love(原題)」を観たんですが、あれも軽いものまで含めたら何十回もキスしてました(笑)。

──「月光変奏曲」もかわいらしいキスシーン満載でしたよね。

島田 今まではどちらかというと夢物語な現代劇が人気だったのかもしれないですが、日常に寄った共感度の高い作品がどんどん出てきていますよね。「月光変奏曲」はファッションもインテリアも洗練されていて、内容も恋愛に偏らず、お仕事もリアルに描いていて、物語そのもののクオリティが高い。こういうドラマをたくさんの人に観てもらうと、中国の現代劇って面白い!と注目が集まるんじゃないかと思います。

「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」

「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」

小酒 昔から中国ドラマを観ている人も、現代ドラマはちょっと……と食わず嫌いでいる人もいると思うんです。でもここで1回観てほしい! 中国はテレビドラマだけじゃなく、Webドラマの市場も大きいのでクリエイターがいろんなジャンルに挑戦できる土台がある。その中からぜひお気に入りの作品を見つけてもらえたらいいなと思います。

プロフィール

小酒真由子(コサカマユコ)

フリーライター。アジアから欧米までドラマについて執筆。「韓国TVドラマガイド」(双葉社)にて「熱烈推薦!! 中華ドラマはこうハマる!」を、Cinem@rtにて「アジドラ処方箋」を連載中。また、執筆・編集協力のぴあMOOK「2022年 見るべき中国時代劇ドラマ」も発売中。

島田亜希子(シマダアキコ)

中華圏を中心としたドラマ・映画に関して執筆するほか、中文翻訳もときどき担当。Cinem@rtにて「中国時代劇トリビア」「中国エンタメニュース」を連載中。「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」(キネマ旬報社)「見るべき中国時代劇ドラマ」(ぴあ株式会社)「中国ドラマ・時代劇・スターがよくわかる」(コスミック出版)などにも執筆している。

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「月光変奏曲」VS「シンデレラ・プロセス」

「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」1話特別公開中

スタッフ / キャスト

監督:チャン・ボーユー(張博昱)
出演:ディン・ユーシー(丁禹兮)、ユー・シューシン(虞書欣)、ヤン・シーゾー(楊仕澤)、マー・インイン(馬吟吟)ほか

公式サイト

「シンデレラ・プロセス~私を輝かせる恋と夢~」1話特別公開中

スタッフ / キャスト

監督:ワン・ウェイ(王為)
出演:チャン・ティエンアイ(張天愛)、シュー・カイチョン(徐開騁)、ガオ・ジーティン(高至霆)、リー・ムーチェン(李沐宸)、ション・ランシー(盛朗熙)、ヤン・ティンドン(楊廷東)ほか

公式サイト

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