「月刊 松坂桃李」松居大悟・沖田修一・齊藤工にインタビュー、3人の映画監督が松坂桃李の“妄想”に挑む (2/3)

沖田修一インタビュー
沖田修一

松坂さんの悪ふざけを忠実に表現

──今回の企画を最初に聞いたとき、どのように感じましたか?

面白そうだなと思いました。松坂さんはすごくいい方だけど、この企画にはどこか悪ふざけがある。その悪ふざけの感じが気持ちいいので、僕も乗っかりたいなと思って「ぜひぜひ」と参加させてもらいました。

──沖田さんが映像化したのは「ダンディ・ボーイ。」。大筋は「妄想・松坂桃李」の時点でできあがっていましたが、このストーリーの面白さをどこに感じましたか?

ヒーローマンガを描きたいと思っていた主人公が実際に誰かのヒーローになる、というストーリーはベタだなと思ったんですが、ちゃんと皮肉も効いていて。映画として完成度の高い状態だったので、松坂さんは妄想の段階でどこまで考えていたんだろうと感心しました。

「ダンディ・ボーイ。」ポスタービジュアル

「ダンディ・ボーイ。」ポスタービジュアル

──撮影前、松坂さんとはどのような話をされましたか?

基本は任せてもらいました。実は僕、十数年前に松坂さんと雑誌で対談をしているんです。その記事を探して読み返したら、僕が「(掃除用具の)コロコロを使っている松坂さんを撮りたい」「ちまちましている松坂さんを撮りたい」みたいなことを言っていた。だから今回はそれを実現させようと思いました。

──対談はしていますが、沖田監督が松坂さんと一緒に作品作りをするのは今回が初。俳優としての松坂さんの印象はどのようなものでしたか?

松坂さんはすごくやわらかくいろんなことを受け止めてくださるんですよ。「とりあえずやってみようか」って。僕に合わせてくれているのか、もともと松坂さんがそういう方なのかわからなくなるくらい、優しい方でした。

沖田修一

沖田修一

──では松坂さんが演じる吉男はいかがでしたか?

あの見た目で、うだつの上がらない役というのはギャップがあってよかったですね。しかも松坂さんが演じるとイメージ通りというか。そもそも松坂さんが考えたものですから当たり前なんですけど(笑)。しっくりきた感じがありました。「妄想・松坂桃李」では緑のジャージを着ていたので、作品でも同じような衣装を着てもらって。あと、「妄想・松坂桃李」でたい焼きを食べていたので、そこからたい焼き屋のシーンを膨らませました。わりと原案通りです。「原案」と言うのが合っているかわからないですけど(笑)。松坂さんの悪ふざけを忠実に表現しました。

──ちはる役は芳根京子さん、組長役は光石研さん。そのお二人のキャスティングはどのような経緯で決まったのでしょうか?

ショートコンテンツとは言いつつも、いろいろな人といろいろな場所が出てこないと面白くならないと思って、ダメもとでヒロイン役に芳根さんに声を掛けさせてもらいました。そしたら面白がってくれて。光石さんとは昔、長編を一緒に作ったんですが、またやりたいなと思っていたので、いい機会になりました。お二人ともケラケラ笑いながら現場にいてくれて。素敵でしたね。

「ダンディ・ボーイ。」より、松坂桃李演じる吉男(左)と芳根京子扮するちはる(右)

「ダンディ・ボーイ。」より、松坂桃李演じる吉男(左)と芳根京子扮するちはる(右)

「ダンディ・ボーイ。」より、光石研演じる組長

「ダンディ・ボーイ。」より、光石研演じる組長

──今回「ダンディ・ボーイ。」を映像化するにあたって大切にしたのはどのようなことでしたか?

松坂さんのやりたいことを一緒にやれたらいいなと思ったので、松坂さんが最初に考えた「ダンディ・ボーイ。」の世界観は崩さないようにしました。

──そのためにしたことはありますか?

完成形は数分のショートコンテンツですが、映像では描いていない部分も含めた全体像の台本を書きました。全部撮ったら40分くらいの作品になるくらいの。あとはコンテンツ内で使ったマンガも、全部ちゃんと描いてもらいました。どういうストーリーで、どういう登場人物が出てくるかまで、マンガ家の方と打ち合わせをして。そういうことをしないと、この世界観を忠実に再現できないと思った。できあがったコンテンツは数分なので、ハイリスクローリターンですけど(笑)。

──ローリターンではあったかと思いますが(笑)、この作品を撮ったことで沖田監督はどういったものを得られましたか?

それこそ松坂さんや芳根さん、光石さんと作品作りをしたこと。その機会が作れたことがとてもうれしかった。ショートコンテンツとはいえ、せっかく撮影をするならちゃんと映画を撮っている雰囲気で俳優さんと仕事をしたほうが今後につながるだろうと思ったから。だからまた違う機会に、皆さんとご一緒できたらうれしいなとたくらんでいます。

沖田修一

沖田修一

──今回、十数年前の「コロコロを使う松坂さんを撮りたい」という願望が実現したわけですが、次に松坂さんの出演作を作るなら、どのような作品や役柄にしたいですか? 現時点での“妄想”を教えてください。

なんだろうなー。今回はやわらかい松坂さんで、ほっこりした作品を作ろうという企画だったので、次はかっこいい松坂さんを撮りたい。銃で人を撃ち抜くような。なんなら死体に向かって撃つくらいの松坂さんを見たいですね。

プロフィール

沖田修一(オキタシュウイチ)

1977年8月4日生まれ、埼玉県出身。「鍋と友達」で第7回水戸短編映像祭グランプリを受賞し、2006年に「このすばらしきせかい」で長編監督デビュー。主な監督作に「南極料理人」「キツツキと雨」「横道世之介」「滝を見にいく」「モヒカン故郷に帰る」「モリのいる場所」「おらおらでひとりいぐも」「子供はわかってあげない」「さかなのこ」「連続ドラマW 0.5の男」などがある。

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