ドラマ「FARGO/ファーゴ:カンザスシティ」特集|コーエン兄弟作品から着想、シリアスとユーモアがちりばめられたブラックコメディ

犯罪ドラマシリーズ「FARGO/ファーゴ」の最新作となる第4シーズンが、1月29日からAmazon Prime Video「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」で日本独占配信されている。ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン兄弟による映画「ファーゴ」にインスピレーションを受けて製作され、製作総指揮にも彼らの名が並ぶ本シリーズ。シーズン4「FARGO/ファーゴ:カンザスシティ」では裏社会で対立する黒人犯罪組織とイタリア系マフィアのせめぎ合いが描かれる。

映画ナタリーでは前3シーズンをおさらいしながら、アメリカ史を紐解くヒントにもなる最新作の見どころを解説する特集を展開。海外ドラマに造詣の深いライター・前田かおりが映画版とドラマ版の比較や、第4シーズンのスタッフ・キャストが語る本作の注目ポイントについて紹介してくれた。

コラム / 前田かおり

「FARGO/ファーゴ」シリーズの魅力とは?

着想元となったコーエン兄弟の映画「ファーゴ」

「ファーゴ」(写真提供:Gramercy Pictures / Photofest / ゼータ イメージ)

「ノーカントリー」などで知られるジョエル・コーエン&イーサン・コーエン兄弟が1996年に監督した「ファーゴ」。狂言誘拐を巡って巻き起こる悲喜劇をブラックユーモア満載で描いたクライムサスペンスで、第69回アカデミー賞脚本賞を受賞。主演したフランシス・マクドーマンドは主演女優賞に輝いた。ドラマ「FARGO/ファーゴ」は、そんな傑作映画に着想を得ながら、まったく新しいストーリーが展開されるテレビシリーズだ。シーズンごとに異なるキャラクターで1つの物語を完結させるアンソロジースタイル。だが、どのシーズンを観ても、これぞ「ファーゴ」と思わせる世界観を引き継いでいる。それが、一度ハマると止まらなくなる「FARGO/ファーゴ」の魅力なのだ。

クリエイターは「BONES ―骨は語る―」で知られるノア・ホーリー

1950年ミズーリ州カンザスシティを舞台に黒人犯罪組織とイタリア系マフィアの攻防を、独特のブラックユーモアとともに描く犯罪ドラマ「FARGO/ファーゴ:カンザスシティ」。手がけているのは、これまでの全シーズンのクリエイターを務めてきたノア・ホーリー。大ヒットドラマシリーズ「BONES ―骨は語る―」などの脚本家として成功を収め、作家としても名を馳せている才人であり、ドラマ「レギオン」でも高い評価を得ている。本作では脚本・監督・製作総指揮を兼任し、キャスト、スタッフからの信頼も厚い。そして、本シリーズにインピレーションを与えたコーエン兄弟もシーズン1から引き続き、製作総指揮として名を連ねている。

マーティン・フリーマンはじめ、全シリーズに豪華キャストが集結

「FARGO/ファーゴ」シーズン1より、マーティン・フリーマン演じるレスター。(写真提供:FX Network / Photofest / ゼータ イメージ)

本シリーズといえば、個性的なキャラクターを演じる豪華キャスト陣も魅力だ。シーズン1では「SHERLOCK/シャーロック」や映画「ホビット」シリーズなどで大人気の英国俳優マーティン・フリーマンに演技派俳優のビリー・ボブ・ソーントン、以下シーズン2ではキルスティン・ダンスト、シーズン3ではユアン・マクレガー。主演俳優を見ただけでもハリウッド大作でおなじみのスターぞろい。そんな彼らがうだつの上がらない中年男やどこにでもいそうな地味な主婦に扮しているなど、キャスティングの妙が光る。

第4弾である本作の顔ぶれも、超ユニークだ。主演のクリス・ロックは「リーサル・ウェポン4」などにも出演したコメディアンとして知られるが、今回は彼の持ち味であるマシンガントークやハイテンションな演技は封印して、黒人犯罪組織のボスを重厚に演じる。一方、イタリア系マフィアの長男を演じるのは「グランド・ブダペスト・ホテル」などウェス・アンダーソン監督作の常連俳優ジェイソン・シュワルツマン。さらには、複数の組織間でトレードされて育ったアイルランド系のヒットマンを「007」シリーズのQ役で人気のベン・ウィショー、また脱獄囚を追ってやってくる保安官を「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のティモシー・オリファントと、演技派俳優たちが一癖も二癖もあるキャラクターに挑戦。「FARGO/ファーゴ」だからこそ出会える彼らの新たな魅力にもぜひ注目してほしい。

実は最新作がエピソード1?

ドラマ「FARGO/ファーゴ」にはノースダコタ州ファーゴや、その付近の地域が多く登場。季節は冬で、シーズン1は2006年、シーズン2は1979年、シーズン3は2010年、そして、シーズン4にあたる「FARGO/ファーゴ:カンザスシティ」は1950年の出来事が描かれる。シリーズ最終作とも言われる今回は、1950年というシリーズの中でもっとも古い年代で、カンザスシティでのギャング抗争を通して移民や人種差別といったアメリカの歴史や社会問題を描写。まさにそれはブラック・ライブス・マター運動が広がる今の時代を反映している。この物語で鍵を握るキャラクターに扮したウィショーは「『FARGO/ファーゴ』はアメリカ史を掘り下げる作品だ」とまで絶賛。もし本シリーズを未見であれば、時代設定の順にシーズン4をエピソード1と考えて観始めてみるのも面白いだろう。

「FARGO/ファーゴ:カンザスシティ」

コーエン兄弟の遊び心を継承!

ホーリー曰く、「名作映画のリメイクでも続編でもない。その世界観を引き継いだブラックコメディだ」というドラマ「FARGO/ファーゴ」。シリーズの中でも、シーズン1の物語は映画に似ているが、時代設定は違うし、舞台はミネソタ州であっても別の町。だが、映画との絶妙なリンクがあるなど、映画ファンの心をくすぐる遊びがある。映画版とのつながりだけでなく、シーズン1で登場した警察副署長モリーの父親ルーがシーズン2では若き日の姿で登場するなど過去シーズンとのつながりをにおわせる箇所も多々。何より全シーズン、ごく平凡な人間が些細なことからトラブルに巻き込まれて、気が付けば大きな事件、犯罪にエスカレートしていくという筋立ても共通している。またシリアスとユーモアという相反する要素が絶妙にまぶされ、のっぴきならなくなった主人公には苦笑させられてしまう。また「FARGO/ファーゴ」といえば、映画版と同じく「この物語は実話に基づく」のテロップから始まるため、実際に実話だと思っている人もいるようだ。だが、そもそもこれはコーエン兄弟お得意のジョークであり、もちろん物語はフィクション。聞けば、ホーリーの脚本の1編を読んだコーエン兄弟は「僕らの考えを透視したのか?」と驚いたことがあったそうだが、それほどコーエン兄弟ラブのクリエイターの手による作品だけに、遊び心まで継承していると言っていいだろう。